聖女認定を剥奪されたら本当の幸せを掴むことが出来ました

長尾隆生

聖女認定を剥奪されたら本当の幸せを掴むことが出来ました

「今この時点で現聖女の聖女認定を剥奪することが賛成多数により決定した!」


 王都の大聖堂に集まった、この国の国教である聖女教の最高幹部たちの前で、枢機卿がそう宣言する。


 私、リアリス=ハーデングルブはその言葉をどこか人ごとのような気持ちで聞いていた。

 なぜなら、本来の私は聖女になんてなりたくは無かったからである。


 田舎の小さな村で生まれた私は、あの時間の流れの緩かった村で、歳の近い旦那様に嫁いで一生ゆっくりとした人生を送るつもりだった。

 それが、巡礼の牧師によって聖女としての力があると伝えられ、半ば無理やり王都の教会学校に連れてこられたのだ。


 それからの日々は、村でのゆっくりした時間とは全く違い、日々与えられた課題をこなすだけで精一杯。

 しかも、同じ教会学校内では、ティアラ=コーウェルという一つ年上の高位貴族の娘にライバル視され、その権力にすり寄った取り巻きたちによって、思い出したくも無いほどの嫌がらせをされ続けた。

 なぜなら彼女も私と同じ次期聖女候補の一人だったからである。


 だけれど、次期聖女を決める審判の儀式で聖女と認められたのは私の方だった。


 流石に聖女となった私に対しては、たとえ高位貴族の娘といえどうかつに手出しは出来ないのか、その日から嫌がらせも無くなった……と、思っていたのだけれど。


「それでは続いてリアリスに変わる新たな聖女を任命する」


 その枢機卿の言葉を「まってました」とばかりに跪く私の後ろで一人の女性が立ち上がると前に進み出る。


「ティアラ=コールウェル。貴方を新たなこの国の聖女として認定いたします」

「謹んで承りましたわ」


 私の前に立つ女性。

 それは教会学校で散々私に対して嫌がらせをしてきた主犯格であるティアラ=コールウェルその人でした。


「田舎の小娘風情が聖女に認定されていたことがおかしかったのですわ」


 ティアラ=コールウェルは跪く私の方をチラリと見て、私にだけ聞こえるような声でそう言った。


 私だって自ら望んで田舎から出て来て聖女になった訳じゃ無いと言い返したかった。

 ティアラ=コールウェルにされた、様々な嫌がらせを告発してやりたかった。


 ですが、このような場でそんなことを口に出来る訳がありません。

 それに、なによりも彼女は既に聖女として認定されてしまいました。

 聖女に対して何かをすれば、その報いは私だけで無く、私を育ててくれた村の人たち全てに及んでしまい兼ねません。

 特にこの目の前で嫌みったらしい笑顔を向けてきているティアラ=コールウェルなら、私に絶望を与えるためにそう命令を下しても不思議ではないのです。


 私は唇を強く噛んでそれに耐えるしか無かったのでした。




★●★●★●★●★●




「今までお世話になりました」


 私はこれから辺境の修道院へ送り出されます。

 その地に一度でも送られた者は、一生その辺境の地から出ることは出来ない人生の最果ての地。


 そんな絶望を背負いながらも私は、今までお世話になった聖女の館の皆に頭を下げて、無理やり作った笑顔で別れの言葉を告げました。


「わたしゃ、レオン様が異端者だったなんて、今でも信じられないんだよ」


 門の所まで送ってくれた聖女の館での最高責任者であるウィーラが小さな声で呟きました。

 もし、その言葉が門の外で待つ協会関係者にでも聞かれていたら、彼女も私と同じように……いえ、最悪極刑に処されて仕舞うかもしれません。

 私は慌てて彼女に「それ以上は止めてください」と答えました。


「ですけどリアリス様」

「私はもう様と呼ばれるような者ではありません。異端者によって聖女に祭り上げられた偽聖女ですわ」

「いいえ、貴方様こそ本物の聖女様です。今まで貴方様が見せてくれた数々の奇跡がその証拠です」

「それはもう忘れてください。あれは全て私とレオン様がでっち上げた仕込み……ということになりましたので」


 私は尚も言いつのりそうな彼女の言葉を遮るように声を上げます。


「ここまでで結構です。本当に。本当にありがとうございました」


 そして深く一度だけ頭を下げると、門の外に止まっている送迎用の馬車に飛び乗りました。

 送迎用と言っても、サスペンションも何も無い非道いものでしたが。


 窓から外に目を向けます。


 遠ざかっていく聖女の館、その前でウィーラがこちらをずっと見送ってくれる姿が見えました。

 ただの村娘でしか無かった私を、立派な聖女として育ててくれた彼女に私はもう一度感謝の念を贈ります。


 するとどうでしょう。

 ウィーラの周りをほのかな白い光が包んだかと思うと、その体の中に光が吸い込まれていきました。

 自分でもよくわからない聖女の力とやらが発揮されてしまったようです。


 私が知らなかっただけでウィーラも体のどこかを病んでいたのかもしれません。

