絶世の器用貧乏

香織-かおる-

絶世の器用貧乏

第一章 風呂場はマジで敵

 風呂に入るとき。僕には二つ、変なくせがある。しょぱなから何の話だよ、と思うかもしれないが、このエッセイがこんな書き出しになってしまった理由でもあるのでとりあえずそのまま読んでみてほしい。


 まずは一つめ。僕は頭を洗っていると必ずディラン現象(同じ曲が頭の中で繰り返し再生されること)におちいってしまうので、それに合わせて必ず歌う。というよりは、歌わされると形容した方が正しいのかもしれない。そこそこ音感が良くて、普段なら脳内でキーやテンポの変更ができるという僕の能力も、風呂場という特殊な空間では無力と化してしまう。確実に風呂場に歌わされている。風呂場にもてあそばれている。非常に許しがたいが、この現象に抗えないままそろそろ二年が経とうとしている。


 一応言っておくが僕は風呂が嫌いな訳ではない。むしろ風呂は大好きなのだが、風呂場という空間が仮に肉体を持っていたとしたら確実に刺し殺していることだろう。


 二つめ。湯船に浸かると、僕の頭の中で流れていた曲は何故か歌詞のない曲、所謂いわゆるBGMに変わる。そのため歌唱呪縛からは抜け出すことができるのだが、代わりに、「考え事をすること」を余儀なくされる。他にすることがないから、というのも大きな要因ではあるだろうが、僕は風呂場の所為せいということにしている。あいつはすぐ僕の脳内に干渉してきやがる。話が脱線してしまって申し訳ない。二年ほどで溜まりに溜まった、僕をオーディオのように扱う風呂場というクソ空間へのヘイトがこのタイミングで爆発してしまっている。話を戻そう。


 勿論もちろん、考え事の内容はそのときによって変わる。明日の夕食は何を作ろうだとか、Twi○terのネタツイアカウントで今日は何を呟こうだとか、大抵はどうでもよくて、少なくとも他人から興味を持たれることは無いであろう、そんな内容である。そしてようやく本題に入るのだが、エッセイを書こうと思ったのも数週間前のこのタイミングだ。湯船に浸かりながら、僕の人生だとか人生観だとかを一部でも文章にしたらまあまあ面白いんじゃね、とぼんやり思ったのがきっかけである。


 それにしては書き始めるまでに時間が掛かっているのだが、これにも厄介な原因がある。湯船で思いついたことや考えていたことというのは、脱衣所で身体を拭いているとほぼ確実に頭から抜けてしまうのだ。明日の夕食はハンバーグを作ろう、冷蔵庫にひき肉はあるので、明日は玉ねぎと牛乳を買ってこよう。などというところまで考えていたとしても、身体を拭いているといつの間にかハンバーグのハの字も思い出せなくなっているし、なんなら明日の夕食のことを考えていたという事実すら忘れてしまっているのだ。まじで何のための時間なんだよあれ、と常々思う。それと同じ要領で、書き初めをどうしようと悩みに悩んでやっとの思いで思いついては、風呂場にアイデアを喰われてきたので、書き始めに時間が掛かってしまったというわけだ。巫山戯ふざけてなどいない、ガチである。


 というわけで、一度忘れたアイデアを思い出すことは諦めてとりあえず書いてみるという強硬手段に出た結果がこの書き出しなのだ。あまりにも前置きが長すぎた。長すぎてガスになったわ。非常に面目ない。


 僕が変な人であるということは前置きで充分お分かりいただけたとは思うが、エッセイというからにはまずは皆さんにもう少し僕のことを解ってもらう必要がある。と、思う。他人のエッセイを、というかそもそも本自体をあまり読んだことがないのでセオリーは分からないのだけれど、多分そう。

 いま一瞬、「多分そう」の部分を「多分襲う」と誤植して鼻で爆笑してしまった。多分襲うって何だよ。襲うなら予告するか何も言わないかのどっちかにしろよ。気分で決めるなよ。

 このようにボケなのかツッコミなのかよく判らない発言をしてしまうことがあるというのを一つめの自己紹介として、第二章の筆の乗り具合に期待しつつこの第一章を締めようと思う。

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