帰着

長船 改

帰着


『我々人類は、この母なる星にとっては癌であったようだ。いつかこの星が、元の美しい緑ある星へと還る事を夢見て、我々は新天地へと旅立つことにしよう……。』


 本の最後にはそう記されてあった。

 

 ここは我々の調査範囲からもっとも遠く離れた星だ。便宜上「太陽系第3番惑星」と名付けられている。太陽系の他の惑星には文明のかけらも残ってはいなかったが、この第3番惑星だけはどうやら違ったようだ。

 永久処理を施されたこの本は、文明の滅亡からおそらく数千年……ややもすると一万年経ったかもしれないこの星にあって、新品同様の品質を保っていた。

「もしかしたらこの本を遺した人間は、自らの歩みをこの星に遺しておきたかったのかもしれないな。」

 私の呟きが聞こえたのか、傍らにいた若い隊員がぷっと噴き出した。彼は本の解読のために使った言語翻訳機を片付けていた。

「ノスタルジーですか、隊長?」

 多くの隊員は、自分に故郷の星があったという事を信じようとしない。私のような考えの方がむしろイレギュラーなのだ。

「君からすれば、私はロマンチストなのだろうな。」

「いいえー。隊長くらいの年齢になってもロマンは持っていたいもんですよ。」

 でもね、と若い隊員は続ける。

「彼らは馬鹿ですよ。新天地へと旅立つだって? そんな事で星が生き返るわけないじゃん。彼らだって星の一部だったんだし、生き返らせたかったのなら、ちゃんと星に残って務めを果たすべきだったんですよ。」

 非常に手厳しい意見だったが、それも “自分たちに故郷の星などない”という彼の信条が言わせるものである。

 そして私は彼の言葉の裏側に、怒りに似た感情が含まれている事に気付いていた。なにせ我々は、定住可能な惑星を求めてそれこそ何代、何十代にも渡って銀河を彷徨い続けているのだから。

 私は苦笑しながら頷いた。

「そうだな。彼らの文明がそこまで発達していたかどうかは分からんが、少なくとも選択を間違えたという事については同意だ。」

 

 我々の眼下には、荒涼とした大地がどこまでも広がっていた……。

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