 あの光で包まれると、たちどころに体の悪い部分が治ると言うことを私は経験上知っていました。


「最後にお礼が出来たようですね」


 私はその事に満足して、非道く揺れる馬車の中で瞳を閉じます。

 数日前から昼も夜も無く、散々枢機卿を含む審問官たちによって質問攻めにされた疲れが限界を超えたのでしょう。

 癒やしの力を持つ私ですが、自らを癒やすことは未だに出来ないでいるのです。


「おやすみなさい」


 私は誰にとも無くそう呟くと夢の中へ旅立ったのでした。




★●★●★●★●★●




 この辺境の地へ追放されて一年が過ぎました。


 寂れた街にある小さな修道院は、私が思っていたよりよほど綺麗で、最初かなり拍子抜けしたほどです。

 たしかに貴族のお嬢様のように、生まれながらに贅沢な暮らしをしてきた者にはこの地は地獄なのかもしれません。

 ですが、私は元々寒村の出なのです。

 あの何もない村に比べれば、この街も十分に恵まれた地のように思えるのです。


「おはようございます」


 私は朝の集会を終え、この街に来てから毎日のように通う場所へ向けて歩いていました。

 街をゆく人たちとすれ違う旅に、皆さん笑顔で私に声を掛けてくださいます。


「おはようリアリス様。今日も治療院にいくのかい?」

「ええ、もちろん。ですがそのリアリス様というのはやめてくださいっていつも言ってるじゃないですか」


 私がこの街に来て最初に感じたのは、街の人たちの病んだ瞳でした。

 修道院でその事について尋ねると、この街は昔は鉱山で栄えていたそうなのです。

 ですが、その鉱山に埋まっている金属の中に毒になるものが含まれていたことが判明し、今では毒の含まれない場所を細々と採掘するだけの街となってしまったのだそうです。


 外の街や村から出稼ぎに来ていた人たちも一気にいなくなり、残ったのは元々この地に暮らしていた人たち。

 あとは、毒のせいでこの地を離れることが出来なくなった人たちだけ。

 その毒は本人のみならず子孫にも影響を与えるものだったらしく、今もこの街の人々を苛んでいるという話でした。


「そんなこと、王都では一切話に上がったこともありませんでした」


 こういった街に救いの手を伸ばすことこそが修道院の、聖女の仕事ではないでしょうか。

 なのに私は今の今までそれを知らなかったのです。

 もしかするとこの国では同じように病んだまま放置されている街が他にもたくさんあるのではないか。

 私は目の前が真っ暗になる思いでした。


「わかりました。私がこの街の病を治します」


 幸い私には聖女の力と呼ばれていた癒やしの力があります。

 どこまでその力が通用するかわかりませんが、もしそれで癒やせるのであれば。


「それならばまずは治療院を訪ねてもらえるかい?」

「治療院ですか」

「そこに症状の酷い者が詰め込まれているのさ。国から送られてくる気休めの薬を投与されて、あとは死ぬだけの者たちがね」

「わかりました」


 私はそう返事を返すと、その日初めて治療院へ向かいます。


 結果から言えば、私の癒やしの力はこの街の病を癒やすことが出来ました。

 長年積み重ねられ、重症化した病症はすぐには治せませんでしたが、毎日の治療で確実に全ての人たちが快方に向かっていったのです。


 私は午前中は重傷者を治療院で治療し、午後からは街の中心にある、水さえ枯れた噴水のある広場で街の人たちを治療し続けました。

 やがて、私は知らぬうちに街の人たちから『聖女様』と呼ばれるようになっていたのです。


 教会によって無理矢理押しつけられたときは全く嬉しくなかったその称号。

 ですが、街の人たちが心から付けてくれたそれは、同じ『聖女』という称号であるというのに、全く違っていて。


「聖女様ぁ。ママを助けてくれてありがとう」


 そう言って小さな女の子に手渡された、どこかで摘んできた手作りであろうその花束を手にしたとき、私は思わず涙を流したのでした。


 


★●★●★●★●★●




 そんな日々が続き、街の人たちの体から完全に病魔が消え去ったころ、急報が街に届いたのです。

 なんと、死霊の王と名乗る者が軍を挙げ、王都に向けて進軍を開始したらしいのです。


 その情報を伝えてくれた行商人によれば、死霊の王が現れたのはこの街から王都を挟んで反対側にある死の山と呼ばれる地で、昔からその辺りはゾンビやスケルトンなどアンデットが徘徊する場所で有名でした。

 そして定期的に国が軍や、雇った傭兵部隊などを送り込んで、数が増えないように『駆除』を行っていたはずです。


 聖女である私は、彼らに聖なる加護と呼ばれる光属性を付与する役目を与えられて、いつも魔力切れ寸前まで力を使って彼らに加護を与えていたのを思い出します。


「それが、ここ数年国の駆除が上手くいってなかったみたいなんだよ」


 行商人は語ります。


「兵士や傭兵たちが酒場で愚痴ってたのを聞いたんだけどよ。前はあっさりアンデットを一刀で倒せていたのに、アンデットが強くなったのか数人がかりでやっと一匹倒せるくらいになってたらしいんだ」


