40話 愛! ラブ! 愛!



 俺は女体化したもう一人のチャラオに言う。


「貴様……ふざけてるのか!」


 女となった俺は、髪の毛が長く、背も高い、ハスキーボイスのナイスバディになっていた。


「大真面目さチャラオ……いや、チャーコ!」

「やはりふざけてるだろ貴様ぁああああああああああああ!」


 チャーコが俺に殴りかかってくる。

 だが俺はその腕をとり、関節技を決める。


「く……!」

「その非力な体では、腕力で俺にはかなわないぞ!」


「こ、殺せぇ……! だ、誰が好き好んで、自分と性行為をしなきゃいけないのだ! 気持ち悪いだろう!?」


「いや……気持ち悪くない! 自分との説得ワカラセは……実質オナニーだから!」


「貴様がきもいわ!」


 こうしてみると口の悪い女子みたいでそれはそれで……たぎる!


「俺と勝負したいのならベッドの上でやるしかないぞ。腕力じゃかなわないんだからな」


「くそが……! じゃあもう殺せ! そこまでして生きたくない! どうせ……どうせ! 私はかりそめの命だ……!」


 やはり、チャーコに投げやり感があったのは、自分が模造品だからという意識があったのか。


「いいや、おまえを殺さない。俺は……おまえに生きる喜びを与える……!」


「生きる喜び……だと?」


「ああ」


 俺は関節技をとく。彼女は……俺に組み敷かれた状態で聞く。


「チャーコ……昔の俺は、何もわかっちゃ居なかった。二年目になり、この世界の運営から、主人公の役割を与えられて、それに準じようとしてた……それは、間違いだったんだよ」


 そう、それは間違えだ。


「俺たちは……生きてる。この世界に。一人の人間として。だから……役割なんて存在しないんだよ」


 主人公だからとか、主人公らしく、なんて……そんなのはいらなかった。


「思うまま、心のままに、生きて良いんだよ。この世界も……前にいた世界と同じさ。役割も使命もない。俺は俺の好きなように生きて言い。チャーコ、おまえも、おまえが思うように生きればいいんだよ」


 それが、この世界に来て学んだことだ。ヒロインを通して。


「…………」


 チャーコは押し黙り、目を伏せる。


「そんなこと……できないよ。私は……所詮貴様のコピーだ」


 じわりと涙を浮かべて彼女が言う。


「いや、チャーコ。おまえと俺は違う。だって考え方も違うし、それに性別だって違うじゃないか」


「けど……」


「なら……説得ワカラセだ!」


「いやなんでだよ!」


 なんだわかってないのか。


「かりそめの命というのは、確かにそうだ。おまえのこの世界での人権……まあアカウントか。アカウントの有効期限にはリミットがついてる」


 俺はアカウント権限を使ってそれを確認した。そう長く彼女はここにいられない。


「だが……もし、新しいアカウントを、おまえが取得したらどうなる?」


「新しいアカウント……?」


「ああ。つまり……子供だ! 俺の持つスキル【産土神うぶすながみ】を使って、おまえを最速で孕ませる……!」


 この最強スキルは、ただのエロスキルじゃない。新しい命を、最速で宿すことができるというもの。


 つまり、新しいアカウント作成を可能にするスキル。


「新しいアカウントが作成されたことで、おまえの持つアカウントの有効期限が延長する……!」


「……根拠は?」


「そんなものは、ない! だが、いかに神とは言え、直接この世界の人間を排除できないのだと思う。だって本当にそれができるなら、運営の邪魔をしている俺は、スイッチ一つでお手軽に消せるはずだろ? 修正プログラムの投与なんて、回りくどいやり方せずにさ」


「それは……」


「たぶん神のルールで人間を殺すことはできないんだ。新しいアカウントを宿した状態のおまえを消滅させれば、その新規アカウントを消すことになる。ルールに抵触する。だから……必然的におまえをいかさざるをえなくなる、と思う」


 ちなみに神が、今のチャーコを消せるのは、すでにチャラオαという個人が存在するからだろう……と思う。


 今のままでは、チャーコはチャラオレプリカに過ぎない。一人殺してももう一人がいればプラマイゼロ……みたいな。


 ふざけた考えだ。


「……そんなこと、したら。運営が怒るのではないか?」


 チャーコの顔に、迷いが浮かんでいる。


「しるか。見せつけてやろうぜ、俺たちの説得ワカラセを……大自慰行為を!」


「最低だな貴様は、まったく……」


 チャーコに俺は言う。


「おまえはどうなんだよ。一番は、おまえの意思だろ。生きたいのか? それとも……死にたいのか? 死にたいなら俺は止めない……でも、そうじゃないなら、言え。渋谷チャラオとしてではなく、おまえの個人の、今の思いを」


 道は示した。あとは、こいつがどう考えるか。


 長い沈黙があった。やがて、チャーコが口を開く。


「私は……」


 一度躊躇し、けれど……彼女は言う。


「生きたい……」


 ぽろぽろと涙をこぼしながら、チャーコが言う。


「消えたくない……私も、マイやアーネ氏、ママコ氏、フウキ先輩……そして、ナジミ。みんなと、一緒に、生きていたい」


 ……やっとこいつが本音を口にした。


「わかってるさ。おまえは俺だから」


 俺は彼女じぶんを抱きしめる。


「……貴様は、気持ち悪くないのか。もう一人、この世に自分が存在することが。自分自身と、性行為することが……」


 俺はニッ、とチャーコに笑いかける。


「ぜんっぜん! 俺は……この世界の全部を愛する! おまえも含めて……全員! まとめて! 俺が! 愛してやる!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 チャーコは目を丸くする、そして優しく微笑んでうなずいた。


「いくぞチャーコ! スキル【説得ワカラセ】、【産土神】発動ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 うぉおおおおおおおおおおおお!

 孕めぇえええええええええええええええええええええええええええええええええ!

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