『爆弾売りの少女』

やましん(テンパー)

『爆弾売りの少女』

 『これは、フィクションであります。お気に障る場合もあると思います。お詫びします。質の良くない、ギャグみたいなものですから。』


         🕯️


 『爆弾はいらんかねー。爆弾はいらんかねー。正真正銘の核爆弾だよ〰️〰️。安全なケース入りだよお。』


 それは、あらゆるものを、氷り付けにしそうな夜でした。


 少女は、先週までは、まっちを売っていましたが、さっぱりもうからず、それでは、お母様のお薬代にはなりません。


 そこで、黒いコートの、かなり怪しい男から仕入れた、爆弾を売りに出したのです。


 『爆弾は、いらんかねー。正真正銘の核爆弾だよ〰️〰️。』


 世の中は、貧富の差があまりにひどくなり、お金持ちが住む区画は、高い、しかし、わりにお洒落な塀に囲まれていて、警備ロボットさんもたくさん配置されていました。


 入り込んで、悪さはできません。


 さらに、もっとお金持ちが住む場所は、まさに天国みたいな、空中都市でした。


 そういう人は、地上と、空中の両方にお屋敷があったものです。


 しかし、それ以外のひとたちは、崖の下辺りに掘り込んだ、横穴式石室から、竪穴住居、ばらっく、蜂の巣アパート、と、様々な簡易な住居があり、多少収入が良くなると、戸建ての借家、さらに、小さいながらも、一戸建ての住宅のオーナー、わりに綺麗な賃貸マンション、さらに、購入型マンション。と、なるひとも、まれにありました。


 しかし、この人たちは、塀の中の豊かな人たちとは、まるで異世界に住む、エイリアンみたいな感じなのでした。


 当然、いろんな、不満が渦を巻きます。


 そこで、様々な、息抜き商品が生まれました。


 合法的なものから、非合法なものまで。



 『爆弾は、いらんかねー。』


 少女が売っているのは、超小型核爆弾を、小さなケースに入れたもので、おもちゃ、の部類に入ります。


 ケースの中には、ミニチュアサイズの街などが、作られています。


 価格によって、その作りは、違います。


 わりに、細かく作られた、けっこうな美術的なものから、単なる絵や、写真だったりもします。


 中央部分には、超小型サイズの、核爆弾が仕込まれています。


 使えるのは、一回きりです。


 こうした、超小型核爆弾は、非常にお安く作られていて、爆発しても、被害が及ぶのは、箱の中だけです。


 放射線も、ケースに遮蔽されて、ほとんど、漏れないはずでしたし、多少漏れても、害はないはずでした。


 ただ、なかに、粗悪品があったりも、するようです。


 寒さは、ますます募って行きます。


 しかし、爆弾は、マッチと同じく、まったく売れません。


 少女は、爆弾を仕入れるために、手持ちのマッチは、すべて売ってしまいまいました。


 あの、黒服の人は、言っていました。


 『このカバーは、ちょっとしたコツが解れば、取り外せます。すると、外気に触れた状態で、爆発を起こせます。なんせ、核爆弾だよ。火球の中心は、太陽よりも、熱くなり、回りを暖めるから、小さな暖房にはなる。ただし、死の瀬戸際以外は、やらないように。放射線による傷害は、小さいがね、ないわけではない。マッチを一箱、おまけに、残しておいてあげよう。』


 スイッチを入れるとどうなるのか?


