その日、聖女が落ちてきて
一路傍
第一話 聖女の召喚
その日、聖女は上空四万二千メートルに召喚された。王国の魔術師たちがうっかりミスをしてしまったのだ。
もちろん、この異世界においてもその高さは成層圏だ。あるいはオゾン層といった方が馴染みもあるかもしれない。
何にせよ、つい数秒前までごくごく普通の女子大生だった聖女こと
正直、七海からすれば、さっぱり意味が分からなかったはずだ――
「え? これは……何?」
気づいたら、大気圏にいた。
視界の下半分を占めるのは、大きな球体だった。
陸地や海がうっすらと見えることから、そこが地球か、もしくは似た惑星だとすぐに気づいた。さらに見渡してみると、どこまでも果てのない暗闇――そう、宇宙である。
七海はそこで思わず、「息は?」と呟いて、すぐに口もとを両手で押さえた。
ただ、不思議なことに呼吸は出来た。宇宙服も着ていないのになぜ可能なのか、さすがに七海には分からなかった。
もっとも、これには一応の理由がある。
聖女として異世界召喚されるに当たって、
果たしてステータスが上がれば本当に成層圏で呼吸が出来るのかどうか。そういった物理学的かつ生物学的かつファンタジー的な問題はさておいて、とりあえず、七海は「ほっ」と息をついた。
とはいえ、七海の落下速度はすでに音速に近づいていた。
今いる成層圏の気温も、落下するにつれて少しずつ冷たくなってくる。
そもそも、落下による風圧と、成層圏特有の偏東風が当たって、体は冷え切っていた。その程度で済んでいるのは、聖女として水魔法や風魔法に対する耐性を得てしまったからなのだが、もちろん七海本人はそんなことを知る由もない。
ただし、そんな七海にも、一つだけ、確信していることがあった――
「このまま地上に落ちたら……わたし、絶対に死ぬよね」
そう。七海にとって、墜落死へのカウントダウンはとうに始まっていたのだ。
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