しゅがさま! 〜メスガキちゃんと地味子ちゃんが夏休みでイチャイチャするお話〜
だでぃこ
第1話 ニャニャニャーニャ・ニャーニャニャ
「待っ……てぇ……!」
「待ちませんよーだ」
夏休みも序盤の方。私はなかなかにピンチな目に遭っていた。
眼前に、私と同じ小学5年生の女の子がにまにまとした笑みを浮かべながら迫ってくる。
猫目がちの大きく綺麗な瞳。ツインテールで縛られた、さらっと流れる金髪。健康的に日焼けした小麦色の肌。
丈の短いチューブトップからは日焼け跡で真っ白なお腹を、ハーフパンツからは褐色の、しなやかな脚をのぞかせている。
「は・づ・き・ちゃーん、逃げちゃだめだよー? 約束したよねー? 罰ゲームはちゃんと受けるって」
「うぅ……!」
目の前の女の子が一歩一歩、にじり寄ってくる。
その度に私も床に尻を着きつつも後ずさるのだけれど……もう限界のようで。
背中に壁の堅い感触が当たる……逃げられないと悟った。
視線を女の子の手元にやると、革ベルトで出来た首輪があった。
今から目の前の少女は……この首輪を、私の首にあしらって……
「今日一日、あたしのペットなんだからね」
ぎらついた目で八重歯を浮かばせながら、私に宣言してくる。
そして……私の首に、首輪が巻かれた。
「………にゃ、にゃーん……」
恥ずかしがりながら手を胸の位置まで上げ、手首を下に曲げた、いわゆる招き猫のポーズで鳴き真似をする。(させられていると言った方が正しいのかな……)
首には首輪代わりのおしゃれ用のチョーカー。頭には白いふわふわの毛の、猫耳カチューシャ。
手にはカチューシャと同様白いふわふわの猫の手グローブ。更に腰よりやや低い位置にはふわふわ尻尾。
完全に『飼い猫スタイル』にされてしまった。
「はづ、かっわいいー‼」
私の『こいびと』である少女、橘(たちばな) 杏璃(あんり)が目を輝かせながら、私の恥ずかしい恰好をスマホのカメラで撮影し続けている。
ちなみに『はづ』とは……『朝倉(あさくら) 葉月(はづき)』という、私の本名をもじって杏璃が私につけたあだ名である。
「うぅ……恥ずかしいよぉ……」
人間は何故人間以外の動物の真似をするとこうも恥ずかしい気持ちになるのだろうか。
そんな事を考えながら私の恥ずかしい姿は杏璃のスマホの画像フォルダを潤し続けた。
「えー? こんなに可愛いのに撮らないのはもったいないじゃん。はいピースピース!」
そんな私の羞恥心はお構いなしに杏璃がカシャカシャと撮影を続ける。
猫グローブではピース出来ないんだけど……
事の発端は1時間以上前。
ここ、杏璃の自室で私達はレースゲームに興じていた。
『あたしと勝負して5回負けたらはづは罰ゲームね! ハンデではづが1回でも勝てたらあたしが何でも言うこと聞くよ!』
そんな条件に乗って、レースゲームを始めたのだけれど……結果は私の惨敗で終わった。
そして罰ゲームとは……杏璃が用意した、『猫ちゃんなりきりセット』を装着したうえでの猫の真似。
ちなみに私が杏璃に勝ったら私達小学生の最大の天敵とも言える、夏休みの宿題をちゃんとやってもらうつもりだった。
杏璃ったら勉強嫌いですぐ宿題を放棄するんだから……
「はい、グループライムに投稿っと」
「えっちょっ!」
どうやら先程の写真をSNSのグループに投稿したようだ……
「ちょ、ちょっと待ってよ! 今の、どこのグループに上げたの⁉」
「え? クラスの女子グループだけど?」
「ちょっとぉー⁉ 取り消してよ‼」
なんてことを……! 私の恥ずかしい写真がクラスの女の子達に……!
「えー? でもすっごく人気だよ? ほらほら!」
杏璃が自分のスマホを見せてくる。
そこにはクラスの女子達が私のこの恰好に対する感想を言いあっていた。
『めっちゃ可愛い!』
『え? 葉月ちゃん猫になったの?』
『まだ去勢してない⁉ 大丈夫⁉』
……好評なようだけど、やっぱり恥ずかしい。
それにしても最後のメッセージはなんなんだろう。なんの心配をされているんだろう……そもそもそれ、雄の猫に使う言葉では……?
