第26話 先代魔王降臨!ワイバーンのやきとり

オープン10分前だが、結構ハードな午前と午後を過ごしたので、振り返りたいと思う。


ヴァレリーがお土産にくれたワイバーンを、そろそろ解体しようと思い、ラリサとアニカにも、解体作業を教える一環として見てもらうことにした。

何故か死ぬと魔物は、包丁が通る程柔らかくなる。 理由はわからない。 そのおかげで、スムーズに血抜きや解体を行うことができた。 実践訓練をさせる為、血抜き中に狼の魔物でラリサとアニカに解体作業を教えて、2人に解体もさせた。今後も教えて行く予定である。 ちなみにワイバーンは、鳥と形状が似ており、鑑定によればハツや砂肝などの内臓も食べれるらしい。 切り分けながら、今日のメニューは、やきとりにしようと考えていた。

あとワイバーンの皮とオーガとオークの睾丸とゴブリンは、そのままネットショップで売り、なんと120万円になった。 思わず金欠からの脱出にガッツポーズしてしまう。

ワイバーンの骨はどうしたかというと、これをスープにして、ラーメンを作る予定なのでアイテムボックスに入れている。

その後、店の在庫にあった串を取り出して、ラリサとアニカと3人で串打ちをした。

なんとワイバーン肉のやきとりが、800本も出来てしまう。流石に疲れたラリサとアニカには寝るように言った。


18時


看板を出しに行く拓哉。


相変わらずヴァレリーさんは、店前で律儀に並んでくれいる。 その横には、見慣れない白髪の老人がいる。 一見お爺さんに見えるのだが、その赤目の眼光はまだまだ現役であると訴えかける程に鋭くこちらを射抜いてくる。


「ヴァレリーさんいらっしゃいませ。そちらの方は初めてですね。ここで料理屋をしている拓哉と言います。よろしくお願いします」


物怖じすることなく、挨拶をする拓哉。


「拓哉、紹介する。私の横にいるのは、私の父上!先代魔王である。昨日のサリア達の話をしたら、ワシも行くと言い張ってのぅ。すまんがよろしく頼む」


少し申し訳無さそうに紹介をするヴァレリー。


「お初にお目にかかる拓哉殿。愚息の言う通り元魔王じゃが、今は隠居しとるただのジジィじゃ。名はバクールと申す。貴殿相当強いのぅ。 料理人と聞いておらなんだら、相対しておったぞ。 それに愚息は、相変わらず使い慣れん言葉を使っとるのか。似合わんからワシを真似て、語尾に『のぅ』をつけるのをやめいと何度も言っておるじゃがな」


あの威厳の塊みたいなヴァレリーさんが、顔を赤くして小さくなり、バクールさんに文句を言っている。それに無理して『のぅ』をつけていたのか。かわいい魔王様だな。 


「はい!よろしくお願いします。バクールさんとお呼びしていいですか? あとここではなんですし、店内のお席にご案内します」


「ワシのことはバクールさんでよいぞ。『さん』付けなど久しぶりだわい。いいもんじゃのぅ」


笑顔になるバクールさんを連れて店内に入る。


「今日はヴァレリーさんとバクールさんにどうしても、食べてもらいたい物があるんですよ。 先日ヴァレリーさんから頂いたワイバーンの料理です」


「拓哉、まさか料理にしてくれるとは...楽しみにしておるから、酒も持ってくるのだぞ」


「ワシにも酒を頼むのぅ」


ヴァレリーとバクールが言う。


お待ちくださいと言い残し、厨房に向かう拓哉。


事前に準備しておいた備長炭は、真っ赤になっている。 コンロの上にやきとりの串を置いていき、団扇で仰ぎながら焼いていく。 次第にパチパチといい音が鳴り、店内へイイ香りが充満し始める。


「父上この匂いは...まさか」


ヴァレリーが気付き父親に問いかける。父の前では、本来の口調に戻っていた。


「ほぅ〜これはやきとりじゃな。懐かしいのぅ...300年前ワシが魔王じゃった時、あの茂三の店で毎日食っておったわい。 茂三はよくワシの悩みを聞いてくれとった」


300年前を思い出し、振り返りながら語るバクール。


「そうでしたね。父上は毎日のように行っていましたね。毎日行くもんだから、母上に浮気を疑われたこともありましたよね」


「あの日は大変じゃったのぅ。帰宅したらおぬしは泣いておるし、部下達は四肢を欠損して血溜まりができてるわ。最初は反乱かと思うたぞ。あれ以来、嫁には逆らわんと誓ったわい」


昔話に花を咲かせる2人の前に拓哉がやってくる。


「お待たせ致しました。ワイバーンのやきとりです。 こちらが塩になります。右から順番に、もも ハツ せせり 砂肝 軟骨 続いてタレになります。右から順番に、もも ムネ レバー ぼんじり つくねです。あと生ビールをお持ちしました」


目の前には、300年前に見たやきとりが並んでいる。目を輝かせながら、大好物のせせりの串を口に運ぶバクール。


ヴァレリーもレバーを口に運ぶ。


「これじゃこれじゃ!香ばしい香りと濃厚な肉の旨味と程よい塩加減。それにコリコリとした食感、懐かしいのぅ。ほほぉこのビールというのもええのぅ。キンキンに冷えとるし、やきとりとも合っとる」


