魔法を使ったらSPが減るというやつでは?

「それで、どういう状況なのですか?」


 オリヴァーさんは私の寝室の窓辺で眉間にシワを寄せて聞いてくる。


 それは私も聞きたい。


 私はソファに座ってソワソワしている。隣には少年が退屈そうに座っている。


 どうしてこうなったかというと、それは一時間前のこと。


 私は寝室のベッドで横になった。夕方とはいえいつもは眠くならないのに今日はとても眠いし、体が重い。今までの疲れがきたような感覚。


 水晶玉を触ってから眠い気がする。

 これは、SFゲームでよくある魔法を使ったらSPが減るというやつでは?

 でも魔導具を使った魔法なら何回かあるけど眠くはならなかった。


 水晶玉と魔導具はなにが違うんだろう.....。ぼんやりとした意識の中で考えていたら「にゃー」と、猫の鳴き声がベッド下から聞こえた。


 あっ、そうだった。


 子猫を連れて寝室に入ったんだっけ。さっきから静かだったから居るの忘れてた。


 私は上半身を起こして足に擦り寄ってくる子猫を自分の頭より上の位置まで持ち上げる。簡単に言うと『高い高い』だ。


 それにしてもこの子猫、なんとなくイアン様に似てる気がする。

 実物は見たことないけどゲームのイアン様に雰囲気が似てる。そんな気がする。


 ペットとして飼えるか分からないけど、もし飼えたら


「イアン.....」


 と、名付けたい。だって彼に似てるんだもん。


「え、なに!?」


 子猫はイ・ア・ン・という名前に反応したと思ったら子猫の体が光り輝いた。そして、ボンッという音と共に子猫が一瞬のうちに人になった。


 白い髪に金色の瞳。全体的に顔立ちがスッキリしている。間違いなくイアン様だ。

 ゲームで見るイアン様よりも実物の方がイケメンって.....。


 って、なに考えてんの私。


 イアン様が子猫だった? いや、子猫がイアン様??


 え、どっち!?


 軽くパニックを起こしていると、コンコンとノックする音が聞こえた。オリヴァーさんが寝室の外に居るんだった。これはまずい!


 この状況を見られるのはやばい!

 ど、どうしよう.....。


「お、おい!?」

「何も言わないでください! とりあえず隠れて」


 今、イアン様に押し倒されてる状態。絶対に勘違いされる!


 必要に胸板を押したら腕をイアン様が掴んだ。


「待て、落ち着け」


 キィという音がして、まずいという気持ちが大きくなり、冷静な判断が出来なくなった私は、強引にでも隠そうとして思わず蹴ってしまった。男の子の急所を.....。


 イアン様は反射神経良い方だと思ってたけど、女だからといって油断してたのかは分からない。けど、急所を直撃してしまった.....たまたまだけど。


 そのおかげで私から身を放し、ベッドにうずくまった。

 ナイスだ! 私。


 今のうちにベッドの下に。


 そう思ってイアン様の体に触れた瞬間。


 ーーキィという音が聞こえて、私とイアン様は扉に視線を向けるとオリヴァーさんが唖然と私たちを見ていた。


 そして、静かに扉は閉められた。


 あれ、なんか大切なものを失ったようなこの気持ちはなんだろう。


「っ。てめ.....」


 痛みで涙目になっているイアン様。

 でも、謝ってる暇はない。


 ごめんなさいと心の中で何回も謝罪しながらイアン様の体を押そうとするがビクともしない。

 困った。どうしよう.....


 はっ、そうだ!


 私は自分の身は自分で守ろうとして、小型ナイフを隠し持っていたことを思い出して、小型ナイフを取り出した。


「いや、待て待て待て!」


 イアン様が青ざめている。死ぬわけじゃないのに青ざめなくても。


「大丈夫です。子猫サイズに体を切り落とすだけですので」

「いや、死ぬ! 死ぬからそれ」

「大丈夫です。優しくします。ちょこっと痛いだけで、その痛みもなくなりますよ」

「それ感覚無くなってる!」


 イアン様は私の腕を掴んだ。ナイフの刃がイアンの肌に触れるか触れないかのギリギリなところで止まっている。

 あとちょっとなのに、どうして止めるの!?


 人は心臓を傷つけなきゃ生きてられるわ。そんなことを漫画で見たもの。前世で、ハマりかけてたゾンビ漫画を。


 イアン様がなにか言いたそうにしているけど今は聞いてる余裕がない。

 今の私には、この状況をどうしよう。なんとかしないとという焦りで頭の中がいっぱいだから。


 そして再びキィという音がして、音がする方向を見るとオリヴァーさんが見ていた。


 あっ.....終わった。


 静かに扉が閉まると、イアン様は私から強引にナイフを奪った。


「いい加減にしろ! はねかえり娘」

「ちょっ.....、なにして」

「なにしてって、こっちのセリフだ。お前、本当にお嬢様かよ」

「お、お嬢様です.....。一応」

「ほぉ。お嬢様にしては元気がいい事で」

「うぅ.....」


 なにも言えない。怒ってる、絶対怒ってる。


「す、すみません」


 またやってしまった。今度はものすごい失態してしまった気がする。

 ああ、なんで私は困惑しすぎるととんでもない失態を繰り返すんだろう。


 謝っても許されること.....ではないんだけど。


「まぁ、話はあとだ。さっきの騎士が誤解してんだろ」

「は、はい!」


 イアン様は深いため息をついた。

 私はオリヴァーさんの元へ急いだ。


 と、まぁ。こんな感じで今に至る。




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