 その話を聞いて私は悟りました。

 それは確実に聖女の力が弱すぎるからに違いないと。


 私を追放し、新しく聖女になったティアラの力は、私に比べるとかなり弱く、その力で与えられる加護では到底アンデットに太刀打ちできなかったのでしょう。


「そうこうしてるうちに死の山のアンデットが進化して死霊の王が誕生してしまったって話さ」


 私は昔、教会学校の図書室で読んだ本の内容を思い出します。

 聖なる力と相反する闇の力。

 その力を持つ最悪の魔物で、アンデットといえばリッチーという魔物だと書かれていたはず。


「もう既に死の山に近い村や街は何個も襲われて、住人たちは全員アンデットにされたって話だ」


 リッチーは殺した相手をアンデット化して自らの配下にすると書かれていました。

 行商人の話からするとそれは事実で、アンデットたちは進軍すればするほどその規模をどんどん大きくしていくはずです。


 このままではこの国だけでなく、周辺諸国すら巻き込んで悲劇が連鎖していくことでしょう。


「行かないと」

「え?」

「今ならまだ……王都が落ちていなければ止める事が出来ると思うんです」


 そう告げた私に行商人が呆れたように口を開きます。


「こんな状態で王都に行こうだなんて、あの男と一緒だな」

「あの男?」

「ああ、この街に来る途中の村で、お嬢ちゃんと同じように俺の話を聞いて逃げるんじゃなく王都に向かうって言ったやつがいてな」

「そのようなお方がいらっしゃるのですか」

「ああ、なんつったっけな……たしか……そうだ、レオンとか名乗ってたな」


 レオン。

 その名前を聞いたとき、私の胸は大きく鼓動を打ちました。


「もしかして黒い眼鏡を掛けた背の高い痩せ型の人でしたか?」


 私は行商人の肩を掴んで揺さぶりながら尋ねました。

 すると行商人は目を白黒させながら「ああ、そうだ。その通りだ」と答えます。


「なんだ、お嬢ちゃんの知り合いかい?」

「ええ、昔とても……とてもお世話になったお方なのです」


 レオン先生は異端者として追放される前は聖女教の高位神官という立場でした。

 教会学校で生徒たちに様々な教義を教え導くことを自らの使命とし、聖女認定においては強い発言力をもっていたのです。


 本当は私は聖女なんかになりたくはありませんでした。

 ですがレオン先生が私を選んでくれた以上、それを断る訳にはいきません。


 私はレオン先生に報いるために一生懸命聖女としての役目を果たし続けました。

 そうすることで私を選んだ彼の評価が上がることを信じて。


 しかし現実は違いました。

 レオン先生は私を聖女に推薦したせいでティアラとその仲間たちによって罠にはめられ、誰よりも聖女教を信じていたはずの彼が異端者として追放されてしまうことになろうとは。