久しぶりのやきとりで、ご機嫌になるバクール。


「うまい!父上懐かしい味ですね。まさか父上の好物が出てくるとは思いませんでしたよ。拓哉感謝する」


ビール片手に感謝を述べるヴァレリー。


「あ!そう言えば、バクールさんも茂三さんのお店に行ってたんでしたね。偶々やきとりにしましたが、思い出の品をお出し出来てよかったです。ビールのおかわりお持ちしますね」


バクールさんとヴァレリーさんは、串1本でビールを1杯飲み干しており、すぐにおかわりを持ってくる拓哉。


「ワシは砂肝 ハツ せせり 軟骨のコリコリした食感のやきとりが好きでのぅ。すまんが、この4つを追加で焼いてくれんか?」


「俺はレバー もも つくね ハツを全部タレで頼む」


それぞれ追加を注文する。

それを聞き厨房に向かう拓哉。

そこへちょうど起きたのか、ラリサとアニカが降りてくる。

ラリサとアニカに、お客さんがきていることを伝えて挨拶するように言い、拓哉はやきとりを焼きに行く。


「ヴァレリーさんこんにちは」「ヴァレリーさんこんにちはなの」


ラリサとアニカが挨拶する。


「お〜ラリサとアニカを見ないと思っていたが、奥にいたんだのぅ。こちらにいるのが、俺の父上だ。仲良くしてやってくれ」


「ほほぅ〜めんこい娘達だのぅ。ワシはヴァレリーの父のバクールじゃ。よろしく頼むのぅ。ほれ、ラリサもアニカも座りなさい」


かわいい2人に、すっかり好々爺さんになるバクール。


「拓哉殿、ラリサとアニカの分も作ってやってくれんか?お代はワシがもつでのぅ」


厨房に聞こえる大きさで伝えるバクール。


「は〜い。ラリサとアニカはバクールさん達と話して待ってて。2人のも焼いて持っていくから」


厨房から返答を返す拓哉。


「ラリサとアニカと言ったかのぅ。何故人間の拓哉とこんな魔境で暮らしとるんじゃ?」


裏表なく純粋に気になったバクールが、2人に尋ねる。


ラリサとアニカも、優しい笑顔のお爺さんという印象だったので全て話した。


「そうじゃったのか...大変だったのぅ。これからは、ワシのことを祖父だと思って、じぃじと呼んでくれのぅ。ワシの孫も同然じゃわい。それにしても、やはり茂三と拓哉殿は繋がっておるのかも知れんのぅ。 異種族に寛容過ぎる」


笑いながらラリサとアニカに言う。アニカはすぐに「じぃじ」と言って、バクールを破顔させていた。ラリサも躊躇いながらも、「じぃじ」呼びをしていた。


「父上、拓哉と茂三は多分出身が同じですね。サリアも時は巡ると言っていましたし、また他種族同士が笑い合える場所が出来たのかもしれません」


「それはよいのぅ。300年前は帝国も王国も共和国も魔国も獣人の国もエルフの国も仲が良かったものじゃ。聖王国の教皇もお忍びで来とったしのぅ。ここ数百年でガラリと変わってしもうた。またあのようになればのぅ」


300年前は、茂三の店のおかげで各国の上層部は繋がりがあり、少なからず無理矢理人攫いの事件などはあったが、取り締まりも厳しかった。 だが繋がりが薄れるにつれて各国の代表は代替わりをし、歴史は忘れ去られ今に至る。


そのような話をしていたら、拓哉が追加を持ってきた。


「お待たせしました。頼まれた物とは別に、えんがわと言いまして、砂肝の壁部分になります。あとこれは、さえずりという希少部位で食道の部分になります。ヴァレリーさんには申し訳ございませんが、塩でお召し上がりください。あと酒はハイボールをお持ちしました。さっぱりしておすすめですよ」


初めてみるえんがわとさえずりを口にする2人。


「えんがわとやら、独特なコリコリした食感に旨味がジュワっと出るが、嫌な臭みが一切ないのぅ。さえずりもコリコリおいしいが、弾力ある食感がおもしろいのじゃ。それにはいぼーる!?でまた次のやきとりを食いたくなるのぅ」


大満足しているバクール。


「父上、おいしいですね。タレが1番と思っていましたが、えんがわとさえずりを食べて塩もアリかと思えましたよ。拓哉、本当に素晴らしい食事をありがとう」


威厳を見せなくなったヴァレリーが言う。本当の姿は普通の人なんだなと思う拓哉だった。


「ラリサとアニカ食っとるかのぅ。払いはワシが持つから好きなだけ食べるのじゃよ。拓哉殿、今日からラリサとアニカは、ワシの孫にしたからのぅ」


勝手に決めるバクールではあったが、拓哉は好々爺さんのような笑顔で話すバクールに、仕方ないかと思い「よろしくお願いします」と答える。


その後、閉店を迎えても終わらない、小さな宴会に拓哉は偶にはいいかと、ハイボールとやきとりを持って輪に混じるのだった。

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