乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

第一章『令嬢』とは、私には遠い存在でしかありません

乙女ゲームの悪役令嬢

私はソフィア・デメトリアス。十歳。ミットライト王国のデメトリアス家の娘として大切に育てられた。


  娘としてとは、私が養女としてデメトリアス公爵夫妻に迎えられたから。

  公爵夫妻は血縁関係がない私にたくさんの愛情を注いでくれた。

 それがとても嬉しくて、いつか恩返しが出来たらと思っている。


 本当の両親は大魔術士として皇帝に仕えていたのだが、私が五歳の時に何者かに殺された。


 私は両親を目の前で殺されたショックで、当時の出来事を思い出すことができないでいる。

 何者かが私を誘拐しようとしたため、我が子を守ろうとして殺されたとか。


  その時に思い出してしまった。前世の記憶というものを。

  ようするに、転生者ということです。なんというか、ラノベかよと思わず突っ込まずにはいられない自分の状況に、現実逃避しそうになった。


  たくさんの情報が流れてきて、頭が割れそうでこのまま死ぬんじゃないかと思うほどの激痛のあと、高熱にうなされた。

  まだ幼い頭では刺激が強すぎたようで、それが数日間続いた。いや、もっとかかった気がするけどその辺は記憶が曖昧。

 思っていたよりも高熱がかなり辛くてそれどころではなかったんだもん。

 

  体調が落ち着いてから、私は侍女のアイリスから本当の両親のことを聞いた。

  だけど聞いたのは、事実とは違う。仕事で遠い国に向かってしばらく帰ってこないのだと。

 両親が殺されたと伝えるには、五歳の私にはまだ荷が重いと思ったんだろう。だから彼女は私のために優しい嘘をついてくれた。

  嘘をつかれるのは寂しいことだけど、温かい嘘もあるのだと前世の記憶を通して知っている。


 それならなぜ、嘘だとわかったのかって?


  それは、この世界が乙女ゲームの世界だから。

 どうやら私は、ゲームの登場人物の一人。 しかも、悪役令嬢としてこの世界に生を受けてしまったらしい。


  前世の私は、日本の母子家庭で育った。


 家族構成は、母と私と五歳離れてる姉が一人。父は、私が三歳の時に他界している。

  母は私に無関心で、常に姉をかわいがっていた。私は母が構ってくれない寂しさから、中学の時に現実逃避してゲームの面白さにハマってしまった。

 ゲームオタクになった私を、母が冷めた目で見ていた。



 理解されないのは悲しい。それでも私は悲しさや寂しさを紛らわしてくれるゲームの存在が私の中では大きかった。

  イベントに行くのだってゲーム関係だった。お金は一年に一回、祖母や祖父からお年玉を貰えるのでそれでイベントに行っていた。

  高校一年の時、イベントに行く途中で交通事故にあった。その後のことは記憶にないからその時に命を落としたのだろう。


 話がズレてきたので戻すが、前世の時にハマっていた乙女ゲーム『クリムゾン メイジ』に近い世界観。いや、近いではなく、そのものと言った方が良いのかもしれない。

  『クリムゾン メイジ』のストーリーを簡単に説明すると、内気なヒロインが学園生活の中でメインキャラクターたちと仲を深めていく話だ。


  よくある話なのだが、絵柄が綺麗で、なによりもヒロインがかわいい! これはやらなくては! という使命感に駆られてやり始めたのがハマったきっかけだった。


  『クリムゾン メイジ』とは、深紅の魔術士という意味。

  魔術士という称号はなかなか手に入ることが難しい。

 魔法を使える者はたくさんいるが、自由自在に操ることが困難とされる。そのため、魔法石をはめ込んだ魔導具をつけて発動する。

 人によっては魔法石をペンダントにして持ち歩いてる人もいる。

  魔術士の称号を持つ者は自由に魔法を使えてしまう。その中でも特殊な力を持つ者は深紅の瞳をしていると伝えられている。

  貴重価値がある存在で、どの国でも喉から手が出るほど欲している存在だ。

  魔導具を使って魔法を使える者を魔導士と呼んでいるが、魔導具は高級で高貴な者達でしか買えないらしい。


  そのため、今後通うことになる学園でも高貴な者達しかいない。

  私のように魔術士の子供を養子として貴族の者に育てられるケースは後を絶たない。もともと魔力があるのだから養子として迎え、保護をする形になっている。

 それが規則だから。

 

  まぁ、 私には魔力なんてないのだけれど。


  ヒロインは男爵令嬢で、強力な魔力がその身に宿っていた。そのため、彼女はとても貴重な人材らしい。さらに深紅の瞳を持っているのだからなおさらだ。

  学園には令嬢や令息がたくさん入学するが、親が魔術士という理由で入学してしまう貴族もいる。

 その中の一人には傲慢・強欲が激しく、気に入らないことがあったら取り巻き……おっと、つい口が滑ってしまった。〝ご友人〟と一緒にいじめをする。

 その傲慢・強欲が激しい貴族はなんの魔力も持っていない。

 その理由は真相エンドでわかるらしいけど、それを見る前に私は死んでしまった。


  その貴族が私だなんて皮肉なものね。


  傲慢・強欲。素晴らしいほど悪役の鏡だわ。



  どうしてわかったのかというと、それはもう、いろんな人に聞きましたとも。世界のこと、国の名前、どこかで聞いたことのあるような名前。確信してもいいんじゃないのってぐらい知っていた。


  悪役令嬢になってしまったのはどうすることもできないけど、これから起こる死亡フラグは絶対に回避しなければいけない。


  私、死にたくないもん!! 前世だと恋愛経験ゼロのまま死んだのよ!? これから青春するであろう高校生活一年目で交通事故にあったんだから!

 友達を作らず、乙女ゲームをひたすらやって、勉強をやる時間の方が多かった気がするけど、前世での記憶がほぼ乙女ゲーム。楽しかった思い出は乙女ゲームの 攻略対象者とのハッピーエンド。


 ホント、何やってるの私。


 だって……だってね!! こんなに早く死ぬなんて思わなかったんだもん!!


  あれ


  おかしいな


  自分で言ってて涙が出てきた……。


  どのルートでも死亡と追放されるんだ。唯一、ヒロインとの友情エンドもあるけど、結局私は死んでしまう。


  この先の未来で私を待ち受けているのは絶望しかないなんて。

 こんな残酷なことってある!?


 私の今後の未来のためにも、死亡フラグを立てないようにと、気をつけるようにしたつもりなんだけど……。

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