 私がその事を知ったとき、既に彼は高位神官の地位を剥奪され、王都から追放された後でした。

 そして私もこの辺境の地へ飛ばされると知って、もう二度と会えないと思っていたのです。


「その方は。レオン先生は『王都に行く』と仰られていたのですよね?」

「あ、ああ。死にに行く気かって止めたんだけどよ」

「そうですか。でしたらやはり私も王都へ行かねばなりません」


 私が決意に満ちた表情でそう伝えると、行商人は少し呆れた顔をしながらも、優しく今の王都の状況を教えてくれました。


 どうやら王都に住む人々や、貴族、王族は死霊の王をかなり甘く見ている様子でいるらしいのです。

 今まで聖女の力のおかげもあってアンデットを軽々と排除してきた歴史が彼らをそこまでにしているのでしょうか。


 しかし私とレオン先生は知っています。

 今の聖女であるティアラ = コーウェルの力は、聖女とするにはあまりにも弱いものでしか無いと。

 一般人に比べれば強い癒やしの力を持ってはいますし、平時であれば少しアンデットに苦戦する程度で問題は無かったかもしれません。

 ですが、死霊の王が軍隊化させたアンデットの群れを彼女の力で排除することは不可能でしょう。


 そして、同じく光の力、癒やしの力を使えるレオン先生が力を貸したとしても、王都の陥落が少し伸びるだけに違いありません。


「私はどうしても王都に向かわねばなりません。貴方もご存じの通り、私にはこの街を治療するほどの聖なる力があります」

「ああ、それは知っているが。それでも死霊の王の軍団に勝てるのか?」

「はい。今ならまだ……王都に王国軍と冒険者が存在している今なら十分対抗できるはずです」


 私は行商人に、この街から出るお手伝いをお願いしました。

 この街の出入り口には国から派遣されてきた兵士が常駐し、私のように辺境へ追放された者が、この地から逃げ出さないように見張っているのです。


「わかった。街のみんなに『聖女様』って呼ばれてるほどのお嬢ちゃんの力に掛けてみるぜ」

「ありがとうございます」


 私は行商人に頭を深く一度下げると、旅立つための準備をするため修道院へ駆け戻ったのでした。




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「おまちなさいリアリス」


 必要最低限の荷物をまとめ、こっそりと修道院を抜け出そうとした私の背に、そんな声が掛かります。

 声の主はこの修道院の主任であるコーラルというシスターでした。


「コーラル様、これは……」


 私は抱えていた荷物を背に隠しましたが時既に遅しなのはわかっています。

 街の門番同様、彼女もまた中央協会よりこの地に追放された私のような者を取り締まる立場にあります。

 なので、もしここで捕まってしまえば私は懲罰房送りとなり、王都への死霊の王の進軍に間に合わなくなるでしょう。


 私は意を決して彼女にその事を伝えようと口を開き掛けました。


 すると、私の弁明より先に予想外の言葉が彼女から飛び出したのです。


「王都まで行くには路銀も必要でしょう。これを持ってお行きなさい」

「えっ」


 シスターコーラルはそう言ってこぶし大の何かが詰まった布袋を私に手渡してきたのです。


「これは?」

「それは街の人たちが貴方に手渡そうとして断られ続けたお金よ」

「そんな。全て断ったはずですが」

「だから、貴方の代わりにこの修道院の為に使って欲しいと街の人たちがまとめて持って来てくださったのよ」


 シスターコーラルが言うには、彼女も何度も断ったのだそうですが、受け取って貰わないと街のみなの気持ちが収まらないと言われ渋々受け取ったのだそうです。

 ですが、それを勝手に使う訳にもいかず、もし私に何かあって必要になったときのためにと取ってくれていたのだとか。


「受け取ってあげてね」

「そう……ですか」


 私は瞳に感謝の涙を浮かべながらそれを受け取りました。

 街の人たちの愛が詰まった布袋の重さを抱きしめながら私は少しの間泣きました。

 レオン先生のえん罪での追放を知ったあの日以来、聖女認定を剥奪されて追放された時ですら流さなかった涙です。


 そんな私をシスターコーラルは泣き止むまで優しく抱きしめてくれました。

 その暖かさを無くしてなるものか。


 私の中で命がけの決意が生まれました。


 そして私はシスターコーラルにしばしの別れを告げ「必ず戻ってきます」と頭を下げ修道院を飛び出しました。


「ありがとうみんな。絶対にみんなを守ってみせるから」


 そうして私は行商人の荷物に紛れ込み、一路王都を目指し旅立ったのでした。


「待っていてください、レオン先生。くれぐれも私が追いつくまで無茶をしないで……」




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 辺境の地を出発して幾つもの街や村を経由し、行商人の紹介で乗った馬車に揺られながら王都にたどり着いたのは十日後でした。

