第13話「ゴロウとタイラ」
ゴロウの〈
その様子を見、シマダは
「あの二人、すでに互いの力量を見極めたと見える」
「え、そうなんですか、先生!?」
シマダとオシロのやり取りをよそに、ワカは闘技場の二人から一切目を離そうとはしなかった。農具作りに集中している時と似たような——あるいは、それ以上の熱を目に灯していて、イヅの顔に陰が差す。
ふと、ワカの眉がぴくりと動いた。視線の先——タイラの〈不動〉がゆっくりと木刀を、大上段に持ち上げたのである。
対し、〈巫山戯〉を駆るゴロウは腰だめに構えた。〈からくり〉ですり足をするという器用な真似をやってのけ——両者の距離は微妙に、それでいて確実に狭まっている。
ごくり、と誰かが唾を呑んだ。
木刀の先が機体に触れるほどの距離になった瞬間——〈巫山戯〉と〈不動〉、二機の〈からくり〉がまったく同時に木刀を振るった。剣筋も、激突の瞬間も、イヅの目にはまるで見えなかった。何かがへし折れたような音が聞こえただけで——
「——イヅ!」
ワカがとっさにイヅの腰に手を回し、その場から飛び出した。「ワカ!?」と仰天したところに——先ほどまでイヅがいた地点に、空高く舞い上がった木刀の先が突き刺さる。
唖然としているイヅに、「大丈夫?」とワカの片目が覗き込む。
「あ、だ、大丈夫……」
「すごい威力だったね」
「そ、そうね……」
「いやぁ、すまんすまん!」
ばたばたと〈巫山戯〉の鉄の足を動かして、ゴロウが木の柵の前に立つ。まるで悪びれもない様子で、途中で折れた木刀を掲げてみせた。
「ケガはなかったか、そこな
「うん、ぼくもイヅも大丈夫」
「——あ、あんた、危ないじゃない! ワカが助けてくれなかったら今頃あたし、脳天から真っ二つよ!」
「わはは、すまんすまん! この借りは必ず返す! ……といっても、
言うや、ゴロウは闘技場の真ん中に戻り、タイラと向かい合った。彼女の木刀もまた亀裂が走っていて、あと一撃でも打ち込めば折れるだろうといった具合だった。
「お主、やるのう」とゴロウ。
「いえいえ、あなた様ほどでは」とタイラ。
そしてゴロウが、「おーい、そこの
「この試合、某の負けだ。褒賞はこの女にやるがよい」
「は、はぁ!? ちょっと待てや! まだあんたの〈からくり〉は動かせる状態だろうが!」
「この〈巫山戯〉が壊れるまで戦えと?」
「当たり前だろうが! 一撃打ち込んだだけではい終了なんて、客が納得するかってんだい! 木刀がないんなら、その腕で殴りつけるなりすればいいだろうが!」
「……そういう泥臭いのは、某の柄ではないんでのぅ」
そう言って〈巫山戯〉を、控えの建物へと進ませる。
あんぐりと口を開けていた男ははっと立ち直り——半ばやけくそ気味に叫んだ。
「ええい、この〈からくり〉大乱闘、優勝者はタイラ! 〈不動〉の乗り手、タイラだぁッ! 野郎ども、惜しみない拍手を! ――ちくしょうめぇッ!!」
わぁっと歓声が巻き起こる。タイラは折れかけた木刀を手に万歳し、にこにこと周囲に笑顔を振りまいていた。さらには〈不動〉で器用にお辞儀し、観客の声援に応えるように、「せいっ、せいっ」と木刀を振ってみたりする。
その一部始終を見ていたワカたちは——
「先生。気のせいかもしれませんが……あのゴロウという女性、わざと手を抜いていたような……」
「ほう、わかったのか」
シマダがあごに手を添え、オシロに感心の目を向けた。
「では、タイラの方はどうだ?」
「どう、と仰られますと?」
「ん、そこまでは見抜けんかったか。……まぁ、いい。あの二人は、最初から茶番を演じるつもりでいたとみえる」
イヅとカシラが互いに
「茶番とはどういうことですかい、シマダ様?」
「つまり――
「おそらくな。イヅ、お主は察しがいい」
「はぁ、それはどうも……って、ワカ!?」
いつの間にか、ワカはその場にいなかった。
焦りのあまり、首をぶんぶんと動かすイヅの肩に、ぽんとシマダの手が置かれる。
「大丈夫だ、ワカの行き先はわかっておる。ただ——もしかしたら、厄介事に巻き込まれておるかもしれんな」
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