あなたは私の愛を拒むのね 後編
さざんかといるようになってから半月が経った。
彼女になってもさざんかある程度の距離を保って接してくれていた。
帰る時は一緒で、学校ですれ違ったら手を振る。
これだけの距離感で本当にいいと思った。
昔、友達にまとわりつかれたこともあったから。
あの時は本当に最悪だった。
私が他の人と話すと睨み、次の日私と話した子は全身に傷を負って帰ってくるのだ。
私のせいで友達がそうなった。
そう感じた私は中学を転校した。
他の友達に言えなかった事は悔しかったが、彼女たちに傷を負わせたくない。
そう思ってこの学校に転校したのだ。
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「ん、やっほー乃々羽。」
最悪だ。
今日、習い事でクラブチームへ行こうと思ったのに。
偶然友達に会ってしまったのだ。
「久しぶり、痲屡(める)。」
苦笑いで手を振ると痲屡はにこにこと笑いじりじりとこっちへ近づいてきた。
恐怖で手ががたがたと震える。
痲屡はすぐさま私の手をつかむと鬼のような形相で私に近づいてきた。
「ねぇ、今までどこ行ってたの?」
「私以外と話した?」
「てかまだバレーボールやってたんだ。」
「この裏切り者。」
痲屡は何を言っているのだろうか。
裏切ったつもりなんてない。
そもそも、束縛して私の友達を壊していった彼女の方が裏切り者だ。
こんな自己中なやつ、抵抗すればいいのに、なんでうまく言えないんだろう。
バレーだって友達が少ないから始めただけなのに。
痲屡だって、口下手な私とつるんでくれた大事な数少ない友達だ。
ああ、こんなんじゃ駄目だ。
今の痲屡を正しく治すことができない。
こんなに情をいれたら彼女はまた暴走するのに。
心を鬼にして接することも必要なのに。
またダメなのか。
逆らうことが怖い。
言い合うことが怖い。
「ねぇ、あんた誰?」
芯の通った声がした。
高いがブレないような声が。
上を見るとそこにいたのは、さざんかだった。
痲屡と一直線でいて立ち、二人でにらみ合っている。
「おい、誰だよお前。」
「もしかして、乃々羽の友達?」
「いや、違うよ。」
「乃々羽の彼女です!」
お得意のウインクとすぐさま近づいたさざんかは痲屡の服を引っ張た。
「はぁ?」
「なんで、乃々羽に、彼女が、いるの、、、?」
過呼吸で息ができない。
頭が働かない。
何も考えられない。
初めて逆らった。
私自身からではないけど。
でも、ちょっとスカッとした気持ちもあれば、これからの未来が心配な気持ちもある。
恐る恐る痲屡の顔を見ると絶望したような顔で指がカタカタ震えていた。
それは寒さゆえなのか、はたまた絶望ゆえなのか、冬真っ只中でもわかるような震えだった。
「ってことでー、さよーなら。」
さざんかは私の肩を掴みそさくさに歩いて行った。
後ろを振り返ろうとしたが隣のさざんかの威圧が怖く、肩を縮こめて歩いていった。
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「なんで悩んでるのに言ってくれないの?」
「先輩なんでそんなに震えているんですか?」
「邪魔者ならもういないですよ?」
今話している場所は校舎の屋上だ。
なぜか鍵を持っていた彼女が私を連れていったのだ。
「何か言ってくださいよ。先輩」
「先輩が言わないなら、ここに閉じ込めますよ?」
私はなんで彼女と話せないのだろうか。
さざんかはごく普通な一般的なことを言った。
ただただ私のために真実を伝えてくれただけだ。
なのに何故だろう。
彼女が怖い。
今まで彼女の天然キャラ溢れるような姿は誰もが和むようなものだったのに。
だからあのギャップに、裏表にやられたのだろう。
私の肩を強い力で掴んだこと。
鍵を持っていたこと。
至極、痲屡のことがどうでも良さそうな立ち振る舞いだったこと。
全て悟っていたかのようなようすだったこと。
何もかもさざんかの計算で成っている気がする。
「はぁ、もういいですよ先輩。」
「私は先輩のことを怒っていないです。」
「あの女に逆らえなかったことも、先輩が私に秘密を作っていたことも。」
「今知りたいのは何故そんなに怯えているかですよ。」
「私変なことしましたか?」
「何をしましたか?」
「それとも、その震えは寒さゆえですか?」
「いい加減答えてください。」
「早く答えてくれないと、ここから落としますよ。」
軽々と私を持ち上げた彼女は私の体を柵の外へ出す。
身の危険が感じた私は彼女に話した。
「今までの態度が、全て計算だったんじゃないかって、怖くて、震えちゃって、、、。」
途切れ途切れにしか話せない。
さざんかの目は笑っていない。
「あはは。そんなこと?」
「だったらもっと怖がらせてあげますよ。」
「実は私、殺人鬼なんです。」
私の唇に白い手を当てて、微笑む。
付き合う前のさざんかがこの話をしたら多分私は笑って過ごしただろう。
別に、さざんかが人殺しだっていい。
違う。それは他人だったらどうでもいいってことだ。
