第8話 竜人は辛い物がお好きなようだ!

開店の時間となり、ラリサと一緒に外へ看板を出しに行く。


ラリサは、初めての接客らしく顔が緊張しているな。言ってて悲しくはなるが、ここは、まだお客さんも少ないし、気負わずゆっくり慣れたらいいとラリサに言う。


ラリサに言っていたらドアが開いた。


カランカラン


「「いらっしゃいませ」」


2人でお客様に挨拶をする。


これは所謂、竜人なのか?真っ赤な体に顔は竜そのもの。それにカッコいい尻尾だな。


「料理屋と書いていたから入ってみたが、まさか人間の店主だとはな〜。そっちのは銀狼か。つかぬことを聞くが店主よ。その娘を無理矢理働かせているわけではないだろうな?」


あ〜ラリサは綺麗にはしてるから、こんな場所で人間といたら誤解されるわな。


「まずは、自己紹介させてください。俺は拓哉と言います。この子はラリサ。盗賊に攫われそうになって傷ついているとこを助けて、行くあてもないだろうから、衣食住を提供する代わりに働いてもらっています。なんなら直接ラリサにも聞いてもらっていいですよ」


おおまかでいいだろうと出会いに関しては端折って話す拓哉。


ラリサも答える。

「拓哉さんには感謝しています。無理矢理なんてことはありません。治療も温かいお風呂も入れましたし、温かい食事も頂きました」


拓哉の言葉の後に、間髪入れず笑顔で答えるラリサ。


「すまんな。拓哉そしてラリサよ。俺は旅すがらよく奴隷や虐げる者を目にする機会が多くてな。人間は亜人をよく思っていないから勘違いしてしまった。その娘の笑顔と言葉は本当で大切にされてるとわかった。あと俺は竜人族のエルドレッドという。よろしく頼む」


そんなに獣人の差別が酷いのか! 同じ人として悲しくなるな。エルドレッドさんは本当に辛い現実を見てきたのだろうな。目や表情を見たら本心か嘘かわかる人がいるって、昔なんかの本で見たことあるからそのことだろうな。


「エルドレッドさん立ち話もなんですし、こちらのお席に座ってください。メニューにある品なら作れますので、何か注文してください」


座るエルドレッド。


エルドレッドは悩む。

う~む...メニューを渡されたが、聞いたこともない食べ物ばかりだな。まーぼーどうふ?説明には辛い香辛料が使われており、ひき肉と大豆で作った白い固形物と様々な具材を、鶏のスープで煮た料理とある。想像はできないが、俺は辛い物が大好物だしこれにするか。


「ラリサと言ったか?すまんが、このまーぼーどうふと飲み物は酒を、どれがいいかわからんから、おすすめを頼む。あとできればミラガーの実(唐辛子)のような辛いのが嬉しい」


まだ覚えられないラリサは、拓哉から渡されたメモに注文された物を書く。


「はい。まーぼーどうふとオススメのお酒ですね。畏まりました。拓哉さんにお伝えします」


トコトコと厨房に向かうラリサ。


「拓哉さんまーぼーどうふをお願いします。あとオススメのお酒とまーぼーどうふはミラガーの実ほど辛くしてほしいとのことです」


「了解」


ミラガーの実?確かインド南部で使われてるタルミ語だったかに、ミラガーって言葉があったな。意味は青唐辛子だったか? とりあえず辛いのがいいってことはわかった。10倍の辛さくらいにして提供するか。


オススメの酒は、麦焼酎だな! 


「生ビールを先に出して待っといてもらってくれ」


「は〜い!わかりました。お出ししてきます」


トコトコと向かうラリサ。


「生ビールお待たせしました」


ラリサが持って来てくれた生ビールに戸惑うエルドレッド。見た事もない物が、いきなり目の前に出て来たからである。これはエール?生ビールと言っていたが、色はエールだな。 呑んでみるか。


グビッグビッゴクゴク


「ぷは〜。うまい!めちゃくちゃ冷たいし、泡の舌触り喉を通過する時の、コクとキレが最高にいいな。エールに似てるかと思ったが全くの別物のようだ」


美味さに驚いたエルドレッド。 

ビールも飲み干してしまう。おかわりをお願いしようとした時にラリサがくる。


「お待たせ致しました。まーぼーどうふと麦焼酎です」


またまた見たことない酒だ。酒なんか水みたく澄んだ色をしているぞ。 料理も具材たっぷりだが見たことがない。


そこに拓哉もやってくる。


「少し補足させてもらいますね。辛いのがいいみたいだったので辛さ10倍にしています。無理だったら少し甘くしますので言ってください。あと酒は麦焼酎という物です。熱いうちにお食べください」


まずはこの料理から。


ふぅふぅふぅパク!モグモグモグモグ


うまい!そして辛い!だが、ただ辛いだけではない、この白のは、ほのかに豆の味がして辛さをちょうどよくし、口でホロホロとける。細かいはずの肉も、旨味が詰まっており噛むと肉の味がしっかりして美味い、上に乗っているハーブもいいアクセントになっている。このトロトロのコクのあるスープも最高にいい辛さで美味い。


「店主!うまい!凄い料理人だったんだな。感動した。辛さも完璧だ。次は酒だな」


グビッグビッ!