 男は、一回だけ、実験して見せました。


 スイッチを入れると、女性の声で、10から、秒読みが始まりました。


 さいご、0、になった瞬間に、カバーの中が、真っ白に光輝き、それから、小さなきのこ雲が沸き上がりました。


 雲は、赤から段々、冷えて黒くなって行きます。


 すると、やがて、箱の中の空から、ちいさな、雪のようなものが降ってきました。


 ライトに照らされて、美しく輝きます。


 でも、それは、死の灰でした。


 それで、終わりです。


 品物によっては、小さなねずみさんとかを、入れるようになっている、倫理的に問題なのもありましたが、少女の売り物は、そうではありませんでした。


 『売り上げがないと、明日がまた、食べられない。パンを、一個だけ買っといたのは、正解ね。』


 それは、明日用のパンでした。


 少女は、でも、おなかが、ペコペコでした。


 いま、食べてしまったら、明日はないかもしれません。


 今夜食べないと、あすは、食べられないかもしれません。 


 爆弾が、一個でも売れたら、パンを、一個買える利益が出ます。


 マッチより、ちょっと高いぶん、利益は大きくなります。


 でも、こうしたおもちゃは、いまや、あちこちで売っていました。


 彼女は、考えました。


 価格を下げるしかないな。


 当然、売上は減ります。


 しかし、余計に売れたら、もうかるかも知れない。


 マッチを灯して、白昼夢をみて、凍死するより、爆弾を、爆発させてみるほうが、まだましだと、思います。


 『爆弾は、いらんかねー。いまから、半額にしまあす。爆弾は、いらんかねー。』


 人通りは、深夜になって、少なくなりましたが、なにもすることなく、ふらふらしている人も、あるようです。


 彼女は、一個取り出し、スイッチを入れました。


 『はい〰️〰️〰️。爆弾だよ。爆弾だよ。核爆弾だよ。いらんかねー。』


 秒読みが始まり、通りががったひとが、ちょっと足を止めて、見学しました。


 このあたりは、所得が低い人たちの街ですが、横穴住居よりは、多少まし、というくらいでした。


 『ばぁわーん。』


 ケースのなかで、爆発が起こり、可愛いきのこ雲があがりました。


 『お〰️〰️。』


 みな、それで、帰ってしまいます。


 大体の人たちが、食べるのに精一杯なのですから。


 すると、なんだか、体のバランスが崩れたような、初老の男のひとが現れました。


 やましん、というひとでした。


 『ああ。あなた、はんがくでしか?』


 『はい。今だけ。半額です。』


 『じゃあ。全部ください。』


 『え? 全部?』


 『うん。全部ね。この半額なら。品は確か?』


 『いまの爆発、見ましたか?』


 『うん。みた。ちょっとしつれい。消費期限は? ああ、短いけど、ま、いいや。』


 その男のひとは、お金を払って、いなくなりました。


 爆弾売りの少女は、思わぬ収入になりました。


 不思議なことに、それから、毎晩、良く売れるようになりました。


 理由はわかりません。


 半月くらい経ったとき、黒服の人は告げました。


 『これで、終わりにしよう。きみも、他の街にいった方がいいよ。』


 最後の品も、あっという間に、売れました。


 なかなか、勘の鋭い彼女は、その夜のうちに、夜行列車で、お母さんを連れて、街を離れました。


 次の日、街中の無許可販売店の一斉検挙が行われました。


 

 核爆弾による、テロが、高級住宅街付近でおこったのは、その三日後でした。


 街を支配する王様は、爆弾のおもちゃを、野放しにしていたことを、悔やみました。


 小さくても、知識のある人がまとめれば、それなりの威力になるのです。


 犯人グループも、少女も、そうして、すべての品物の卸元だった男も、すでに、いなくなっていました。


 少女は、よその街に行き、手元のお金をもとに、小さなお菓子やさんをはじめ、かなり成功しました。


 爆弾を毎晩買ったひとたちは、それぞれどうやったのか、良くわかりませんでした。


 やましんというひとは、ちょっとしたことから、身元がわれ、爆弾は、みな、自室に飾っていました。


 使った形跡がなかったので、お仕置きとして、一週間留置されました。


 爆弾は、押収されました。


 わりに、寛大な王様でしたから。


 街のなかでは、それからしばらく、あちこちで、小さな核爆発がありましたそうな。


 しかし、社会のあり方は、変わりませんでした。



        おしまい

 


 


 


 

 


 

 


 

 

 


 


 


 

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『爆弾売りの少女』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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