 途中の村や街の人たちの中には、既に避難を始めている人たちもかなりいるようでした。


 なぜなら、この国では王都以外は、他国との要所以外にまともな防御壁を持った所は殆どないからです。

 死霊の王による進軍で、簡単に村や街が潰されたのはそういったこの国の形態が影響しているのは間違いありません。


「それにしても嬢ちゃんは凄いな」

「そうですか?」

「ああ、途中であれだけたくさんの人たちに癒やしの力を使っても魔力切れ一つ起こさねぇんだもんな」


 アンデットによる襲撃の噂を聞いて、一部の人たちはパニックを起こしていました。

 そのせいでもめ事が増えたのか、通る途中の街や村ではかなりのけが人が発生していたのです。

 中には私より前にその場所を通っていったレオン先生によって治療された人たちもいました。

 ですがレオン先生でも直せない怪我や、先生が去った後に出来た物も多く、それを私は道すがら全て治療していったのです。

 しかし、それはただ単に私は善意だけで行ったことではありませんでした。


「でもよぉ。少しぐらい金を貰っても良かったんじゃねぇか? 全部無償で直してやるなんて、本当にあんた聖女みたいだぜ」

「私はそんな清い人間ではありませんよ」


 私はそれだけ返事をすると目を閉じます。

 これ以上褒めそやされても心が苦しくなってしまうだけなのですから。


 なぜなら私が道すがら人々を救ったのは、この先に待っている死霊の王軍との戦いに必要だったからなのです。

 聖女の力というものは本人の資質が大きく影響するのは当然のことですが、実はそれ以外にも必要なものがあるのです。


「レオン先生の仰られていたとおりでした」


 聖女の力の研究を、ずっと行っていたレオン先生は、その力の源について、ちょうど私が聖女になると決まったときに一つの結論に達しました。

 あの日、聖女としての任命式が行われる前日でした。

 突然、深夜に聖女の館にやって来たレオン先生は、興奮気味に私に告げたのです。


「聖女の力は人々の聖女に対する思いが集まるほど強くなることがわかりました」

「聖女に対する思い……ですか」

「正しくは聖女の力を持つ人そのものに対する善なる思いというものでしょうか」


 詳しくレオン先生の話を聞いていくと、聖女という肩書きでは無く、その行いを行った者に行われた者の感謝の念が、そのまま聖女の力を強くするという話でした。

 そんな話は今まで一度も聞いたことが無く、学校でも教会でも習っていません。

 なので、あの日の私は、それがレオン先生の言葉であっても簡単に信じることは出来なかったのです。


 ですが、聖女となり、兵士の皆さんや冒険者の方々。

 そして王都に住む人々を聖女の力で救うたびに、自らの中にあるその力がどんどん強くなっていくのを実感したのです。


 その日から私は、レオン先生の説を実証するために、更に聖女としての仕事に力を入れていったのです。

 あの日、レオン先生の追放を聞かされるその日までは……。




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 王都の城門をくぐると、そこは私が出発した時と全く違う雰囲気に包まれていました。

 城門をくぐる前、やけに王都から外に向かう旅人や馬車が多いとは思っていたのですが、彼らはこの状況を見てやっと危機感を持ったに違いありません。


 というのも、王都の中にはそこかしこに傷だらけの兵士や冒険者が座り込んでおり、道路にも血の跡が続いているような状況だったからです。

 私は馬車から急いで下りると、近くの民家に寄りかかって座り込む冒険者に駆け寄り、すぐに回復魔法を掛けます。


 それほど大きな怪我はなさそうでしたが、私を見上げる顔にはかなりの疲労が見られました。

 ですが回復魔法により傷を癒やされた彼は、私の顔を見るなりその悲壮感に満ちた表情から笑顔に変えたではありませんか。

 確かに私の回復魔法は体は癒やせますが、心までは癒やせないはずなのに。


「あ、あんた……聖女様じゃないか!」


 どうやら彼は私のことを知っているようです。

 ですが、今の私は聖女ではありません。

 ですので、どう答えたら良いのか戸惑ってしまいました。


 無言でいる私に向かって彼は何かを察したのか少し気まずそうな顔をして、それから口を開きます。


「……すまない。君はもう聖女ではなかったのだったな……」

「ええ、今の私はただのシスター・リアリスですわ」


 それから彼は私の聞きたい話を教えてくれた。

 つい先日のこと、王の命令によって王都と、その近辺にいた兵士と冒険者たちが強制召集されたらしいのです。

 目的は死霊の王軍の壊滅。


 私が追放され、ティアラが聖女になってからの苦戦を経験していた者たちの中からは、周辺国への応援要請と、応援が届いてからの進軍を申し出た者もかなりいたらしいのです。

 ですが過去、聖女たちの力によってアンデットを簡単に退けてきたという経験しか知らない王族とその側近たちはその言葉に一切取り合わなかったそうです。

 裏ではティアラの家である高位貴族のコーウェル家と教会幹部たちが『聖女の威信』を守るために暗躍していたという噂もあるのだとか。


 それでも教皇に進言した心ある者たちは全て捕らわれ、王城の地下牢に現在も監禁され、誰も何も反論できないまま軍は死霊の王軍との戦いに向かったのです。


 もちろん『聖女ティアラ』による加護の儀式も行われましたが、彼女の力では全員に十分な加護など与えられるわけが無いのは私がよく知っています。

 教会幹部などによって派手に行われたらしいその儀式も、実際には見かけだけの張りぼてに過ぎず、王国軍も冒険者たちも僅かな光の加護だけを貰って死地に送り出されたのでした。


「結果はご覧の有様さ」


 冒険者が言うには、最初こそ数と装備が充実しているおかげで圧していたものの、体の一部が欠損しようとも退かないアンデットたちによって徐々に戦況は悪化。

 本来の聖女の加護。

 つまり光の力が付与された武具であれば、体ごと塵に返すことが出来るけれど、ティアラの力ではある程度のダメージを与えるのが精一杯。


 そうこうしているうちに、王国軍を率いていた貴族の一部が戦況不利と見て逃げ出したのだという。

 そうなると互角以上に戦えていた精鋭部隊に更に敵の圧力が加わり崩壊。

 あとは全軍王都へ這々の体で逃げるしか無かったのだという。


 幸いアンデットたちは足がかなり遅いために、死ぬほどの怪我を負って見捨てられた者たちを除けば、ほとんど帰ってくることは出来たものの、それでも負傷者多数で、軽症の者は治療もされず道ばたにへたり込むしか無い状況だったらしい。