これ、夏休み明けて皆に会ったら絶対猫のコスプレネタでいじられるよね……
「杏璃ぃ……」
「そんな目で見ないでよ。可愛いものはシェアするべきじゃん?」
今この状況で可愛いと褒められても素直に喜べない……
「……ところでなんでこんなセット持ってるの?」
「これね、ハロウィンの時のコスプレ衣装なの。本当は魔女のコスプレの上でこれを付けるんだから」
「へぇ……じゃあ猫耳魔女ってわけね。その姿の杏璃って可愛いんだろうなぁ」
「あったりまえじゃん!」
自信満々に胸を張る杏璃。杏璃のその姿は見たことがないので、今年の十月が楽しみになってきた。
「うーん……」
杏璃が首を傾けだした。
「なーんか、猫っぽくないなぁ……」
「ね、猫っぽくない?」
こんな物まねをさせといて何を言うのやら、このわがまま姫さまは。
「いやね、確かに加工アプリ(SMOW)で盛るのがヤボなぐらいに可愛いんだけどさぁ?
猫っぽくないんだよね。魂が猫じゃないっていうか……」
「いやいや、私人間だから……」
「はづって猫より犬派でしょ? うーん、だから犬っぽく見えるっていうか……」
「それ関係ある?」
「あたしには柴犬の魂がはづの中から見えるね。それも超可愛くてちっこい豆柴の魂が」
「ごめん何言ってるかよく分かんないんだけど……」
同級生からよく『葉月ちゃんは動物に例えると犬っぽい』って言われるけれど……魂レベルで柴犬……?
「よーし、じゃああたしがお手本見せるからちょっとそれ返して!」
「お、お手本……?」
よくわからないまま私は身に付けていた猫ちゃんなりきりアイテムを全て杏璃に外された。そして……
「にゃん!」
自信満々に、なりきりグッズを身に付けた杏璃が招き猫のポーズを取る。
「わっ……かわいい……」
元から猫っぽい顔をしている杏璃なので、猫のコスプレはとても似合っていた。
「みゃう!」
綺麗な高い声もまさしく猫ちゃんの鳴き声そのものだった。
四つん這いになり、お尻を高く後ろに突き出すポーズを取りだした。
猫ちゃんの伸びポーズだ。
「くぅ……」
今度はこてん、と床に手と脚を真っ直ぐ同じ方向に投げ出して寝ころび始めた。まさしく、これは……
「本物の猫だ……」
照れの多い私と違って、行動の全てがまさに猫そのものだった。
私と同じ大きさの猫が目の前にいるのではないかと錯覚する。
作り物の尻尾も今まさにゆらゆらと動き出しそう。
「猫ちゃんの真似、すっごく上手だね……」
杏璃は嘘を吐くのが苦手な割には、こういう演技は得意なのだろうか。
磨けば将来役者さんにでもなれそうだ。
「にゃっふっふ。夏休みの間はね、ニューチューブで猫ちゃんの動画を一日二時間は見て研究してたんだからね!
そりゃあ猫ちゃんの真似も上手くなるってもんだにゃ!」
杏璃が胸を張り自信満々に語る。
「凄いけどちゃんと宿題もしなよ」
「猫に宿題はないにゃん!」
「そんなことまで自信満々に言わないでよ……」
むふー、とドヤ顔を向ける杏璃に、私は呆れつつも……実はさっきからうずうずとしてきてる。
「うっ……撫でたい……」
本物の猫ちゃんのような杏璃を見ると、身体のあちこちを撫でまわしたくなる。
「にゃん♪」
ころん、と杏璃が仰向けで寝転がり、手首を曲げてお腹を見せてきた。
猫ちゃんが人間に対して完全に安心しきっている時にするポーズだ。
「い、いいの……?」
こく、と笑顔で杏璃が首を縦に振った。
「………」
おそるおそる、杏璃のお腹に手を置いた。
「にゃう!」
くすぐったいのか、ぴくんと杏璃の身体が跳ねた。
「わっ……ごめっ……」
口ではそう言いつつも、もっといっぱいお腹を撫でたくなってくる。
気を取り直して、杏璃のお腹に触れる。
日焼けしてる部分との対比で、一層白く見える綺麗なお腹だ。
私はその綺麗なお腹をわしわしと撫でた。
「にゃははは! にゃううぅ……!」
くすぐったさに杏璃がくねくねと身体を踊らせる。
段々面白くなってきたのでいっぱい撫でることにした。細いけれど、柔らかいお腹だ。
「にゃははふはっ……にゃはっ!」
「………」
一瞬冷静になる。
これはこれで楽しいんだけど……本来はこれ、私への罰ゲームだったよね?
