第29話 火乃国の侍とお寿司!新たな居候!?
前に来たドワーフのバルトは、生魚食べてたけど、基本こちらの住人は生魚を食べるのかと、ふと気になった。
「ラリサここの人達は生魚食べたりするの?」
「食べないと思います。少なくとも銀狼族では禁忌の食べ方でしたね。生魚を食べたら死ぬって言われてました」
アニサキスのことだろうな。 日本でも昔は食中毒とかあったらしいし。 それかフグみたいな毒の魚しかいないのか。
「俺が住んでいた日本では、新鮮な魚を生で食べていたんだよ。 久々に生魚食いたいなと思って。今から調理するから、よかったら食べてみないか? 美味いし死なないから」
説得する拓哉だが、ラリサは顔を曇らせる。 そこに文字の練習をしていたアニカが話す。(最近文字を教える為、拓哉自作の練習帳を作成したのだ)
「アニカは食べてみたいの!パパの料理は外れがないの」
アニカは小さいからか、あまり抵抗がない。それかすっかり拓哉を信じているのか!?
「アニカは食べたいか。 開店前にみんなで海鮮丼食べるか。 アニカは出来上がるまでちゃんと文字の練習するんだぞ。 ラリサ、悪いがアニカを見てあげて」
「うん。ご飯まで頑張るの」 「お父さん不安だけど食べてみる」
2人が返事をする。
厨房に向かいネットショッピングで新鮮な海鮮を取り寄せる。
米は既に炊き上がっているので、切った魚などを乗せていく。 久々の海鮮丼が出来上がったが、ピカピカ光って宝石みたく美しく仕上がった。
「お待たせ! これが海鮮丼だ。 ワサビはまだ2人には早いから、醤油を上から均等にかけて、そのあとはひたすら掻き込むのみだ」
俺はワサビ醤油派だ! 魚の甘さを堪能している時、ツンっとする感じが堪らない。
「これが海鮮丼なのですね。綺麗〜魚だけじゃなくてつぶつぶの赤いのは何でしょう?」
おっ!イクラだな。 食べてびっくりしなさい、濃厚なうまさを。 とりあえず食べてみと言ってみる。
「アニカ文字の書き取り頑張ったの。早く食べたいの。いただきま〜す」
なんの躊躇もなく口に入れるアニカ。 それを見たラリサは、躊躇していた手を動かして口に入れる。
2人は満面の笑みになる。
「おいしいの〜! 甘くてトロトロで初めて食べたの。 白いの(イカ)もむにゅとした食感が面白いし、甘くておいしいの」
最近アニカも成長してきたな。ちゃんと話せるようになってきたし。 男子3日会わざればなんちゃらと言うが、女子も3日会わざればだな。 成長を喜ぶ拓哉。
「お父さん驚きました。 こんなに生魚おいしいのですね。 このつぶつぶ(イクラ)もプチプチして、中から濃厚な旨味が出てきて米と合いますね。 でもこのかけた醤油が美味しさを引き立ててるのでしょうか?」
ぶは、こっちも成長してるけど、どこのグルメ評論家だよ。 娘の成長は嬉しいけど、下手な物を食べさせられなくなっちゃったな。
「お父さんの言った通りおいしいだろう。 これよりもっとうまい食べ方があるんだ(個人的) お寿司って言うんだけど、今日の夜食べようか」
拓哉は、銀座の高級寿司屋に修行へ行く程の寿司好きだ。
「楽しみなの」 「もっとおいしいのは気になります」
2人が言う。
それに対して期待しとけと海鮮丼を掻き込み、厨房へ寿司飯を作りに行く拓哉。
18時
ラリサとアニカは看板を出しに行く。
「今日もヴァレリーさんきてませんね。そろそろ魔法の訓練成果見てもらいたいのですが」
週2回の約束だったのだが、最近一向に姿を見せていないヴァレリー。
流石に心配だけど会いに行けるわけでもないし、ふらっと現れるのを待つしかできない。
「確かに心配だけど、どうしようもできないからね。 このままこないなら、最悪俺が1番近い国に行って魔導書を買ってくるよ」
流石に練習を頑張っているラリサが不憫になり買いに行く旨を伝える。
「お父さんありがとう!でもお父さんと離れるのは嫌だからどこにも行かないで」
ラリサに泣きつかれてしまった拓哉は、背中を摩りながらどこにもいかないよ。 エルフの国に旅行へ行く時、みんなで買いに行こうと提案した。 ラリサは泣き止み「うん」と答えた。
そのようなやり取りをしていると。
カランカラン
「「「いらっしゃいませ」」」
今日初来店のお客様がきた。
チョンマゲではないが、ざんばら髪に袴に無精髭に帯刀した姿は、まさに侍である。
「外にある看板を見たのだが、ここは料理屋で間違いないか?」
「はい!料理屋です。 店主の拓哉です。こっちの2人は娘のラリサとアニカです。 もしかして火乃国の方でしょうか?」
「ラリサです。よろしくお願いします」 「アニカです。よろしくお願いしますなの」
3人が挨拶する。
「これは丁寧な挨拶かたじけない。俺は火乃国の元剣王であった小次郎という。 拓哉も火乃国出身か?」
黒髪って火乃国しかいないからそうなりますよね! どう誤魔化そうか...