もしも自分のことを殺したら、どうなるだろう。
よくよく考えれば私の体を柵の外にだした時点で気付けばよかった。
あの、怖がらない。
怯えない精神。
とてもじゃないけど、一般人にはできないだろう。
「私を、殺す、の?」
力が入らないくて少し湿っている地面に座ってしまった。
目頭に涙が走る。
「まぁ、先輩が私の言うことを聞いてくれなかったらね?」
「いうことって、、、?」
「乃々羽、私と結婚してください。」
そういい、私に結婚指輪を差し出してきた。
ダイヤモンドが美しく、学生じゃとてもじゃないけど手に入れれないだろう。
なぜ、こんな高価なものを見つけてきたのか、なんとなく想像がついてしまう。
「、、、、冗談?」
茶化すように声を発したが動じない。
「同性愛は日本では通じないし、学生だから出来ないでしょう?」
「でも大丈夫だよ。」
「海外に行けばいんだから。」
「あ!でも、そういうの調べてないわー。」
「じゃあ、結婚しなくてもいいよ。」
「は?」
意味がわからない。
この状況で結婚の話をする精神がおかしい。
「私たちしかいいない楽園に行けばいいよ。」
「乃々羽は私以外を捨てれる精神があればだけど。」
「無くても連れて行くけど。」
「ほら、わかったでしょ?」
「私はこんくらいあなたを愛しているのよ?」
「だから受け取ってね。」
「なんで私にそこまで執着するの!」
「そんなことするさざんかのことは受け入れれないよ!」
勇気を出して放った言葉はやけくそにしか聞こえなかった。
いや、私は間違っていない。
でもこれでさざんかだってそう思っている。
自身の考えは間違っていないって。
そんな二人の考えが入り混ざって、喧嘩になるんだ。
人間誰だってそうだが。
「うーん、そんなことどうでもよくない?」
「まぁ、可愛い可愛い乃々羽の頼みなら答えてあげる。」
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私はスラムから生まれたビンボー人だった。
コンプレックスは顔が整っていること。
長所だと言う人もいるが全然そんなことない。
人が私に群がってくるし、生まれもあって私の方が下だと見下す。
周りにはいじめられるし、両親に似ていないと馬鹿にされる。
自分の顔はコンプレックスだ。
そんな私にも一人の友達がいた。
そう、井上痲屡だ。
一個上の女の子。
彼女も顔が美しく、綺麗だった。
だから意気投合した。
「ねぇ、さざんか。バレーの試合見に行かない?」
「え?バレー?」
「そう、バレー。俺の友達が小学生なのにクラブチームでスタメンとして出るらしくてよかったら見に行かない?」
そう誘われた小学四年生の夏私は曖昧な返事をし、ついて行った。
バレーの会場は思ったより賑わっていた。
時間ギリギリできたため、あまりいい席は取れなかった。
試合中、一人の子が目に入った。
ショートヘアのノースリーブの服を着ている低身長の女の子だ。
その子は特別うまく、チームの中でもエースってところだ。
休憩時間に目があった。
思わず手を振ったらにこりと笑みを返し手を振りかえしてくれた。
それが私と乃々羽の出会いだった。
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「ってこと。」
そうか、だから痲屡は驚いていたのか。
さざんかが私と付き合っていたことに。
どちらも知り合いだったから。
「あはは、でどうしよう?」
「いろいろ選択肢はあるよ。」
「ずっと一緒にいたいか死にたいかってくらいだけどね。」
全てを話してくれた彼女だから、そんなに殺した彼女の罪は私がもらいたい。
「殺して。」
「それで全て悔やんで。」
「こんな無意味なことをしたって。」
「へぇ、お望み通り。殺してあげるよ。」
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「ねぇ、さざんか。任務はどう?」
「成功させましたよ。井上痲屡さま。」
「水谷乃々羽の死亡が確認されました。」
「ありがとう。さざんか。報酬の40万よ。」
私とさざんかは手を組んでいる。
会った時から私とさざんかは上下関係で結ばれている。
私の代わりに殺人をしてくれるさざんかには報酬を毎回渡している。
今回の指名手配は水谷乃々羽。
「さざんか、その死体持ってきてくれない?」
「はい。承知しました。」
「でも、何故ですか?痲屡さま?」
「ふふふ。あなたもだいぶ私に舐めた口聞くようになったわね。」
「すみません。痲屡さま。ご無礼申し上げます。」
「別に大丈夫よ。なんでって、理由は簡単。」
「今までの傷つけた分を償うためよ。」
「、、、、、それは厄介な愛情ですね。」
「じゃあ、さざんかがこの愛情を受け取ってくれる?」
「それは無理ですね。仕事とプライベートは分けたい派の人間なんで。」
悪魔は言う。
『自分の感情を押し付けること、自分の考えを正しいと思い込むことは人間の本能だと』
End
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