でも、余計なこと言ったらまた私が猫ちゃんの物まねをさせられるだけなので言わないでおこう。杏璃も楽しんでるんだし。
「……うっ」
唐突に、杏璃が具合の悪そうな顔をしだした。
「……ど、どうしたの⁉」
血の気が引いてくる。もぞもぞと小さく杏璃の口から言葉が絞り出されて……
「け、毛玉吐き出しそうになってる猫ちゃんの真似……だにゃ……」
ぷるぷると震えながらの回答だった。
「…………」
心配を返せ、と言いたくなった。
「そこまでしなくていいよ⁉ というかそれはやめておこう⁉ 女の子として‼」
「にゃうう……しかし今のあたしは……魂までねこちゃ……」
「人間の魂を取り戻してよ⁉」
杏璃が色々と何かを失う前に説得する。
「なぁ~!」
吐き気は一体どこへやら。今度は杏璃が元気にベッドの上に飛び込んだ。
それから、四つん這いになりながらベッドの上でタオルケットを両手で揉みしだく動作を始めた。
ぐにぐに、とタオルケットが杏璃の手で波を打っていく。
「あ! 知ってるそれ! うどんこねでしょ!」
「にゃう~!」
正解! と言いたげな杏璃の鳴き声。猫ちゃんが赤ちゃん返りした時に母猫の乳房に見立てて前脚二本で毛布などの柔らかいものをふみふみする動作だ。
私達日本人はその動作がうどんをこねてるように見えるので『うどんこね』と呼んだりもする。
ちなみに欧米だとクッキー生地をこねてるように見えるので『クッキーメイク』なんて呼ばれるらしい。
食文化の違いで猫の仕草の呼び方が変わるのは面白い。
「それにしても本当にそっくりだね」
「でしょ? でしょ? うちで猫飼いたいって言ったんだけどさぁ、ママが猫アレルギーだから飼えないのにゃ。
だからあたし自身が猫になって、ちょっとでも猫を飼ってる気分にでもなろうかなーって研究した結果なのにゃ!」
「へぇ……そうなんだ……」
ぺたんと座り込んだ杏璃の首元をこちょこちょと撫でながら感心する。
飼えないから自分が猫になろうという発想がまた突飛というか……色々おかしい気もするけれど……
猫の真似を私にさせたのも飼ってる気分を味わいたかったからなんだろうな。
「ごろごろ……」
喉を鳴らしながら顎の下のなでなでを喜んで受ける杏璃。
目も細めて、完全に猫ちゃんだ。
「ふふ、可愛い可愛い」
「ふにゃぁ~……」
こちょこちょと顎の下を撫でるたび、杏璃の顔がにへぇ、と緩んでいく。
「にゃん!」
突然、杏璃が私の胸に飛び込んできた。
「わわっ」
そのまま押し倒される形になった。
「あ、杏璃……?」
すんすん、と杏璃が私の匂いを嗅いでくる。
これも猫特有の行動だ。でも……匂いをかがれるのは恥ずかしい。
今日も暑いし、汗臭くない……よね?
「にゃうぅ~ん」
今度は私のほっぺたに自分のほっぺたをすりつけてきた。
杏璃のほっぺたはもちもちしてて、気持ちいいんだけど……
「あ、あついよ杏璃……」
杏璃の高い体温が伝わってくる。
杏璃の体温って高いんだよなぁ……猫の体温も高いと聞いたけど、本当猫みたいな子だな。
「んにゃっふふふ……」
目と鼻の先の距離に、杏璃の顔がある。
こんなに近いと、すぐにキス出来ちゃうな……あと杏璃、まつ毛長いな。
……そんなことを思っている間に―――
「んっ……ちゅっ」
自分のほっぺたに、杏璃の小さなキスの感触を覚えた。
「あっ……」
「んー……にゃっ」
ちゅっちゅっ、と何度もほっぺたや首筋にキスの雨を受ける。
「ちょっ……あんりっ……」
「んー? どうしたのかにゃー?」
「ね、猫の真似は……?」
「これも立派な猫の真似だにゃん♪ これは猫ちゃんの……じゃ・れ・あ・い♪」
「え……えぇ……」
目の前の子猫は、既に頬を赤く染め、いたずらっ子満点の笑みを向けてきている。
「んにゃっふふ。じゃあ……いっぱいいっぱい、はづねこちゃんの毛づくろいをしてあげるにゃん♪」
「まって……あんっ……!」
ぺろ、と短く突き出された杏璃の舌が、私の首筋を撫でた。
「ふあぁっ……!」
ぴくぴくと身体が小さく反応を始めた。
「まっ……まってぇ……! あんりったらぁ……ねこの真似にかこつけて……私にえっちなことしたいだけじゃ……ひゃううっ!」
