第27話 妖精女王からの打診!だが断る!!

まさか妖精女王から専属料理人の打診をされるとは。しかも衣食住保障に国賓待遇だもんな。 今更ながら選択ミスったか俺...でも憩い亭で、みんなを満足させたいと選んだのは俺だし今更後悔しても仕方ないな。


ふと昨日の出来事を考える拓哉。

何が合ったかは、時を遡って説明しよう。


お昼ご飯を食べ終わった拓哉達3人は、のんびり休憩をしていた。


そこへドアを叩く音が聞こえた。

開店前に誰かなと思い、ドアをあける。 そこには11名の妖精が飛んでいた。見覚えのある2名に、髪が長い女性をイメージさせる容姿の妖精、兵士の格好をした7名の妖精、貴族のような高そうな服をきた妖精、妖精にしては、サイズがひと回りほどおっきい美しい妖精がいる。貴族風妖精が拓哉に話しかける。


「お初にお目にかかる、私は妖精の国で宰相をしているプラムと申します。大人数での急なご訪問、誠に申し訳ない。 今回赴いたのは、先日訪れたニルとミルが大変よくして頂いたお礼とタルトを食べたいと思い参った次第です。こちらが我が国の妖精女王様です」


妖精の国を出る前は、拓哉を問い詰めようとしていたが、女王には丸分かりで向かう道中にしっかりした対応をするよう言われた。 だが本来の訪問理由は話していない。


「はじめまして、貴方が拓哉さんですね。私は妖精の国の女王フレデリカです。 まずは、ニルとミルに人道的な扱いをしてくれてありがとうございます。それから、タルト凄く美味しかったです。今日も頂けると嬉しいのですが...」


女王として敬語は使うものの、拓哉を緊張させまいと、フランクな話し方をするフレデリカ。 何故名前を知っているかというと、事前にニルとミルから拓哉の名前を聞いていたからだ。


「ご丁寧にありがとうございます。 私はここで料理屋をしている拓哉と申します。 話は色々聞いていますが、私は差別や奴隷などを良く思っていません。このように娘も獣人ですし、皆が仲良くできる日がくることを望んでいます。 とりあえず立ち話もなんですし、店内へどうぞお入りください」


ここに来て色々関わりを持ち、異種族が気にすることは差別や奴隷に関することが多く、そのことも聞きたかったのだろうと、言われる前に答える拓哉。


11名の妖精も拓哉の言葉に、嘘偽りがないことを感じ取りひとまず信用して店内に入る。


妖精に合うサイズの椅子はなく、申し訳ないがテーブルに直接座ってもらう。

アンジェがまず口を開いた。


「私は、ニルとミルの母親のアンジェです。まずは、子供達に優しく接してくれてありがとうございます。それにしても、タルト凄くおいしかったわ」


お礼を言うアンジェ。


「拓哉さん、急で悪いのだけどタルトを頂けないでしょうか?」


フレデリカが言う。 

フレデリカもアンジェもお菓子を我慢できないようだ。


「畏まりました。ですがせっかくお越し下さったのですから、別の甘いデザートは如何ですか? タルトはお土産でお包みしますので?」


拓哉が別のデザートを勧める。


「そうですね。他にも甘い物は気になりますし、お願いできますか? お土産にタルトもお願いします」


あのタルトを売っている拓哉が言うのだ、別の甘い物がどういうものか、気になって仕方がないフレデリカ。


「ではすぐお持ちしますので、少々お待ちください。 ラリサとアニカは、皆様に自己紹介しといてな」


そう言い残して、厨房に向かう拓哉。


なにを出すかというと、甘いと言ったらプリンでしょ。でも今回はカラメルは入っていない、バニラエッセンスを加えたあま〜い香りを楽しめるプリンだ。


厨房からみんなの待つとこに向かう。


ラリサとアニカは、自己紹介を終えたのかニルとミルとアンジェと話していた。


「お待たせ致しました。砂糖と動物の乳を大量に使ったプリンです」


拓哉がそう言うと、みんな目を輝かせて自分の前に置かれたプリンを見つめる。


「なんて甘いイイ香りがする食べ物なのでしょう。触ると凄くプルプルしてますね。おもしろいです。早速頂きましょうか」


フレデリカがそう言うと、一斉にみんなが食べ始める。

口に含んだ瞬間、妖精達はプルプル震えて「あま〜い!」と言い、店内を飛び回っている。


「う〜ん!おいしい...口の中に入れたらトロける〜砂糖がこんなに使われていることにも驚きましたけど、香りがいいですね。拓哉さん見る 香る 味わうの3つも楽しめる素晴らしい料理ですね」