「そういえば撤退する時に馬のアンデットとかの足の速いアンデットを押さえてくれた司祭様がいたんだが……」

「えっ」

「たしかあの人、聖女様――リアリス様と一緒に追放された司祭様だったような」

「まさか、レオン先生」


 私の鼓動が早まります。

 死霊の王軍から敗走する人たちを守るためにレオン先生がアンデットの前に立ちはだかったということでしょうか。


 私はレオン先生の実力を知っています。

 私には及ばないまでも、今の聖女であるティアラよりも強い力を持っていたあのお方なら死霊の王軍を一時的に足止めする事は可能かもしれません。


「それで、レオン先生はどこにいらっしゃるのですか!?」


 私は冒険者の肩を掴んで問い詰めます。


「あ、あの人なら教会本部前の仮設テントで重傷者の治療をしているよ」

「良かった……無事でしたのね。ありがとうございます」


 私は冒険者に一言お礼をするとレオン先生がいるという仮設テントを目指して走りました。

 途中で倒れている人たちを見捨てることも出来ず、治療して周りながらでしたので、思った以上に時間が掛かりました。


「私は教会前の仮設テントに向かいますので、皆さんは他の所で倒れている方たちを連れてきてくださいますか」


 そう伝え、元気になった彼ら彼女らが頷くのを見て走った先にそれはありました。


 まるで地獄のよう。


 その風景を見て最初に私が感じたのはそんな空気でした。

 テントの外には入りきれない人たちが無造作に並べられ、そのほとんどが意識を失っているようです。

 意識のある人たちも、大きな怪我を負ってうめき声を上げ続け、今にもその命の灯が消えそうな方たちばかり。


「皆さん、もう少しの辛抱です!!」


 私はそう告げると大きく手を広げ、ありったけの癒やしの力を解放しました。

 あの辺境の街や、ここまでの道中で得た聖女の力。

 その全てを解放します。


「せ、聖女様」

「本当だ。聖女様だ」

「この光はなんだ」


 私の体からあふれ出た光が王都中に広がって行きます。

 力をチュ買っている私自身、ここまで自分の力が強くなっているとは思いも寄らなかったので戸惑いつつも力を解放し続けました。


「なんだ。いったい何が起こったんだ」

「奇跡だ。奇跡が起こったぞ!」

「痛く……ない」

「俺の足が生えた!!」


 テントの外で今にも死にかけていた人たちだけで無く、テントの中からも悲鳴に似た歓喜の声が聞こえてきました。

 そして、全ての治療を終えた私が力を止め、大きく息を吸い込んで深呼吸をした時でした。


「まさかとは思ったけれど、やはり君だったか」


 テントの方から懐かしいあの人の声が聞こえてきたのです。


「まさかとは思ったけれど、やはり君だったか」

「お久しぶりですレオン先生」


 テントの中から血で汚れた白衣を纏ったレオン先生が出てくると、私を見つけ嬉しそうに声を掛けてくれました。

 それほど長い間合わなかった訳ではありませんが、元々白髪の多かったレオン先生の頭は、よほど苦労なされたのか今は真っ白になっています。

 それもこれも私なんかを聖女に推薦したばかりに。


「先生、私のせいで先生まで巻き込まれて……」


 謝ろうと口を開いた私に、先生の制止の声が掛かります。


「やめなさいリアリス。貴方のせいなどではありません」

「ですが」

「むしろ僕の方が貴方に謝らねばならない。なりたくも無い聖女の職を、僕のせいで無理矢理やらされることになってすまなかった。それどころかあの辺境の地へ送られることになるなんて。大丈夫だったかい?」


 レオン先生が私の顔を見つめながら心配そうに問いかけてきます。

 私は先生に満面の笑みを浮かべて「いいえ、大変なことはありませんでした。むしろそのおかげで私は聖女の力を強くすることが出来たのですから」と答えました。

 その言葉を聞いたレオン先生は一度、ほっとした表情の後、私の言葉の意味に気がついたのか目を見開き驚いたような、それでいて興味深げな表情を浮かべ、ゆっくりと口を開きます。


「まさか……僕のあの論文を、聖女の力の増幅法を君は」

「ええ、辺境の街を救い、そしてこの王都へくる途中でもできうる限り人々を救い、そして王都でもたくさんの人たちを『皆の目に見える形で』救いました」

「それであんなにも強い癒やしの力が使えるようになったというのか」


 レオン先生は少し体を震わせて、興奮を隠せないようでした。

 やはり彼は聖職者でありながらも探求者なのでしょう。

 お世話になったレオン先生の為に役に立てているという充実感を胸に私は言葉を続けます。


「はい、私がこの王都を追放される前の力は、先生ならご存じでしょう?」

「確かに。あの頃の君の力では、同時にこれほど多くの人たちの傷を癒やすことは不可能だったろう。ということはやはり僕の考えは正しかったということなのか」

「ええ、そういうことですわ」


 私はレオン先生の手を取って答えます。


「レオン先生。貴方はこれからこの国を救った英雄になってください」

「英雄?」

「ええ。私と共に、この国で戦える人たちに加護を与えて死霊の王を倒しましょう」


 レオン先生に張られた異端者というレッテルを消し去り、彼を罠にはめた人たちを排除するためには私たちが彼らより上だと言うことを全ての人々に見せつけねばなりません。

 私はここまでの間、人々を救うために密かに癒やした人々に伝えてきた言葉があります。

 それは――


『私のこの力は、全て恩師であるレオン=エルデン様から頂いた力。そして人々を癒やすのは彼の願いなのです。私はその願いを叶えて回っているだけにすぎません』


 と。


 それから私は師であり、密かにお慕いしているレオン先生をこの国の英雄にすべく作戦を彼に伝えました。

 最初は自分のような者が表に出るなどおこがましい行いなのでは無いかと渋っていたレオン先生も、私の必死な説得と、彼に助けられた兵士や冒険者たちの後押しもあって、死霊の王軍との決戦での総大将を務めることを承諾してくださいました。


