第33話 旅立つラリサとアニカ!

18時


看板を出しに行くラリサとアニカ。


娘達の後から魔王一家が入ってくる。


「いらっしゃいませ」


「今日も世話になる拓哉」


「おいしいご飯よろしくお願いしますね拓哉さん」


「拓哉様こんばんはです」


魔王一家が拓哉に言う。


「今日は皆さまお揃いでしたか。ちょうどよかったです。 食事の後、少しご相談がありまして...聞いて頂けませんか?」


改まった様子で言う拓哉。


それを察した魔王が答える。


「構わんよ。こちらからも相談しようと思っていたことがあってな。 その時はラリサとアニカも同席してほしいのだよ」


すっかり「のぅ」を言わなくなった魔王様。家族から散々言われてやめたのだろう。

それにしてもラリサとアニカを交えて相談?なんだろうか?

ヴァレリーさんだし、悪いことはでないだろうから聞いてみよう。


「わかりました。食事後に軽いデザートでも用意しますので話し合いましょう」


そう言うとヴィクトリアとベアトリスは、デザートなにかしら楽しみねなどとウキウキしながら話している。


「本日は何を食べられますか?」


「前々から食べてみたかったのだが、魚介のスープパスタを人数分くれないか? あと今日は酒はないしでいい」


多分真剣な話になることを予想して、素面で話をしてくれるみたいだ。 


「わかりました。少々お待ちください。 ラリサとアニカは皆さんにお茶を出しといて」


それを聞いた2人が「は〜い」と言って厨房に行く。


魚介のスープパスタかぁ...具材はイカ エビ ホタテ アサリにしようかな。 ダメだ!急にホタテのバター醤油焼きが食べたくなった。パスタ作りながらホタテのバター醤油焼き作りますか。


「うひょ〜うまそうだ。追加で牡蠣とサザエも焼いてしまった。いただきます」


ホタテうまっ!身がプリっと独特の歯応えに中はみずみずしい。牡蠣もプリプリで噛んだら旨味が溢れてくるな。この濃厚さと舌触り海のミルクと言われて当然だわ。 サザエも歯応えあるのに柔らかく、ほのかに磯の香りがして香ばしくこのなんとも言えない味がうまい。 我慢できずに1人で堪能してしまった...偶にはいいよね。 見つからないうちに片付けてと。


それからスープパスタを作りホールに持っていく。


「お待たせしました。 エビ・イカ・ホタテ・アサリを主な具としてトマトベースで仕上げた魚介のスープパスタです」


3人が目を輝かせながら、フォークとスプーンを取り食べ始める。


「普段食べるパスタとは全然別物だ。 魚介の旨みを含んだトマトスープと麺を絡めて食べると美味い」


「本当に魚介のいい香りがしますわ。このエビプリプリで、かすかな海の香りに甘さがあっておいしいわ。 アナタの言う通りスープと麺を絡めると最高ね」


「お父様お母様幸せな味がしますね。 エビもホタテもアサリもイカも普段食べるより新鮮で全然臭くないです。おいしい」


魔王一家がおいしそうに食べる。


「皆さん満足してくれてよかったですよ。臭みがないのは、保存方法や日が経ち過ぎてとか魚だと釣れた時の締め方とか調理法様々ありますね」


拓哉が色々な仮説を立てる。


「うむ。そんなにもあるのだな。これは帰ったら幹部を集め話し合う必要がある。 拓哉すまんが話し合いの結果、助力を求めるかもしれない」


「助けになるなら構いませんよ。できる範囲はご説明します」


常連様であり、お客さんで来たアドルフを助けてもらったり、ラリサに魔法を教えてもらったりと助けられているからな。 できる範囲ならアドバイスはしてあげたい。


「そろそろ食べ終わりそうですし、紅茶とデザート用意してきます」


厨房に向かう拓哉。

用意した紅茶やチョコケーキをテーブルに置き、食べ終わった食器などを下げて席に着く。


「お待たせしました。 ケーキでも食べながらゆっくり話しましょう」


そういうと待ってましたと言わんばかりに、女性陣が食べ始めた。 「あま〜い」とか「おいしいです」とか夢中になってケーキを食べているので、拓哉は先にヴァレリーに昨日の話をし始めた。


「昨日ですが、王国の男爵を名乗る者が来まして、ここの権利を譲れと脅してきたんですよ。 最終的に精神破壊の魔道具を使ってきたのと護衛30人から襲われましたので、皆殺しにしましたが、アドルフさんは精神破壊をしていまして、ヴァレリーさんにどうにかしてもらえないかと」