目を見開くエルドレッド!


「酒精が強いはずなのに、凄くまろやかでさらに香ばしく、かすかな甘味が口の中に広がり、余韻があるのに全くくどさがない上品な味わいだ。更には口に残ったまーぼーどうふの辛さを調和し、何度もまーぼーどうふの一口目を味わえる不思議さ。料理とも合ったうまい酒だ」


その後、目を細めたまま麻婆豆腐と酒を交互に食べる。5杯おかわりしたとこで終わった。


「美味かった。俺の食った料理と酒のベスト3に入る!まーぼーどうふと麦焼酎とビールだけどな」


凄い食いっぷりに驚く拓哉!


竜人は表情がそのままなので、喜怒哀楽はわからないが、多分満足してくれたのだろう。よかったよかった。


「お粗末さまでした。凄い食いっぷりに驚きました。お口に合ってよかったです」


「大満足だ。ところで拓哉まだまだ美味い酒があるのだろ?辛い酒をくれ」


「エルドレッドさんに、もってこいのお酒があるから待ってて下さい」


ネットショッピングを開いて唐辛子のウォッカを注文する。


「お待たせしました。唐辛子を使ったウォッカというエルドレッドさんが好きなミラガーの実の親戚のような実を使ったお酒です。普通トマトジュースと割って飲むんですが、エルドレッドさんならロックでいけそうなのでそのままお出しします」


ほぉ〜まさかミラガーの実を使った酒があるとは、俺の酒と言っても過言ではないな。では頂こう。


グビッグビッグビッ!


「あはははは、うまい!この酒も初めて味わう。ピリッとした辛さに酒の強さ、それに後口のスッキリとした感じ、いい酒だ。ベスト3がまた塗り変えられそうだ」


拓哉は思う。

気に入ってくれたのは嬉しいが、無表情で笑うエルドレッドさん怖いな。 あとこれなら料理屋出来なくなっても酒屋すれば儲かりそうだ!


「なんか欲しい物があればまたラリサに声をかけてください。それではごゆっくり」


そのあとお客さんは来ず、エルドレッドさんに軽いつまみを出したり、おかわりのウォッカを出したり、ラリサに賄いで麻婆豆腐を出してあげた。


ラリサには辛かったのか涙目になり、美味しいですが、辛いです〜と言われてまだ子供だなと再確認しアイスクリームを出してあげた。ラリサはアイスクリームを気に入り、冷たくて甘いです。おいしいです。アイスクリームになりたいとか言っていた。アイスクリームになったら誰かに食われるぞって言ったらアワアワしていたのが可愛らしかった。


とうとう閉店時間を迎えたのだが、エルドレッドさんは1時間前から酔い潰れてしまっている。起こすに起こせなくなり今に至る状態だ。


「ラリサ、外の看板下げてきてくれ。俺はエルドレッドさんに掛ける毛布を取ってくるから」


「は〜い。わかりました」


看板を下げに行くラリサ。


起こして魔境に放り出すわけにもいかないしな。毛布をかけて朝まで寝てもらうか。


《エルドレッドさん酔い潰れてしまったみたいなので起こしませんでした。お代は起きてからで大丈夫ですし、起きて喉が渇いたら目の前にある水を飲んでください。俺とラリサは家で寝ます。朝起こしに来ますのでそのままゆっくり寝てて下さい。拓哉より》 起きても大丈夫なように書置きを残す。


お客さんも来ず、あまり量も減ってないし仕込みも不要だ。今日は風呂入って寝るか。


「ラリサ今日はこれで終わり。家帰って風呂入って寝よう。エルドレッドさんは、このまま寝かしといてあげて」


「は〜い!あったかいお風呂〜」


その後、家に帰り交代でお風呂に入った。ラリサがなにか嬉しそうに、お風呂で口ずさむ声が聞こえた。お風呂好きなんだなとか明るくなってよかったと思う拓哉。


「ラリサおやすみ」


「拓哉さんおやすみなさい」


なんだかんだ色々あった1日は終わり、拓哉とラリサは眠りにつくのであった。あ!一応エルドレッドもおやすみ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る