第7話 獣人ラリサと拓哉の出会い!
「ん、ん...ここどこ!?」
目覚めて辺りを見渡す少女。
え?どこ?見渡しても見たことないものばっかりだし。天国?ってそれはないよね。 よく見たら傷の手当てまでされてるし。
トントン!
ドアのノック音が鳴り、ドアが開くとそこには見知らぬ人間の男がいた。
思わず怯えてしまい、部屋の隅に逃げる少女。
「あ!ごめんな。驚かせてしまったみたいだね。俺はここで料理屋をしてる拓哉って言うんだ。君が急に店に入ってきたと思ったら目の前で倒れてしまってね。勝手に手当てをしてベッドで寝かせたってわけ」
微笑みながら語る拓哉に少し安心する少女。
「た、たすけて頂いてありがとうございます。手当てまでしてもらってすいません。ご、ご迷惑になりますし、すぐ出ていきますね」
急いで出て行こうとする少女。
「えっと、まだ傷も癒えてないし、そんな状態で送り出すことはできないよ。何があったかは知らないけど、一旦風呂に入って綺麗にして飯を食ったら、どうしたのか事情を話してほしいな」
相変わらず微笑みながら話す拓哉に不思議な感覚を覚える少女。
どうしよう....人間は私達獣人を奴隷としか見てないし、すぐには信用できない。でも、この人は真っ直ぐ目を見て話してくれるし、ゴミを見るような目では見ない。
信用はできないものの、今までにいない人間かつあまりにも自分が汚いことと、お腹が減っていることで提案を受け入れる少女。
「申し訳ございませんが、その提案を受け入れさせてもらいます。よろしくお願いします」
「まずは風呂だな。使い方教えるから入ってくれ。あと脱衣所に昔妹が着てた服と下着置いてるからそれを着てくれ。そのボロボロな服は捨てて構わないかな?」
使い方まで教えてくれて、新しい服まで用意してくれる人間に驚く少女。
「は、はい!ありがとうございます。服は捨ててください」
その後、拓哉は少女に風呂の使い方を教えて入ってもらう。その間に卵粥を作る。急にお腹に入っても大丈夫なように配慮する拓哉。
「卵粥なんて作るの久々だな。昔妹が風邪をひいた時に作って以来だ」
トコトコトコ
風呂場からこっちに向かってくる音が聞こえた。
姿が現れて出てきた少女は、くすんだ灰色の髪と尻尾ではなく綺麗な銀髪 肌も真っ白 痩せているが美少女だった。
「あの〜?顔になにかついてますか? それより、お風呂ありがとうございました。お貴族様になったような気分でした。こんな綺麗なお洋服もありがとうございます」
つい美少女に見惚れてしまった拓哉は、少女の問いかけで我にかえる。
「あぁぁ...あまりにも綺麗になった美少女が目の前にいて惚けてしまった。ごめんな。風呂も満足してくれてよかったよ。ワンピースの尻尾部分気づかなかったよ。あとで手直して尻尾が出るようにしような。先に飯食ってくれ。でも熱いから気をつけろよ」
まさか綺麗って言われると思っていなかった少女は、顔を赤くして背けてしまった。
だが、目の前にある食べ物があまりにもいい匂いがして、すぐそれに目を奪われてしまう。だが、貧しい家の出でもあることで、すぐに手をつけることができず悲しい顔になる。
「どうした?嫌いなものでもあったか?」
なにもわからない拓哉は、嫌いなものがあったのかと聞いてしまう。
「ち、違います。こんなおいしそうな食べ物、私が食べていいのかと思いまして...」
消え入りそうな声で尋ねる少女。
「アハハ。いいに決まってるだろ。これは君に作ったものなんだから、冷めたらまずくなるし早くお食べ」
急な笑い声にビクッとなってしまうが相変わらずの優しい笑顔に安心し、目の前の食べ物を口に入れる。
「おいしい....うぅぅおいしいよぉぉグスン」
久々の温かい食事とおいしさに思わず泣いてしまう少女。
「おいしいか、よかった。まだまだおかわりあるからゆっくりお食べ」
急に泣き出す少女に一瞬驚きはしたが、あのボロボロな状態を知っている為、なにも言わずに食べ終わるのを待つ拓哉。
そうだよな。あんな状態なら最後はいつ食べたか、更には毎日食事が取れる環境でもなかったかもしれない。今は幸せそうに食べる少女を見守ろう。
「あ、あの〜おかわり頂いてもいいですか?」
恥ずかしそうにおずおず聞いてくる少女。
「うん。いいよ。これ全部君のだから食べれるだけお食べ」
「はい!ありがとうございます」
警戒心が薄れたのか? 食べて元気になったのか、笑顔で元気よく返事をする少女。
あっという間に、卵粥を全て食べ尽くした少女。
「ふわぁ〜おいしかったです〜」
「それはよかったよ。喉渇いただろ?オレンジジュースだ。飲みな」
「はい。ありがとうございます。うぅ〜ん!甘くておいしいです。ミンカの実の味がします」
かなり警戒心が薄れて元気になってくれたみたいだな。みかんのことをこっちではミンカと言うのか覚えておこうと思う拓哉。
「食べ終わってすぐ申し訳ないが、何があったのか聞かせてはくれないか? 一応改めて自己紹介させてもらうな。俺は、ここの料理屋の店主の拓哉だ。それで君の名前は?」
「名乗ってなくてごめんなさい。私は、銀狼族のラリサと言います。なにがあったのかですよね。少しだけ長くなりますが大丈夫ですか?」