「私の先祖はそうかも知れませんが、私はここで育ちました。祖父がここで料理屋をしてまして、亡くなって私が引き継いだ形です」
もう知らない。 これなら調べられても追跡は無理だろうし、この嘘の話が最善であることを願いたい。
「そうであったか。 それは残念だ...拓哉を見た時に、久しぶりに祖国の料理が食えると思ったのだが」
詮索はする気はないようだな。よかった。 火乃国の料理を食べたいかぁ。 あるのかわからないが、せっかく用意したし聞いてみるか。
「それなら晩御飯に食べようと思って酢飯を作ったのですが、寿司はいかがですか?火乃国に寿司があるかわかりませんが、魚も新鮮ですよ」
そう言うと、小次郎は目をいっぱいに広げて驚いている。
「なんと!寿司とはまことか? 俺の大好物でな。 もう何年も帰っておらず食えていないのだ。 すまんが頼む。 あと酒、日本酒はないだろうか?」
「日本酒ありますよ。 熱燗が冷やどちらにしますか? あと寿司は渋い緑茶をお出しします」
また驚いた表情をする小次郎。
「まさか日本酒と茶が飲めるとは...熱燗を頼む」
は〜いと言い熱燗と寿司の準備をする。
目の前で捌いて、提供できるようにネタとシャリをホールに運ぶ。
ホールに戻り、熱燗をお猪口に入れてあげる。
キュッごくん
「これはいい酒だ。酒精もしっかりあり、口当たりもいい、まろやかで微かに甘みもある。 相当上等な日本酒ではないか? やはり酒は日本酒だ」
懐かしかったのだろう。遠い目をしながら話をする小次郎。
「結構いい日本酒ですね。 喜んでもらえて嬉しいです。 そろそろ握りたいのですが、何からいきましょうか?」
「そうだな。適当に拓哉が握ってくれないか? 俺は好き嫌いがないのでな。 もしワサビがあれば多めで頼む」
寿司もあってまさかワサビまであるとは、茂三さんアンタ頑張りすぎだよ。 それでもこの世界に食が広がらないのは、火乃国が閉鎖的か遠すぎるからか謎だよな
「よし!任せてください。まずは中トロとウニとハマチです。 醤油をつけて召し上がって下さい」
慣れた手付きでシャリを掴み、ちょんちょんと醤油を付けて口に入れる。
「ゔゔぅぅ...」
泣き出してしまう小次郎。 何故か気持ちのわかる拓哉は黙ったまま次のネタを切る。
「すまん。久々に食った寿司に感動してしまった。脂の乗った新鮮な魚に、ウニの甘みと磯のなんとも言えない風味...久しぶりだ」
そうだよな。俺も海外に修行に行って、日本に帰国した途端お茶漬けを食ったもんな。故郷の味が数倍にも、うまく感じられたっけな。
「次はサーモンとエビとうなぎだ」
パクッもぐもぐ
「懐かしい...トロっとした脂身と甘さ。 エビもプリプリで美味いな。子供の時に戻ったみたいだ。 このうなぎも香ばしくて身が厚くこの甘いタレもいいな。 日本酒にも合う」
本当に火乃国は日本に近いな。 サーモンとエビを食べて子供を思い出すあたりとか特に。
その後、小次郎は久々の寿司ということもあり、30貫程食べて最後にお茶を飲み。一息付きお代をきっちり支払った小次郎だが。
「拓哉すまんがお願いがある。 迷惑はかけんので店の近くに、小屋を建ててしばらく住まわせてはくれまいか...もうここと火乃国以外の飯は食えん」
どうしようかな!?悪い人ではなさそうだし、家に泊めてくれってわけでもないし、まぁ風呂くらいは貸してやるか。
「わかりました。 今日は暗いし風呂もありますから泊まって下さい。 明日から小屋作りをしたらいいですから」
「風呂はありがたい。すまんがお言葉に甘えさせてもらう。 小屋は心配いらぬ。アイテムボックス持ちでな、小屋を持ち運びしてるからな」
おいおい!小屋持ち運ぶって! どんだけだよ。 まぁわざわざ手伝う手間が省けたしいいか。
こうして新たな住人?居候?ができるのであった。
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