第122話 (前編) コロボックルの爺と姫様!

雨がしとしと降る中、フキの葉を傘代わりに持って歩く二人の小人がいた。


「姫様、お寒くはありませんかな?」


濡れた体と雨の所為か、気温も少し下がっている。 


「別に寒くないわ。 それにしても、本当にあの猫が言った店があるのかしら? そろそろ爺が言っている美味しい物が食べたいわ。 どうせ、ラベンダーの蜜に勝る物なんか存在しないだろうけど」


この二人は、コロボックルの姫様と付き人の爺である。 昔から、姫様はラベンダーの蜜しか食べない偏食家であり、根菜が出るや否や部屋に閉じこもり1週間は出てこないほどの根菜嫌いである。 それをどうにか出来ないかとコロボックルの料理人が頑張るも惨敗を期していた。 だが、希望が見えるような話をケットシーの商人から聞いたのだ。 なんと人間が料理人なのだが、異種族が大勢集まる大人気の料理屋だと言う。 それを聞いた爺は姫様を無理矢理連れ出して今に至るのだ。 それから、やっと念願の姫様の偏食を治す足がかりになるかもと。 


※根菜とは土の中で成長する根や茎野菜のこと。 大根 ごぼう にんじんなど


魔境を歩く二人。 

「姫様、それにしても爺はこの腕輪の効力に驚いておりますのじゃ。 本当に、相手から見えていないみたいですじゃ」


ケットシーの商人ファーニャから購入した透明になれる腕輪だ。 だが、コロボックルは小さいから腕輪を首にしている為、首輪になってしまっている。


「恐ろしいとこだわ。 見えていないからといって ゆ、油断は禁物よ。 爺、こんなところに連れてきたのだから、ちゃんとした料理屋じゃなかったら許しませんからね」


本当は、昔から自分のことを考えてくれる爺が大好きな姫様だが、恥ずかしくて素直になれず、優しい爺を困らせたりするのだ。


「ハッ! 姫様に無理をさせているのは事実。 爺は、打ち首でも釜茹でもなんでも受け入れますぞ」


それを聞いた姫様が小声で「大好きな爺にそんなことしたくないわよ」と言う。


「姫様、今何か言われましたかな? 爺は最近耳が遠くなりましてのぅ。 もう一度言って頂いていいですかのぅ?」


姫様は、「なんでもないわよ!」と大股で先を歩いて行く。 爺は、「姫様、お待ちくだされ〜」と言って追いかける。


それから暫く歩いたところで、ピンチを迎える。


「はぁはぁはぁ...爺あれはなんなのよ?私達が見えてるみたいじゃない?」


気配察知能力に長けた魔物に追われている姫様と爺。 小さい肉食恐竜のような見た目をした魔物がキョロキョロと探している。


「はぁはぁはぁ...爺も初めて見る魔物ですじゃ。 暫くこの木の隙間でいなくなるのを待ちましょう」


暫く待つ間に疲れて寝てしまった爺と姫様。 爺が起きて慌てて姫様を起こす。


「姫様、姫様、起きてくだされ」


「ん〜もうちょっとまだ眠たいの〜(姫様、起きてくだされ)ん?ん?爺〜なにしてるのよ」


起こすのに顔を近づけた爺に平手打ちをする姫様。


「痛いですじゃ...暴力を振るうように育ってしまった姫様に、爺は悲しゅうございます」


涙目になる爺。


「ごめんなさい(小声)」


「姫様何か言いましたかのぅ?」


それを聞いた姫様は恥ずかしくてプイっとそっぽを向く。


「なんでもないわ。早く行くわよ」


その後、何事もなく....そんなわけあるかぁ〜! 只今、絶賛昨日の魔物に追いかけられている。


「ギャァァァ!爺〜あれなんとかしてちょうだ〜い」


鬼の形相で全力疾走する爺と姫様。 真後ろからカチンカチンと歯を鳴らす音が聞こえる。


「無理ですじゃ。 もう爺を囮に逃げてくださいじゃ。 潔く食べられるとしましょう」


目を瞑り走るのをやめようとする爺。 それを抱えて全力疾走する姫様。


「ギャァァァ! 何走るのやめてるのよぉぉ。こんなとこで死んでなるものですか...うぉぉぉぉ」


「姫様、凄いですじゃ。 魔物に負けておりませぬぞ」


「ギャァァァ! 爺何呑気なこと言ってるの! 爺、自分で走りなさいよ」


姫様が爺をお姫様抱っこしながら魔物から逃げる凄い構図が生まれている。


「あっ...」


躓いてヘッドスライディングをする姫様。爺は吹っ飛んでどっかにいく。 魔物が姫様の目の前まで近づく。


「ギャオオオ! カチンカチンカチンカチン」


魔物は何かに阻まれたように中へ入ってこられないようだ。 答えは、村の結界が悪意のある魔物を入れないようにしているからである。


「はぁはぁはぁ...何故かわからないけど、助かったよぉぉ。って爺?爺大丈夫?」


少し落ち着いた姫様は爺を探す。


「爺は、ここですぞぉぉ〜姫様〜抜いてくだされ〜」


なんと爺は、青々茂った木の枝の間に挟まっていた。 姫様は、爺の両足を持って引っ張る。


「う〜んう〜ん。 うぉりゃあ〜スポン」


見事に綺麗に抜けた爺。 姫様も爺も疲れ切って暫くその場で大の字に寝るのであった。 

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