記憶の友達3
「おいおい、蓮。オレたちを怖がらせてーなら、もーちっとマシなのにしろよ」
「そーだよ。そんなんじゃ子どもの莉緒しか怖がらせられないって」
二人は笑い交じりで呆れた様子だったが、俺は別にそういうつもりじゃない。そもそも今の話をしてるわけじゃない。
「俺ら以外にもここに居たんだ」
しかも奇妙な事にたった今、頭に浮かんできた映像に居た少年はたまに見るあの夢の知らない少年だった。
「これはそいつの」
真剣な表情のまま手に持っていた懐中時計を二人に見せるように上げたからか、二人の笑みも段々と姿を消し始めた。そしてもう一度、二人は顔を見合わせる。
「何言ってんだ? ここはオレたち三人が作って誰にも教えないって決めてただろ」
「そうそう。僕はそれ破ってないよ。両親にもお姉ちゃんにも言ってないし」
「オレも誰にも言ってない」
「俺だって言ってない」
「じゃあ一体誰だって言うんだよ?」
「知らない。だけど確かにそこに座って俺らと話しをしてた」
俺の指を差した方を二人は見遣るが当然ながらしっくりとは来てなかった。
「じゃあこれは? 誰のなんだよ?」
「さぁ? 誰かが持って来たの忘れてるだけなんじゃない?」
「だって覚えてないはずねーもんな。そんな奴がいたら」
うんうん、と頷きながら夕晴は俺の手から懐中時計を取った。だが俺の時みたいに何かが起こる様子もなく依然と知らないと言うような表情でその懐中時計を眺めてる。
二人のその様子は、俺が一人おかしくなってしまったかのようで本当に知らないというもの。それを見ていると俺自身も段々、たまに見てるあの夢の所為で変に頭が混乱しただけなのかもしれない。そう思えてきた。もしかしたらさっきの頭に浮かんできた映像も忘れてるだけで夢で見た事があるのを偶然思い出したのかもしれない。
「――いや、悪い。昨日見た夢を変に思い出しただけかもしれないわ」
「夢? どんな?」
俺は懐中時計を手にした莉緒の問いかけに対して夢の内容を話した。
「知らない少年と知らない少女ねぇ」
「うっわー。何だそれ。こわっ」
「やっぱり僕は三人でここにいた事しか覚えてないかなぁ」
「オレも」
「だからただの変な夢だっただけだよ。それをたまたま思い出しちまっただけで。悪かったって」
「でもこれだけ誰のかみんな覚えてないっていうのも変な話だよね?」
夕晴の手から莉緒の手へ移る懐中時計。
「子どもの頃の事だしな。覚えてない事もあるだろ」
「だけど他のは全部みんな自分が入れた物を覚えてるんだよ? なのにこれだけ。もっといくつかあったら分かるけど」
「じゃーホントに蓮の夢の通りオレたちの覚えてない少年がいたって事か? ホラーじゃねーか」
「たまたまここを見つけた子とか。丁度、これに物を入れてる時でその一回しかここに来なかった。だから忘れちゃってて入れた物だけが残ってる」
「流石にそんな奴いたら覚えてるだろ。印象強いし」
「んー。だよねぇ」
「まぁ別にいいだろ」
俺はそう言って莉緒の手から懐中時計を取った。
「思い出せなくても何か支障がある訳じゃないし。それにこれが誰のだってここに入れた時点で短くても大人になるまでは返ってこない事を承知だっただろうしな」
元はと言えば俺が変な事言った所為だが今はもう深くこの事に頭を悩ませる必要も無い。そう思ってた。
「そーだな。それにこれって本来なら大人になったら開けるって言ってたもんな。ちょっと早く開け過ぎたかも」
「じゃー戻せばいいじゃん」
そう言うと夕晴は自分が入れた物を缶の中へ。
「それにもし本当にそんな少年がいたとしたら大人になった時にここへくるかもしれないし」
「確かに。じゃあ――」
夕晴は何を思い付いたのかカバンからメモ帳を取り出すと何かを書き始めた。そして俺らが自分の物を戻している間にササっと書き終えるとそのページを千切り一番最後に入れた懐中時計の上にそっと乗せた。
「ここから物を取る人はここへメッセージを。これでもしその少年が知らぬ間に来ても大丈夫」
そこに書かれていたのはLINEのIDだった。
「つーか、何でオレのやつなんだよ?」
「だって僕は毎日沢山の人から来るから」
「オレは来ないってか?」
「ほとんど来ないでしょ? 彼女と僕と蓮とあと数人だけ」
「じゃー蓮でもいいじゃんかよ」
「蓮はID設定してないし。それに見逃す可能性高いし。その点、莉緒はちゃんと返信するじゃん。しかもほとんど短時間で」
莉緒は俺の顔を見ると納得したように何度も頷いた。
「それで? もしそいつから連絡が来たら?」
「教えてよ。グループラインで」
「りょーかい」
「じゃあこれはこれでよしっと」
一件落着とは思えないが時間が経てば忘れるだろう。俺はとりあえずこの事は気にしないことにした。これからもあの夢は見るかもしれないがそれも今まで通りただの夢として気にしない事に。
「あっ、そういえばここの近くに川とかあったよね?」
「あったなぁ。そんなん」
「竿作って釣りした覚えあるわ」
「やった。やった。あとは普通に川遊びしたり。行かない?」
「お前結構ノリノリじゃねーか」
「ここに来たら懐かしくなっちゃったからね」
それからも俺らはその川や周辺を久しぶりに見て回った。つい昨日の事のように思い出せる事もあれば全く覚えてない事も。でも複数で共有した思い出は、誰かが覚えてて自分が覚えてないモノでさえ不思議と懐かしくなる。すぐに味わえる楽しいや嬉しいとは違い、長い時間を掛けないと味わえない懐かしいという感情。時には辛かった記憶でさえ自然と笑みを零れさせてしまうそれは、朗らかな感覚で包み込む魔法のようなものなのかもしれない。
だけどその都度、やっぱりピースが欠けたような何かを忘れてるような感覚にも襲われた。それが本当にそうなのか、単に今日は意識し過ぎてそう感じてるだけなのかは分からない。
でもその感覚は結局、最後まで付き纏い俺はどこかもどかしいような気分のまま帰宅する事になった。
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