旅日記

@DEKAKAGAMI

第1話

「旅日記」

 1



 いつか忘れてしまう君へ

 私と君は旅人だ、私達には目的がある、この世界を歩いて周り美しい景色と旅の思い出を作ることだ、―――

「忘れないうちに書いてしまおう」

 この気取った文章の綴られた本の持ち主はそう呟くと、スラスラと一日の出来事を書き込んでいく。

「いいものが見られたな」

「ブルルッ…」

 男は愛馬を撫でながらそう言い、ここ数日の旅を思い返しながらまた日記につらつらと書き始めた。

 2


 ガラガラガラ…と荷車の通り過ぎる音と共に目が覚めた。少し気だるげにベッドから起き上がりグッ…と伸びをすると欠伸が溢れる。針時計を見ると昼頃なことに気付き手早く身支度を済ませ部屋を出る。


「お兄さん、お出かけかい?」

「えぇ、そろそろ街を出ようと思って」

「そうかい、よっぽどの事がない限り大丈夫だとは思うが気をつけてな」

 軽く会釈をして宿を出る、行きずりに食料や水を買い揃えながら馬屋の方へ歩いていく。

 受付で引取りの手続きを済ませ小屋の中に入っていくと愛馬が水を飲みながら主人を待っていた。

「おはよう、アルフォンソ」

 腹の辺りを撫でてやるとフルルッと頭を揺らした。

「おや、もう出るのかい」

 振り返ると馬屋の主人の男が藁を背負いながら声を掛けてきていた。

「はい、そろそろ歩かせてやらないとこいつも拗ねてしまうので」

 そうだと言わんばかりに大きく鼻を鳴らしたアルフォンソを見て少し笑いが起きる。

「ところで次に何処に行くかもうアテはあるのかい?」

「いえ、まだ決めかねてるんです」

「それならアズマに行くといい」

「アズマに?」

 アズマとはここから東にある山岳地帯を抜けた先にある国の名前だ。鉱山と工芸の職人街、そして武術の国として名を知らない者はいないと言われるほどの大国として知られている。

「あぁ、見たところあんたの馬の蹄鉄がだいぶ傷み始めてるからな、うちでも扱ってるがせっかくなら本場の職人の物を試してみるのもいいだろよ」

 言われて見てみると確かに少し汚れているのが分かる。

「そうですね、そういう事なら向かってみる事にします」

「ああ、それとまたこの街に来る事があったらうちに寄りな、サービスしてやるからよ」

「はい、そうさせてもらいます、ありがとうございました」

 馬屋の主人はニカッと笑うと手際よく馬小屋の大扉を開けてアルフォンソを引いて外に出した。

「じゃあな!気をつけろよ!」

「お世話になりました!」

 お互いに大きな声で挨拶を交し、アルフォンソに跨る。アズマに行くためには山岳前の関所を通らないと行けない、まずはそこを目指し歩を進める。

 …これは勘違いかもしれないが自分の履物が新しくなるのに気づいているのか、アルフォンソも少し嬉しそうにいつもより足早に駆けていた気がする。

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