第9章 新たに集まるお客様!

第187話 牙狼族のギーツの旅と親子丼!

牙狼族のギーツは、成人を迎えるとすぐに里を飛び出して旅に出た。今はもう60歳になり獣人としての絶頂期の人生はそろそろ終わりを迎えようとしていた。35年近い旅の中で色々経験しているギーツ。死にそうになったことは幾度となく経験している。人間の国にいけば獣人というだけで差別を受けて、いつしか差別の少ない国や森の中でサバイバルをして生活をしてきた。そして、獣人の身体能力は70歳から急激に低下をする為に、残り少ない時間をある場所で過ごそうと決意したのだ。それが魔境である。自分がどれほど強いのか死んでもいいから確かめたかったのである。


「あの爺さんに嘘を教えられたのかもしれんな。ここから行けばまだ下層だから安全だと言われたが、次から次へと襲いかかってくるぞ」


どんどん襲いかかってくる魔物を鍛え抜かれた腕力と牙と爪で倒していく。だが、キリがない戦いに体力も精神力もどんどん削られていく。


「ハァハァハァ...そろそろ限界だ...このまま寝るのも...っていかんいかん」


目を擦りながら、また走り始める。そして夜になると木の上で寝る。だが、サルの魔物や鳥の魔物が襲いかかってきておちおち寝てもいられない。


「ふぅ...もうここがどこなのか?何日経ったのか?すらわからなくなってきたぞ。魔物もどんどん強くなっていることを考えると中層あたりなのか?」


そんな独り言を話していると辺りが騒がしくなり木々が倒れる音や何かと何かがぶつかったような音が聞こえてきた。気になったギーツは音のする方に近付き草の陰からそっと覗く。すると見たこともないゴリラのような魔物とこちらも見たことがない巨大蛇の魔物と巨大なコカトリスが大怪獣バトルのようなことを繰り広げていた。あまりのことに言葉を無くしたギーツは、早く逃げようと足を一歩踏み出した時に枝を踏んでしまう。そのパキッという音に魔物達は一斉にギーツの方を向く。


「・・・・・・・・」


魔物が一斉にギャオォォォと鳴き声を上げてギーツに襲いかかる。ギーツは、死んだなと思い目を瞑るが一向に痛みがない。どうなっているのかとゆっくり目を開けると全ての魔物が真っ二つになり死んでいた。


「無事か?」


上の方で声のすると思い、空を見上げるとなんと超巨大な龍がいたのである。あまりの恐怖にそのまま後ろに倒れて気絶するギーツ。


「もう驚かせてどうするのですか!次からは私達が声をかけますからね。グラさんは黙っていて下さい」


「うぅ...面目無い...」


「グラさんは悪くないですから落ち込まないで大丈夫ですよ」


ドゥルシッラがグラデュースに怒るが、テオフィロはグラデュースを慰める。最初は、古龍ということで恐れたり敬っていたが最近では仲のいい友のような関係になっている。


「うっ!ん?ん?ここは?」


辺りを見回すと見たことがない家具や部屋の様式に、ここはどこなんだとなる。ギーツは警戒しながらもドアがあったので、ノブを回して部屋の外に出る。すると下から笑い声などが聞こえるので警戒しながら階段をゆっくり下りる。


「牛丼おかわり」「生姜焼きとライスをお願い」「イチゴケーキとプリンをちょうだい」


階段を下りると全員が食事をしている。しかもおいしそうな匂いが店中に広がっているのだ。


「あれ?起きてこられたんですね。お父さん起きてきたみたいですよ」


ぼぉーとしていたら獣人の女の子が何やら父親に伝えている。起きてきたという言葉に俺のことを言っていると気づくギーツ。


「ちょっとお嬢ちゃんここ...行ってしまったか」


「あの?体調はもう平気ですか?」


振り返るとそこには人間がいた。思わず過去の人間から受けた差別を思い出して仰け反るが、その人間からは不快というか蔑む視線を感じない。


「もしかしてまだ体調が悪かったですか?」


「いや...ぐぅぅぅぅ」


そんなことはないと言おうとしたらお腹が盛大に鳴ってしまう。恥ずかしくなり思わず顔を赤らめるギーツ。


「ちょっと待ってて下さいね。すぐ食事を用意しますから。空いているお席に座ってお待ち下さい」


「え?あ?ちょ...」


ここはどこか聞こうとしたが、またタイミングを失ってしまう。仕方ないので人間に言われた通り空いている席に座る。そして食事をしている誰かに、ここがどこか尋ねようとしたがどの客もみんな食事に夢中で聞くタイミングなどない。


「親子丼の卵黄乗せお待たせしました。食べ進めて味を変えたくなったら上に乗ってる黄身を潰して食べてみてください」


それだけ言うと拓哉は去っていく。食べたことがない料理に生の卵が乗っているのだ。獣人に対する嫌がらせかとも思ったが、よく見ると店にはダークエルフに精霊に妖精までいる。それに気づいたギーツは、こういう食べ物なのではと推測し始める。そしてスプーンを手に取って料理を食べ始めるのだった。


「う、うまい...さっぱりしながらもしっかりとした肉の味に、味わったことないどこか懐かしいような落ち着く味わいにライスと卵が絡み合って食べていると実感させられる。それに時々感じるシャクとした野菜もいい感じだ」


そして、付け合せに用意されたたくあんを食べてお茶を飲み、口をリセットしてから卵黄を潰す。すると濃い黄身がドロッと流れる。普通なら気持ち悪くて食べるのを躊躇するが、この料理の虜になっているギーツはなんの躊躇もなく口に運ぶ。


「うめぇ〜〜なんだこの濃厚な旨味は!さっきとはまったく別物の料理だぞ。今すぐかき込みたくなる。ウッハハハ!うますぎる!すまんがお代わりをくれ」


ギーツは、食事のことで頭がいっぱいになり、ここがどこだということはどうでもよくなっていた。またこうして憩い亭の料理を愛する人物が増えるのであった。

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