フレデリカが興奮しながら拓哉に伝える。口調も少し砕けた感じになる。


「拓哉殿素晴らしいですぞ!甘さ 香り 食感全てが食べたことがない。 私の口の中がプリンが支配していきますぞ。 止まりません。プリン様の呪いにかかってしまいましたぞ」


甘さに目がない宰相プラムが、小躍りしながら叫び出す。

最初出会った時の、貴族らしい凛とした姿のカケラもないプラムに苦笑いする拓哉。

兵士の方達は、みんな涙ぐみながらこんな甘いおいしいお菓子初めてですとか、今回の遠征気乗りしなかったけど来てよかったなど、妖精の国ってそんなに料理不味いのって思ってしまった。 


子供達4人は、プルプルとかあま〜いとか笑顔で話し合っている。子供らしくてほっこりするなと思う拓哉。

だが、プリンに支配された恐怖の妖精が1人いた。


「拓哉さんおかわりはないのかしら?あるなら全部出しなさい。出さないとわかってるわよね」


目を血走らせたアンジェが、顔に張り付くのかくらいの勢いで迫り拓哉に命令する。


あまりの勢いにアイテムボックスから5個取り出してテーブルに置く。

わかってるじゃないという顔をして、アイテム袋に入れて去っていく。


あの妖精には逆らってはダメだと、本能で悟る拓哉だった。


「アンジェがごめんなさいね。昔から甘い物を前にすると自制が効かなくて...多分このプリンの為なら大国にも戦争を仕掛けるんじゃないかしらあの子! 拓哉さん私にもプリン頂けるかしら?」


フレデリカがアンジェのことについて語るが、しれっと自分も要求する。


わかりましたよと少し投げやりになった拓哉は、もう無いですからねと言い、みんなの前1つずつプリンを出す。


みんなは歓喜し、飛びながら歌う者までいた。


凄まじい勢いで無くなった皿をみんなが見つめた後、捨てられた仔犬のような目で拓哉を見つめたが、もうないですと言うと、みんなこの世の終わりかという顔をしていた。 拓哉はその小さな体のどこに入るんだと心の中で叫ぶのだった。


「大変お恥ずかしい姿を見せてしまい、失礼致しました。 あまりのおいしさに我を忘れてしまい...」


食べ終わったフレデリカが言う。 他の妖精も申し訳なさそうに謝る。 アンジェだけ我関せずプリンを食べていた。 


「えっと、大丈夫ですよ。おいしそうに食べてくれるとこちらも嬉しいですし、若干1名だけ本当にプリンの呪いにかかった者がいるようですが」


「そう言ってもらえるとありがたいです。申し訳ございません。アンジェには後できちんと言っておきますので、あーなるとどうしょうもなく」


申し訳なさそうにするフレデリカ。


「ははは。大丈夫です。好物を前に抗える人は少ないですからね。ではお土産を用意してきますね」


拓哉が厨房に向かおうとするが、呼び止められる。


「待ってください!拓哉さん、貴方にお願いがあります。私の専属料理人になって頂けませんか? 衣食住は保障しますし、国賓待遇でお招き致します」


いきなり爆弾を投下するフレデリカ。普段なら宰相あたりが止めるのだが、逆に来てくださいと言うような顔を向けてくる。 止めろよなと言いたい拓哉。


「大変ありがたい申し出ですし、私なんかに国賓待遇と仰って頂き大変恐縮です。ですがお断りさせて頂きます。 私はこの場所で、少ないながらも来て頂けるお客様に満足して笑顔で帰ってもらいたいのです。 お客様の憩いの場にしていきたいと考えています。 大変申し訳ございません」


拓哉は自分の想いを嘘偽りなく伝えた。


「断られるとはわかっていましたが、どうしてもお伝えしたかったのです。失礼しました。 またお暇ができましたら、ここに来ようと思います。 すいませんが、お土産をお願いします」


悲しそうに告げるフレデリカ。

拓哉は悲しそうなフレデリカに気づくも、何も声をかけず厨房にお土産を取りに行く。


その後、宰相様に大量のお土産を渡した。 腕輪に関しては、売らなければそのまま持っていてもいいそうだ。信頼してくれたのかもしれない。

アンジェが我に返り凄く謝られたが、気にしてないと伝えた。 


妖精達は、「またきま〜す」と言い残して去っていった。

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