第18話 異世界で妻は僕を案じ、義父は自分の非を認める。

カズマが二拠点生活を始めてからというもの、マリリンとカズマ専用の部屋が出来るのに、そう時間は掛からなかった。

ゴージャスな部屋にクイーンサイズのベッドが二つ仲良くひっつき、二人がどれだけ寝相が悪かろうと寝れるようになっている。

無論、マリリンの寝相が悪ければ下手をすればカズマの命は無かったのだが、意外にもマリリンは寝相が良かった。

お互い仕切りを挟んでパジャマに着替えベッドに入ると、マリリンの合金のように固い二の腕を枕にカズマは早々に眠りにつきそうだった。

それでも必死に起きつつマリリンの柔らかくなった髪を撫でながら、静かに過ごす時間。

マリリンが恥じらっているがカズマとしては獰猛なライオンの毛を撫でているような気分であり、そのままウトウトと眠ってしまった。


ライオンの前で寝るなんて命知らずである。

だが、マリリンは以外と乙女な為、手を出すことは今のところはない。

ちなみにマリリンはライオンなんて可愛い生き物ではなく、どちらかと言うと古代竜のような勢いがある訳だが。


静かな寝息が聞こえ始めると、マリリンはホッとした様子でカズマを抱き上げ、フカフカの枕の上に頭を乗せ、更にフッカフカの羽毛布団をカズマに掛けると、ニッコリと微笑む。

その顔は無論、世紀末覇者だったが。



(随分と今回は根詰めしたようだなカズマ……。いくら優しいカズマといえ、やはり嫉妬してしまうのは私がまだまだ未熟なのだろう)



マリリンはそう思うと溜息がでそうだったが、幼い顔で眠るカズマを見てフッと微笑んだ。

この世界では、女性の立場と言うのは弱い。

男や夫から逃げることが出来ない女性や幼い子供の被害と言うのは、何処にいても目に付く問題であった。

それが、ムギーラ王国でカズマが相談役になってからの半年間で劇的に変わり、女性や子供を守る法律が決められたのだ。

各場所にこの世界に元々あった自警団ではなく、各場所に出来た【警察署】に女性や子供が駆け込むことで保護される。

子供だけで駆け込むことがあっても、警察官は家まで行って暴力を振るわれている女性を救う事も出来るようになった。

その場合、現行犯と言う事で夫や男性は牢に入れられるようになったのだ。

だが、どう足掻いても女性一人で子供を育てていく事は難しい。

故に、女性の雇用の底上げをしたのだと教えてもらった事も懐かしい事だ。

今では、レディー・マッスルの経営する宿や店にはそう言った女性たちが多く働いている。

皆が皆と言う訳ではないにしろ、カズマやレディー・マッスルに感謝している人々が増えてきている。

次にすべきは、道端で投げ捨てられる老人たちを助ける為の終の棲家の建設だとカズマは言っていた。

それは既に父である宰相と話は進んでいるようで、空いた土地に幾つもの施設が現在建築中だ。


この半年で、ムギーラ王国は世界で最も住みやすい国として有名になりつつあった。

各国からムギーラ王国の視察も増えている為、視察団の護衛としてレディー・マッスルの冒険者を連れて行く国も多い。


――全く、まだまだ幼い少年であるというのに、カズマはとても有能だ。

だが、あの異世界で生きてきたカズマにしてみれば、まだまだ歯がゆい問題が多いのだろう。

せめて、私でも出来る手伝いができればいいのだが……。


マリリンはスヤスヤ眠るカズマの頬を撫でると目を閉じ、同じように眠りについた。




*****




その頃、ムギーラ王国の宰相の部屋では、各場所に指示を出していた建設容認や必要な備品の用意、そして終の棲家で働く人員確保と忙しく働いていた。

宰相であるマギラーニ宰相が最近特に思う事は、一人娘であるマリリンを追い出してしまったことによる痛手である。

マリリンの夫であるカズマは、今までの国の根本を変えるほどの政策を幾つも出していき、それが将来何処に繋がるのか、国としての信頼度で他国より優位に立つことが出来る事等、幅広く見解を見せてくれた。


一言で言えば、カズマは有能過ぎた。


そのカズマが最も愛するのが、自分が追い出してしまったマリリンであると言うのが本当に痛手である。

追い出していなければ、カズマを次期宰相として育てることが可能だっただろう。

何より、あの娘を一途に愛し、他の美しい花々には目もくれず、マリリンにのみ愛を伝えている。

それはムギーラ王国の誰もが今では知る程の、相思相愛の夫婦姿であった。

それに引きかえ、マリリン達が出て行ってから産まれた息子は視野が狭く、何かとレディー・マッスルに赴いてはワガママを言っていると聞いている。

兄であるジャックが雷を落としているとは聞いているが、年がそこまで離れていないカズマへ対する劣等感が強すぎるようだ。


こればかりは才能の違いとしか言いようがない。

劣等感だけではカズマに太刀打ちなど出来ないのだ。

まだ幼いが故に理解が出来ないのか、それとも――。



「やはり、早々に手を打つしかないか……」



一度、カズマと自分が行っている仕事に参加させてみる価値はあるかも知れない。

プライドはポッキリと折れてしまうだろうが、息子のプライドでは国民を守ることは不可能である。

出来る事ならば、カズマと息子が手を取り合いムギーラ王国を更に発展させてくれればいいのだが、期待は薄いだろう。



「やはり、マリリンに公爵家に戻ってきてもらうしかあるまい……」



もしくは、カズマに爵位を取らせ……そこまで考えていると溜息が零れた。

カズマの用意した雇用人数に関しては、シングルマザーになった女性が多く雇用されると言う報告書が届いていた。

その人数はそれなりに多く、それでも足りない人員に関しても別途考えているらしい為、こちらはカズマに投げてしまえばいいだろう。

あとは予算だ。

レディー・マッスルからも支援として膨大な金額が届いている。

娘がリーダーを務めるギルドでは、既に新たなる商売展開が幾つも起きていて、他国からの買い付けも多いと聞く。


世界最大のギルドからの支援は、無碍出来る訳もなく、今後も長男であるジャックと、その友人であるマイケルと緻密に計算していくしかないだろう。


やる事はまだまだ沢山ある。

それに、カズマが国の相談役になってまだ半年だ。

更に言えば、そろそろ社交季節。


更にカズマとマリリンは有名になるのだろうと思うと、自分が娘を見る目が無かった事が更に公になり、肩身の狭い想いをする羽目になる。

それは――マギラーニ宰相の、受けるべき相応の罰であった。


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