第58話 疲れ果てた女神ルカ様と男勝りな火の神アグニール!

神界の一室


「はぁ〜本当に、いつになったらまともに仕事をしてくれるのでしょうか? 流石に疲れましたね」


ため息をつきながら独り言を話すルカ。


元々は、金髪が似合う美人だったのであろうが、心労からくる疲れで顔が少しやつれてしまい見る影も無くなっている。


ガチャ(ドアが開く音)


「そんな疲れた顔して、またあのじじいがなんかしたのか?」


ぶっきらぼうに話す赤髪の釣り上がったキツイ目をした女性が言う。


「あ、申し訳ございません。 アグニール様が来られていたとは...」


慌てて立ち上がり頭を下げる。 

アグニールは火の神様であり、女神のルカからすると上位の存在なのである。


「気にすんな! 俺が勝手に入っただけだ。 それにしてもひでぇ顔だな。 どのくらい休んでないんだ?」


ぶっきらぼうな割に心配性なアグニール。


「え、えっと1ヶ月程でしょうか? 創造神様を探したり仕事をさせる為、寝ずに監視をしたりしていましたから」


「クソ!あのじじい! 俺がもっと強けりゃ〜殴り飛ばしてやったのによ〜助けてやれなくてわりぃな」


頭を掻きながら申し訳なさそうに言うアグニール。


「アグニール様、謝らないでください。 悪いのは創造神様ですから」


「あぁ〜クソ! ルカ出掛けるぞ!今すぐ準備しろ」


「え、え〜まだ仕事が残ってますので出掛けられませんよ」


「そんなもん!あのじじいがやればいい!ルカがいなくてこまりゃいいんだよ」


焦(じれ)ったくなり、無理矢理手を引っ張って連れて行こうとするアグニール。


「アグニール様、待ってください!どこにいくのですか?」


急なことで混乱するルカ。


「前に話してただろ? 憩い亭だったか?あそこの料理を食べたいなって。だから今から行くんだよ」


ルカの返事も聞かずに、下界へ連れて行くアグニール。


憩い亭前


「ルカついたぞ」


「え?え?本当にきちゃったんですか?」


焦っててキョロキョロするルカ。


「もう来ちまったんだし諦めろよな。 今からは、腹一杯食って色々忘れちまえ」


あっけらかんと言うアグニール。


「はぁ...仕方ないですね。 アグニール様も私の為にしてくれたことですし覚悟を決めます。 では、行きましょう」


店に向かう2人。


カランカラン


「「いらっしゃいませ」」


「お久しぶりです。 来てくださいとおっしゃっていたので、食事をしにきましたよ」


女神と知ってる常連様は2度見をしてどうしようかと慌てる。


「ルカさんお久しぶりです。 わざわざ来て頂きありがとうございます。 凄い疲れてませんか?それに今日は、あの方は一緒ではないのですね?」


神様を知らないお客もいる為、神様とは言わずあの方と言う拓哉。


後ろから割り込むように話し出すアグニール。

「あのじじいは、どうでもいいじゃねぇか。 それよりうまいもん食わしてくれ。 それとお忍びだ! 無礼講でいいからよ」


それを聞いた常連は「はぁぁぁ」と安堵のため息を漏らす。

 