 レオン先生が『総大将』という席に着けた理由は実は他にあります。

 なんと、前回の死霊の王群討伐失敗を知って、この国の重鎮たちがいつの間にか資財を持って真っ先にこの王都から脱出し行方知らずになっていることが判明したのです。


 そして、更に驚くべきことに、私とレオン先生を追放した教会の上層部も一緒に逃亡したというではありませんか。


「まさか現聖女まで民を見捨てて逃げるとは……聖女教はおしまいだな」


 本来なら王族と聖女が先頭に立って軍を率いなければならないというのに。

 レオン先生の嘆きはいかほどであったでしょう。


 ですが、これは私にとっては好都合でした。

 どうせ、今回の死霊の王軍討伐が終われば全員粛正するつもりだったのです。

 むしろこれで更に強力な大義名分が出来たというものです。


「大丈夫。レオン先生と私がいるかぎり、レオン先生が心から信じていた本当の聖女教はなくなったりなんてしません」


 私は涙を流すレオン先生をそっと抱きしめながら彼の耳元でささやきます。


「私が、貴方を……貴方の望みを全て叶えて見せますから」


 そこからの私の行動は迅速でした。

 我ながら頑張ったと思います。


 もぬけの殻となった王城前に、私の力で癒やされた兵士と冒険者、そして王都に残っている全ての人々を集め、いつもは王族が経つバルコニーでレオン先生と私が並んで立ち、先生の拡声魔法を使い全ての人々に聞こえるように告げました。


 今、この王都を目指し進軍してくる死霊の王軍のこと。

 偽聖女――ティアラによって討伐軍が壊滅しかけたこと。

 それをギリギリの所でレオン先生が救ったこと。

 そして、真の聖女である私のこと――自分で自分のことを真の聖女などと言うのは恥ずかしかったのですが、しかたがありません。

 私が癒やしの力を使い人々を救い続けたのはレオン先生のおかげだと言うこと。


 最後に、私たちや国民が必死に戦って守ろうとしているこの王都を、王族や貴族、そして偽聖女と偽聖女を担ぎ上げ、真の聖女を追放しこの国を機器に貶めた人たちが自分勝手に王都を民を兵を捨て逃げたということを大々的に告発したのです。


 本来国を守るべき者たちの逃亡を聞いて、民衆の中から絶望の色を纏った嘆きの声が上がります。

 中にはそれを聞いて自分たちも逃げようと行動を始めた人たちも見受けられました。


「ですが安心してください。僕は貴方たちを決して見捨てません」


 レオン先生が打ち合わせ通り一歩前に進み出るとりりしい声でそう告げます。

 そして、私の方を一度振り返ると、真剣なまなざしで王城前に集まった人々を一度見回してから私の手を引いて自分の隣に立たせました。

 私が打ち合わせに無いその行動に、少し頬を染めてしまったのは仕方の無いことでしょう。


「あ、あの。レオン先生……」


 私の言葉は彼の笑顔で止められました。

 彼は私が口をつぐむのをまってから民に語りかけます。


「今、この国には『真の聖女』として覚醒した我が愛しい教え子リアリス= バーデングルブがいる! 彼女の力は王都の人々は既にその身をもって知ったはずだ」


 レオン先生の言葉に、集まった民衆から大きな喝采が上がります。

 そしてそれが少し収まるのを待ってレオン先生は続けます。


「真の聖女であるリアリスと、この私が全ての力を使い、兵を導けば、死霊の王軍など敵では無いでしょう!!!」


 地鳴りのような歓声は、死霊の王軍への復讐を願う兵士や冒険者たちの声でしょう。

 彼らの中には前回の戦いで仲間を失った者も多くいるのです。


「皆さん。これから僕たちは死霊の王軍を蹴散らしに行って参ります。ですので戦いに赴かない人たちは僕と聖女、そして戦いに赴く者たち全てに祈りを捧げてください。それが僕たち全員の力になるのです」


 手を広げそう告げたレオン先生は、静かに一礼をしてから、隣に立つ私の肩をそっと抱き寄せます。

 そして大きく民衆に向けて手を振ってから城の中に私の肩を抱きながら戻ります。


 王城前の広場から聞こえる「聖女様バンザーイ」「レオン様バンザーイ」という声を背に、私たちは最終決戦に向かいました。


 死霊の王軍との戦いは私の予想通り王国軍の圧倒的勝利で終わりました。

 どれほど圧倒的だったのかと言えば、王国軍と冒険者たちには一人も負傷者が出なかったと言えばわかるでしょう。

 なぜなら私の聖女の力によって加護を受けた剣は、一刀でアンデットを塵に変え、アンデットの攻撃は同じく加護を受けた鎧によってほとんど兵士たちの体に届くことも無かったのです。

