第32話・真夜中の訪問者


 その日の夜。志織は寝付かれずにいた。天蓋付きのベットのなかで何度も寝がえりを打っては溜息しか出て来ない。

 マーカサイトの無事は知れて良かったけれども、レオナルド達は無事にモレムナイトについただろうか? とか、志織だけがこちらの国に残ったことで、イエセや、レオナルドはどう思っただろうかとか考え出すときりが無かった。


(誰も怪我はなかっただろうか?)


 グライフはあくまで志織を招待する為に出向いたと言っていて、テント場を襲うつもりはなかったようだ。それが先に勇者に攻撃をされてしまうので話し合いにはならず(というか勇者が話し合いに応じる姿勢ではない為)

 あのように志織を攫う形となって「申しわけありませんでした」と、あの後深く謝罪してくれた。


 グライフは転移装置でモレムナイトに送り返した仲間に手紙を託したと言ってはいたが、それを読んだレオナルドが誤解しないでいてくれればいいのですが‥と、渋い顔をしていた。

 イエセには事の詳細を記したお詫びの手紙を託したそうで、その上でしばらく聖女をこちらにご招待したい。と、したためてあるという話だった。それを聞いた志織は、きっとレオナルドのことだからイエセから話を聞いて今頃は、聖女が魔族に攫われたと大騒ぎをしてるような気がしてならない。


 どうしたものか。と、答えの出ない事を延々と思案していたら、コツコツと部屋の窓ガラスが叩かれる音がした。


「誰?」


 志織は恐る恐る窓ガラスに近付いた。皆が寝静まった夜。こんな時間に彼女の部屋を訪れる者なんていないはずだ。

 不審者だろうか? 何かあったらすぐにマーカサイドを呼びつけるけど。と、そろそろと音を忍ばせて窓に近付いてみれば思いがけない人がバルコニーにいた。


「ロベルト?」


「リー」


 その姿を見て、すぐに志織は窓を開けた。ベランダからロベルトが入り込んで来た。


「ロベルト。あなたどうしてここへ? モレムナイトへ帰ったんじゃなかったの?」


「きみを残してモレムナイトに帰れやしないよ。無事だったんだね? ああ。リー、良かった」


「ロベルト。あなたも無事だったのね?」


 ロベルトとの再会を喜び抱擁しあった志織は、彼の身体を見回した。特に怪我はなさそうで元気そうな彼の姿にホッとした。そんな志織をロベルトが自分の胸のなかへ抱え込む。


「心配したよ。きみが元気そうで良かった。攫われたと聞いていても経ってもいられなかったんだ」


「心配かけてごめんなさい。ロベルト」


 顔をあげれば端整な顔が目の前にあった。黒水晶のような瞳が輝きを放っている。


「目のやり場に困るな」


 彼の言葉に志織は自分のいまの格好を自覚した。寝台のなかにいたので彼女は寝巻き姿のままだった。淡いブルーの薄い生地でできた寝巻きは、ところどころ透けていて二の腕や身体の線を如実に露わしていた。


「きゃっ。ちょっと待って……」


 彼の視線が泳いだのをきっかけに、志織は彼の腕の中から抜け出し、ベット脇に置いてあったガウンを手に取ろうとしたのを背後から抱きしめられた。


「ロベ……!」


 振り返った志織の唇に、彼の顔が近付いたと思ったら唇が奪われていた。ガウンを掴みかけた腕が落ちて行く。


「綺麗だよ。リー」


 唇が離れて、彼の視線と目があう。身体が持ちあげられて志織は寝台の上に転がされた。ぽすん。と、身体が弾む。その上にロベルトが乗り上がって来た。


「リー……」


 同意を求める様な視線を前に志織は目を閉じた。ロベルトならば構わない様な気がした。彼は小鳥が啄ばむ様なキスを額や頬にしかけて来る。

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