申し訳なさそうに小声で話すルカ。

「ちょっと色々ありまして...最近寝れなくて...あと申し訳ございません。 アグニール様は昔からこうでして口は悪いですが、決して悪い方ではありませんので」


ピクっと反応するアグニール。


「ルカ聞こえてんぞ! お前じゃなきゃ燃やしてるからな」


「も、申し訳ございません。 アグニール様」


土下座をするルカ。


「フン! 早く立て! 座るぞ」


ズカズカ歩いて席に座るアグニール。


「ご注文はいかが致しましょうか?」


待たされるのが嫌な人かなと思いすぐ尋ねる拓哉。


「俺は、ピザとビールな。ちゃんとタバスコも付けてくれよ」


何故か詳しいアグニールがすぐ注文する。


「では、私もピザとビールをお願いします」


釣られて言うルカ。


「アグニールさんお詳しいですね」


「あぁ、日本に行ったやつが美味いって自慢してやがったから、前々から一度食ってやろうと思っててな」


「そうだったのですね。 タバスコまで知っていたので驚きましたよ。 先にビールをお持ちしますね」


「あるじ、ヴァレリーさんがカレーとビールで、バルトさんがほっけと冷酒で、グラさんがソーセージ盛り合わせとビールだって」


桜花が伝えてくる。


「わかった。 先にルカさんのところにビール2つと注文受けた順にお酒を出しといて。 料理は順番に作るから」


やばいな!急に忙しくなった。


急いで厨房に行って注文された料理を作り出す拓哉。

桜花も急いでお酒を用意する。


「お待たせ。生ビールだよ」


神様と女神様に対しても普段と変わらない桜花。


「ありがとな。 桜花も頑張れよ」


「桜花さんありがとうございます」


2人がお礼を言う。 桜花は「うん」と言って他のテーブルにお酒を運ぶ。


「さぁぁ呑むぞ。乾杯」 「乾杯」


ゴクッゴクッ


「ぷはぁ〜キンキンに冷えててうめぇな。 神界に酒はねぇし、久々の酒はうめぇ。 桜花おかわりくれ」


アグニールは、すぐ呑み干してしまった。


「本当においしいです。 お酒は初めて呑みますが、こんなに呑みやすくておいしかったのですね」


「ぶははは、ルカもいける口だったんだな。 今日は潰れるまで呑むぞ。俺のおごりだ。どんどん呑め」


「はい! ありがとうございます。 アグニール様、気を遣ってもらってすいません」


「気にすんなよ。 全てあのじじいが悪いし、この辺でルカの有り難みをしりゃーいいんだ」


「そうですね。 今日は呑みますよ〜。 桜花さんおかわりください」


「今行くよ〜待ってて」


その後も、5杯くらいおかわりをする2人。 酔う気配すらない。


「お待たせ致しました。 ピザです。 タバスコは辛いのでかけ過ぎないようにしてくださいね。 あとビールのおかわりです」


2人とも6杯目だけど大丈夫かな?と思う拓哉だったが、別のお客さんに呼ばれてそっちにいく。


パクッモグモグ

「うめぇな。 ぷはぁ〜ビールとも合いやがるぜ。 トマトソースとチーズの濃い味がめちゃくちゃ合うな。 生地の外側のカリカリしたのもうめぇ〜」


「本当ですね。 生地も、もっちりしっとりしていて、サラミの塩気とチーズの濃厚な味それを包み込むトマトの甘さと酸味が合わさって至高の食べ物ですね。 久しぶりに楽しい時間です」


「ぶっははは、楽しんでいいんだよ。 ほれ。タバスコかけてみろ。うまいぞ」


タバスコをかけて食べるルカ。


「ん!? 辛さと酸味の影響でしょうか? 味が引き締まったというか、更においしくなりました。 ふぅ〜ビールもよりおいしい気がします」


ルカが満足そうな顔をして言う。


「このまま色んなもん頼んでいっぱい飲み食いしようぜ?」


「いいですね! 今日は、あんなダメダメな創造神なんか忘れてパァ〜っと呑み明かしましょう」


「桜花さん注文お願いしま〜す」


神界


「ルカはどこにおるんじゃ〜? 書類が届いとらんと言われたが場所はルカしかわからんぞい」


ルカの執務室に探しに来る創造神。


「ルカ様は、今日お見かけしていませんね! 最近休みなく働かれていましたし私室ではないでしょうか?」


ちょっとだけ嫌味を込めて言う部下。


「休んでないじゃと? ちゃんと休みは与えとるぞい」


「え?はぁぁぁっ!? 気づいてないのですか?創造神様が仕事を投げ出して遊びに行ったりするからその尻拭いを毎日してるんですよ。 私も我慢できません。ルカ様が居たから頑張ってきましたが、明日からアグニール様に斡旋してもらった新しい仕事先に行かせてもらいますね」


周りにいた他の部下達もこの一言を聞き辞めますと言って去って行った。

その光景に、ぽかーんとする創造神。

数十秒して我に返り。


「ルカ〜ワシが悪かったのじゃ。ちゃんと働くから戻ってきておくれ〜」


誰もいない一室で声が響き渡る。


それから数十時間後。

朝帰りしたルカが、創造神の部屋を開けると真面目に仕事をする創造神の姿を見て何があったのかと思い、近くにいた人に経緯を聞いた。 それを聞いたルカは、こういうお灸を据えるのもありだと思うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る