これ以上は言わすまいと、杏璃の舌攻めが激しくなる。
首筋にぬめった唾液の熱さが上下した。
その独特な感覚に私の身体は小さく震えだす。
「やぁっ……!」
「んっ……ぺろっ……」
杏璃はこうやって、私にえっちなことを仕掛けようとしてくる。
前まではスキンシップが激しくて隙あらばハグしてきたりで終わっていたけれど……夏休みに入ってからは、いっぱいキスしたりするようになってきた。
ほぼほぼ杏璃が一方的にしてくるのだけど。
「あんりぃ……とまってぇ……!」
「猫ちゃんはぁ、人間の言う事聞きませんにゃん♪」
「だからぁ……ごまかさないでよぉ……!」
杏璃はえっちなことを仕掛けてくることもままある。
そしてそれを強く拒むことも出来ず……口では否定しつつも、むしろちょっと期待してしまっている自分がいるのが何とも嫌になってしまう。
いたずら好きでわがままなところなんて、杏璃は本当猫そっくり。
たまには抵抗したいという気持ちもあるけれど……豆柴の私には難しい事だと言うのが分かった。
こっちが成犬になったら目いっぱい抵抗するんだから! ……と、自分でもよくわからない負け惜しみを心の中で吐くも、私の身体は丹念に『毛づくろい』されていくのだった。
私の心の豆柴がきゃんきゃん吠えてもお構いなしに。
「にゃ……にゃああああぁぁ……!」
杏璃につられて、私も猫語で快感に負けた声を上げるのであった。
◇ ◆ ◇
(うぅっ……あんなにぺろぺろ舐められたらもうお嫁さんにいけないよぉ……)
くすぐったさと……認めたくはないけれど気持ち良さに、私はぐったりと床に横たわっていた。
何分に渡って『毛づくろい』されていただろうか……下手したら一時間?
未だに身体のあちこちに甘ったるい刺激が与えられて動けない。
「ねぇねぇはづ! 脇の方から持って、あたしを持ち上げて!」
そんなことはお構いなしに、杏璃が長座体前屈のような姿勢で座り込んで、私を呼んできた。
心なしか先程の行為に満足して、お肌がいつもよりつやつやしてる気がする。
こっちは元気なんて吸い尽くされたというのに。
「……もう、これで満足したら宿題やろうね?」
杏璃の背後に歩み寄る。……『猫真似ごっこ』もこれで最後にしよう。
杏璃がやりたいことは、猫ちゃんが脇から持ち上げられた時に胴が伸びる真似だろう。猫って意外と胴が長いもんね。
「それじゃいくよ、うーん、えい」
力が無いなりに精いっぱい持ち上げると、杏璃の腰が少し浮いて、同時にお腹も引っ張られる形で伸びた。
「……ん?」
なんだろう、杏璃のお腹周りが……にゅうん、とどんどん伸びて――普段の倍ぐらいの長さにお腹が伸びていた。
その姿はまさしく本物の猫のようで……さらにそこからどんどん伸びていき―――次第には蛇のように―――
「にゃ、にゃああああああああああ⁉ 」
猫語で叫ぶと共に勢いよくタオルケットをまくりあげ、目が覚めた。
「はぁ……はぁ……夢……?」
ベッドの上で上体だけ起こした私の息は、とても荒かった。
パジャマにもじわりと汗が滲んでいて気持ち悪い。
辺りを見回すと杏璃の部屋でもなく、真っ暗な自分の部屋だった。
当然お腹の伸びた杏璃もいない……つまり夢だ。
「うぅ……杏璃のばか……変な夢見せないでよぉ……」
ぼすん、と勢いよく枕に顔から沈む。
昼間あれだけされていたらこんな夢も見ちゃうよね……
「はぁ……もう一回寝たいのにこれじゃ眠れないよぉ……」
夏休みに入ってから……杏璃はいつもこうやって、振り回してくるんだ。
「むぅ……負けらんない」
そもそも勝ち負けなんて存在するのかはさておき。せめてちゃんと宿題はさせよう。
そう決意して、私は瞼を閉じるけれど……そこから昼間の事を思い出して一睡も出来ずに夜を明かしてしまった。
ちなみに……後日杏璃のお腹を確かめたけれど、特におかしなことはなかったので安心した。
『なんでそんなにお腹を確認するの⁉ あたしが太ったとでも言いたいの⁉
そんなことやっちゃうと……はづのお腹も確認するんだからねー!』
……そう言われてこの後滅茶苦茶お腹をくすぐられたけど。
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