出会って間もないが、拓哉さんなら話しても大丈夫かなと思うラリサ。
「うん。大丈夫だよ。まだ営業まで時間もあるし、教えてくれるかな」
「はい。わかりました。私は銀狼族の族長の娘ラリサと言います。ある晩に人間が大量に攻めてきまして、そのまま村は壊滅し、若い女・子供は奴隷商に売られる為、馬車に乗せられました。何故か人が立ち寄らない魔境を通ってスランル帝国へと向かっていたみたいです。3日くらいが経って、移動中に見たこともない3ツ首の魔物に襲われました。多分ですが、人間も馬車も一緒に乗り合わせた仲間はもう...私は人間が戦っている隙に逃げ出し、この家が見えたので思わず逃げ込みました」
う~ん?壮絶だなと思う拓哉だったが、疑問だらけだと思ってしまう。
一つ目は、銀狼族は綺麗だから襲われたのはわかるが、人間にあっさり負けるのだろうか?ラノベに出てくる狼系の獣人は強いイメージがある。
二つ目は、あとは非合法かなんらかの原因で正規ルートを通らなかった理由。
三つ目は、魔境を少なからず2日以上は移動していたにもかかわらず、魔物に遭遇したのが3ツ首の1回だけ?その人間達が強く退けたということもあるが、そんなやつがゴロゴロいたら魔境は人間が支配しているはず、なんらかの寄せ付けない魔道具か強力な武器を持っていたかだな。
ラリサに聞けるのは1と3の疑問くらいだろう。あとはスランル帝国が危険な国であることがわかったのと、獣人が奴隷扱いなのと、今後もこのようなことがある可能性が出てきたことか。それとラリサが嘘をついてる可能性も少ないがあるわけだが、今は考えないでおくか。また話さなくなっても困るし。
「ラリサに2つ聞きたい。1つ目は銀狼族は人間より弱いのか?すぐ集落が落とされた感じだけど? 2つ目は魔境って少なからず一般人は立ち寄らないかなり強力な魔物がいるイメージだけど、3ツ首と出くわすまでの魔物は全て人間が退けていたのか?」
「銀狼族は人間より強いです。ですが銀狼族は数が少なく私達の集落には男10人女6人しかいませんでした。人里離れた森の中にいたのですが、何故か見つかってしまい数の暴力と力を奪う魔法?かなにかによって大人達は、獣神化も出来ず蹂躙されました。あと魔境では、3ツ首以外出会いませんでした。休憩中に人間が魔物を寄せ付けない魔道具の話をしていたので、その影響だと思います。何故か3ツ首には効いてませんでした」
話が本当なら数が少なく高値で売る為に、以前から計画されていた感じがするな。用意周到すぎるし、力を奪う魔法か魔道具?これが獣人以外にも有効なら俺も危ないな。仲良くなったらお客さんに聞いてみるか。やっぱり魔物を寄せ付けない魔道具があったかぁぁ。多分3ツ首はオークエンペラー同様、なにかのスキル持ちで効かなかったが有力だろうな。魔境の魔物には一層用心しないと。だが、魔物は食いたいし行くけどな。
「辛いことを色々聞いてしまってごめんな。人間は信用できないだろうが、俺は訳ありでこんな場所で料理屋をしてる店主だ。どこの国とも繋がりはないし、友達もいない。ここにも客としてしか人はきていない。集落に帰りたいだろうけど、暫くここにいないか?衣食住しか提供できないが。」
思わず辛い境遇にあるラリサの心情を察して聞いてしまう拓哉。
「え?獣人の私なんかを良いんですか?見返りに出せるものは、私の体くらいしかありませんが」
「おう。好きなだけいてくれ。あと見返りなんかいらないよ。女の子が体を差し出すとか言っちゃダメだからな。ん~?見返りではないけど店番を手伝ってくれないか?接客や掃除や配膳をしてくれたらいいから」
「拓哉さん本当にありがとうございます。接客も掃除も配膳もがんばります。ここに、いさせてください」
ここ以外に行く場所もない。人間に見つかっても酷い目に遭う。優しい笑みを浮かべて助けてくれた拓哉に恩返しがしたく、ここに居させてもらえるよう懇願するラリサ。
「気にするな。手伝ってくれるなら、ここはもうラリサの家でもある。それと今日は夜になるし行けないが、明日の朝、その襲われた付近に行こうと思う。ラリサの仲間の生き残りが居るかもしれないしな。場所さえ教えてくれたら見てくるけど、ラリサはどうする?」
普通なら危険な場所へ少女を行かせることはしないけど、見ないと気がすまなくて、あとあと追っかけて来られても困るし、先もって聞いておいた方がいい。よくラノベで、一緒に行って守れず後悔する主人公とか、黙ったまま行ったり、無理矢理家においていき、追っかけてきてピンチとかなる状況とか作りたくない。
「いいのですか?ご迷惑になると思い言い出せませんでした。是非一緒に行きたいです。ご迷惑かけないようにします」
普通なら料理人が行くと聞いたら止めるのだが、こんな魔境に住んでいる時点で、普通ではない。なにかしら生き残るすべがあると確信し同行を求めた。
「よし!任せろ。まずはあと1時間くらいしたら、開店するからそれまで接客と掃除と配膳を簡単に教える」
「はい!よろしくお願いします」
そのあとラリサは拓哉にレクチャーを受け、あっという間に1時間が経ち開店を迎えるのだった。
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