第3話・小さな創世神
少年が少年らしく見えなくて不思議に思う。周囲の声がいつしか静かになってる事に気が付いた志織は辺りを見て驚いた。
「誰もいない?」
誰もいないどころか少年と志織以外ここには何も存在してなかった。何もない空間に少年とふたりでいた。
「ここは?」
「きみとふたりで話したくなったから今までいた世界からこの場だけ切り取ったんだよ。そうだな、きみの世界でいう結界のなかにいると思えば良い」
「まさかあなたが……? 神さま?」
摩訶不思議なことを目の当たりにして志織は驚愕した。少年の話口調が変わっている。今までの彼とは別人のようだ。少年はくすりと笑う。
「やだな。お姉さん。ぼくの正体に気が付いたからって言葉を改めないでよ。ユミルでいいよ」
ユミルと言うのは神さまの名前だろうか? 志織は恐縮した。
「ユミル?」
「そうそう。今まで召喚した聖女たちの誰にもぼくの名前を教えたことなかったけど。お姉さんは特別だよ」
「ありがとう……?」
志織の心は弾まなかった。特別認定されてもなんだかあまり嬉しく感じられなかった。きっと現実離れしすぎていて自分でも認めたくないんだろうな。と、思う。異世界に召喚されたことを。
でもそのおかげで志織は開き直ることにした。こうしてこの世界の神さまにあったのも何かの御縁だ。ええい。考えても意味が無いのなら聞いてしまおう。
「ねえ。ユミル。ここはどこ?」
「ここはモレムナイト。人間の国と魔物の国がある世界だよ。もう大体察しがついてると思うけど、お姉さんは聖女としてこの世界に召喚されたんだ。この世界は召喚された聖女によって世界の結末が決まることになっている。お姉さんの前にあるのは勇者ルートか魔王ルートのふたつ。このどちらかを選んでもらうことになるはずだよ」
「勇者ルート? 魔王ルート? なにそれ?」
「勇者ルートを選べは、勇者と魔王を倒す旅に出て魔王を倒し魔族を消滅させて人間だけが生き残る世界となる。そしてきみは人間界の王である勇者王と結婚し王妃となって生きてゆく」
「じゃあ、魔王ルートは?」
「魔王に捕らわれて食客となり、魔王を倒しに来た勇者たちを滅し魔物が闊歩する帝国を築き上げる。きみのその後は魔王の寵妃となって魔物を蹂躙し生きてゆく」
勇者ルートや魔王ルートって聞くとなんだか恋愛遊戯ゲームの攻略みたいな話だが怖い話だ。志織の選択次第では人間が滅びるかも知れないのだから。それは困る。
「必ず選ばなくてはならないの? 選ばずに元の世界に帰っちゃだめ?」
志織はあのふたりを思い浮かべてげんなりした。なんだか二人揃うと騒がしいイケメン達だった。どちらかを選ぶとなればマーカサイトだろうか。上から目線でギャランドウのレオンナルドは全力でお断りしたい。しかし、マーカサイトは魔王だからそうなると人間全滅の結果が待っている。
(帰りたいです。マジで)
「ごめんね。お姉さんをもう元の世界には帰してあげれないんだ。お姉さんには選んでもらわなくてはならない」
「そんな……」
志織の望みをあっさりとユミルは打ち破った。そうなるとあのふたりのどちらかを選び、その後あいつらの妻に?
なんだか背中がぞっとしてきた志織である。
こうして自分に応えるユミルは四歳くらいの少年で愛らしい存在なのに、なぜ彼がこの世界の神さまなのだろう。彼でなかったのなら思いきり八つ当たりしたい所なのに。天使の様な容姿の彼の前ではそんな邪な思いを抱いたことさえ気が引けてしまう。
「どうしてこの世界に聖女を召喚させるの? どうして他の世界から招いた聖女に勇者ルートか、魔王ルートを選ばせてこの世界の結末を決めさせることにしたの?」
ユミルを見て志織は忌々しさを言葉に変えて吐き出した。ユミルは志織の言葉を受け止める様に一度瞳を閉じゆっくりと目蓋を持ちあげてから言った。
「この世界は実はぼくの弟の為に創った世界だったんだよ。弟はその昔おごり高ぶって父神さまを馬鹿にした。その怒りをかって消滅させられようとしていたのをぼくが助けたんだ。天界にとっては外敵であってもぼくにとっては同時にこの世に生を受けた可愛い弟だからね。だけどそれを父神さまは許さなかった。
ぼくはこの世界に弟を匿ったが、父神は弟を葬る為に勇者という存在を送り込んで来た。ぼくはこの世界の創世神である限りこの世界に住む者への干渉は天界から許されていない」
「だから異世界から人を?」
この世界での干渉を許されていないユミルは、それでも弟を守ろうと抗おうとしたということか。
「ああ。勇者が弟を倒す目的で産まれるのならば、その彼の意識を他に向ける為に女性を近付けさせようとした。だがこの世界の女性には介入できない。それならば異世界からと召喚することにしたが、でもそれは父神さまの干渉も許す事となり今度はその召喚した聖女と勇者が結託して弟を倒す流れとなっていた」
志織はユミルの話のなかで気が付いたことがあった。容姿はそんなに似てないけれど、宝石のような紫の瞳に見覚えがある。
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