事の顛末を話す拓哉。


「まさかそのようなことが! 遅かれ早かれどこかの国がくるとは思っていたがよくやってくれた。拓哉なら遅れはとらんだろうが、この先が心配だな。 アドルフに関しては聖魔法に長けた者に見せる所以、連れて帰らせてもらうがいいか?」


「幸い魔境とあってすぐには派遣はされないと思いますし、死因も魔境の魔物にやられた扱いにはなるかと。 アドルフさんに関しては、こちらでどうしようもないのでよろしくお願いします」


「次もし何か来るようなら今回と同じで殺しても構わんが、俺に報告をしてくれ。いざとなれば魔王軍も加わり戦争するからな。アドルフは任せておけ。 それとこちらの相談だか...ヴィクトリアすまんが話してくれないか?」


まさかの戦争...当分はないにしろ。魔王様が後ろ盾にいるのは大きいな。 戦争とか市民が困るだけだし、なるべくはこちらで解決したいけどな。 


「そちらの話は終わったかしらね。 拓哉さん災難でしたわね。いつでも言ってくださいね。バカな貴族なんて殲滅して差し上げますから。 あと相談なのだけど。拓哉さん、ラリサちゃんとアニカちゃんをうちに預けない?」


あちゃ〜ヴィクトリアさんも予想していたが、戦闘狂でしたか。でもこれで国と事を構えても安心だしいいか。


気楽な拓哉であった。


それよりラリサとアニカを預ける?どういうことだ?


「えっと、預けるとはどういうことですか?」


「旦那から聞いたのだけど、ラリサちゃんには聖魔法の素質があって、アニカちゃんには獣人特有の素質があると聞いたわ。聖魔法に関しては聖魔法の使い手しか教えられないのよ。アニカちゃんも獣人特有の戦い方を学ぶ必要があるわ。それならうちで一人前になるまで面倒をみようと話し合ったのよ」


「そうだったのですね。 わざわざありがとうございます。確かに、ここにいては学べることは少なく2人の将来を狭めてしまいますね。 お願いしたいのですが、まずは2人の意見を聞いてからでお願いします」


2人の将来だからこそ、ちゃんと意見を聞きたい拓哉。


「確かにそうね。 ラリサちゃんとアニカちゃんはどうしたいかしら?」


「私はお父さんとずっと一緒がいいです。離れたくありません」 「アニカもパパと一緒がいいの」


2人が言う。


「ん〜離れたくないのはわかるわ。だから毎日は無理でも私達と一緒に夕飯を食べにきましょう。 あとはラリサちゃんとアニカちゃん次第だわ。今まで通りでもいいし、強くなりたいならうちにきたらいい。選びなさい」


善意で言っていることであり強制ではない。だが今回に限らず、人生でいつか選択肢を迫られる時を見越してわざと「選びなさい」と強めの口調でヴィクトリアは言う。


悩み始めるラリサとアニカだが、やはりなかなか答えは出ない。


「俺は2人にはちゃんと学べるとこで学んでほしいと思う。学び終わってここに戻ってきたいなら歓迎するし、新たにやりたいことを見つけるなら全力で応援する。一生離れ離れになるわけじゃないんだから、2人には可能性を模索してほしいな。困ったらお父さんにいつでも相談しにきたらいいのだから」


拓哉の言葉を受けて、ラリサとアニカは悩んでいるのか言葉を発しなかった。

拓哉は何も言わず人数分のケーキを再度用意して厨房へ皿を洗いに行く。


洗い終わりホールに戻るとラリサとアニカが話し出す。


「お父さん決めました。ヴァレリーさんのところで学んできます」 「アニカもお姉ちゃんと頑張ってくるの」


さっきとは違い、目には曇りも無く、やる気に満ちた表情をしていた。


「そうか!わかった。 ヴァレリーさん ヴィクトリアさん ベアトリスさんご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします」


「任せとけ!立派な魔法師と戦闘士に育てあげてみせるからな」


「2人はとてもいい子よ。ちゃんと教養も身につけさせるし安心してください」


「拓哉様、ラリサちゃんとアニカちゃんは妹同然です。孤独にはさせませんから安心してください」


魔王一家が言う。


その後、いつラリサとアニカを受け入れてもらえるのかを話し合い2日後に決まった。

アドルフはその日の内に、ヴァレリーさんが連れて帰り、当分は魔王城で面倒を見て治り次第、刺客にやられないようヴァレリーさん直々に鍛え上げるそうだ。 

アドルフさん死ぬんじゃないぞ。

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