 そして、少しのかすり傷を受けたとしても、その全てが次の瞬間には完治するのです。


 全てのアンデットを塵に変えられ、一体だけ残った死霊の王。

 しかし、そんな王の力ですら私の聖女の力の前では無力でした。


「死霊の王よ! 塵と化せ!!!」


 私の聖女の加護を受けたレオン先生の叫び声が戦場に響き渡ります。

 筋s熱先頭は苦手だと仰られていましたが、全ての兵士たちの前で敵軍の王を討ち取る姿は絶対に見せるべきだという私の言葉で、彼は渋々この役目を果たすことを決めてくれました。


「ああ、凜々しいお姿ですレオン先生」


 聖女の力を受け、光り輝く装備を身に纏ったレオン先生の姿は、私だけで無くその場にいた全ての者たちの瞳に刻みつけられたことでしょう。


「グォォォォォォアアァァァァァァ」


 空高く響き渡る死霊の王の断末魔。

 死霊の王は、自らの死と共にレオン先生に最後の呪いを放ったようでしたが、そんなものが私の聖女の加護にかなうわけがありません。

 それを知った瞬間の死霊の王の顔は、表情がうかがい知れないはずのアンデットであるはずなのに、私には驚愕と諦めの表情を浮かべたことがはっきりとわかりました。


「終わっ……たか」


 レオン先生はそう呟くと、手にした剣を大きく天に突き上げときの声を上げました。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 地響きのような歓声が戦場に広がって行きます。

 この瞬間、私はこの国の新たなる王が誕生したことを革新したのでした。


「さて、それでは最後の大掃除を始めましょうか」


 私は一人、喜びに沸く戦場に背を向け馬を王都へ向け駆け出しました。

 目的地は王都……ではなくその向こう側。


「手を汚すのは私だけでいいのです。さようならレオン様」


 私は涙を振り払いながら馬を急かせます。

 目指す先は偽聖女ティアラや王族たちが逃げた先にある彼らの隠れ家。

 聖女時代に密かに調べていた王族が最後に頼る場所。


「首を長くして待ってなさい」




★●★●★●★●★●




「あれは何かしら?」


 半日ほど馬が潰れそうになる速度で走り続けた私は、向かう先から奇妙な一団がこちらに向かってくるのを発見しました。

 すっかり日も暮れた草原にかなりの数の黒い影がうごめいていました。


「まさか……アンデット?」


 その動きは戦場で見たアンデットそのものではないですか。

 後に知ったことでしたが、死霊の王軍は途中で取り込んだ新たなアンデットを王都以外へも進軍させていたらしく、その中の一軍が私がこれから目指す予定だった地に進軍していたのです。


「あれは王と王子。それと……ティアラ!?」


 暗闇のせいでわかりにくかったものの、まだアンデット化して間もないのか、彼ら彼女らの顔は崩れても腐ってもいなかった。

 そのおかげで私にははっきりとその顔を認識することが出来たのです。


 私たちを追放し、民を見捨てた者の末路。

 それは神の与えし罰なのか。


 私は心の中で天の神に感謝の祈りを捧げます。


「アンデットを浄化するのは聖女の役目。これは殺人ではありませんよね神よ」


 私は知らぬ間に口元に笑みが浮かんでくるのを止められませんでした。


「全ての不浄なる者よ!」


 両手を天にかざし私は最上級の光魔法を唱え始めます。

 ゆっくりとですが、私の両手の間にまばゆい光の球が作り出されていきます。


「全て塵と化し消え去るべし!!!」


 そう。

 不浄な貴方たちを私がこの世から消し去ってあげましょう。

 その行く先は天では無いかもしれませんが、私の知ったことではありません。

 それは神のみぞ知ること。


 私の作り上げた光は、一直線にアンデットたちがうごめくその場所の中心に放たれました。

 そして次の瞬間には辺り一面に猛烈な光が満ちると、その光の中でアンデットたちが塵と化していきます。


「さようならティアラ。貴方のおかげで私は願いを叶えることが出来たの。感謝してるわ」


 私はそう呟くとその場を後にし、王都への帰路につきました。

 王やティアラの遺品は、後でレオン先生に頼んで回収してもらうことにしましょう。

 それまでに野党なりに奪われたとしても、今はもう必要のないものですしね。


「さぁ、これからレオン先生の王就任と、国の立て直しを頑張らないといけません」


 私はそう自分自身に言い聞かせ、新たな未来に向かって馬を歩ませたのでした。


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聖女認定を剥奪されたら本当の幸せを掴むことが出来ました 長尾隆生 @takakun

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