第16話 異世界で僕はギルドを少し改選する。

「それから、こちらの物ですが……僕の両親より国王陛下及び、マリリンの実の父である宰相様にと贈り物を持ってきているのですが、此処でお出しするのは失礼にあたるでしょうか?」



そう言うと、収納魔法から日本の有名なウイスキーと日本酒のセットを取り出し、片方はお高い方で国王陛下への献上品だ。

もう一つがマリリンの父である宰相へのお土産となるのだが、陛下付きの騎士がやって来るとそれらを受け取り、害がないのを確認したのち二人に渡した。



「こちらはお酒となりますが、我が国の誇る銘酒で御座います」

「ほう……それは楽しみだ。是非カズマ殿も一緒に頂きたいところだが、時間はどうかね?」

「申し訳ございません。僕の年齢ではまだ酒を嗜むことの出来ない年齢なのです。我が国の規則は厳しく、本来成人とされる年齢は二十歳とされています」

「と言う事は……カズマ殿は確か17歳と聞いているが」

「はい、親の許可があれば大丈夫です。寧ろ僕の両親がマリリンをとても気に入っていて、是が火にでも今すぐ結婚を……と言う有様でした」



此処まで言うと宰相は目を見開きマリリンを見つめ、ハッと気が付いたようだ。

そう、マリリンが着ているドレスに宝石は、この世界では絶対に見たことのない程の一級品。

それを身に着けているマリリンに驚きつつも、宰相は更に言葉を告げる。



「それでは、マリリンが着ているドレスや宝石類は……」

「一式、僕がプレゼントいたしました」

「なっ!!」

「此れだけ美しい妻なのです。頭の先からつま先まで、全て彼女の為だけに用意しました。僕の愛を身にまとったマリリンはとても美しい……と、惚気てしまいましたね。申し訳ございません」



深々と頭を下げるとムギーラ国王は嬉しそうに笑い、宰相は口をパクパクさせたまま言葉が出ないようだ。

すると、マリリンはするりと僕の手を握り絞め、国王陛下と宰相と向き合った。



「この通り、相思相愛の夫婦ですが、何分カズマも私も忙しい身。常にこの国に滞在すると言う事は難しいのはご了承ください」

「また、ドレスや宝石に関して僕は妻にしか贈らない、買わないと決めています。その点もご了承ください」



――こうして、ある程度の牽制を行いつつも各自が忙しく、何時も国にいる訳ではないと言う事を明言したことで、僕が元の世界に行こうがマリリンが僕の故郷に行こうが問題は無くなった。

まずは一安心と言ったところだろう。

その後ギルドへと帰ると、このとき様に用意していた着流しに着替えると、何人もの冒険者からお礼を言われた。

家族を連れてムギーラ王国までやってきた冒険者達だ。

家族の職場も見つけることが出来たとの事で、生活面に余裕ができれば安心も出来る。

僕は笑顔で「良かったです」と伝えると、彼らは涙を流しながら何度もお礼を言っていた。



さて、少ない休みの間にやるべきことは沢山ある。

次に向かったのはギルドの真横にある大きな宿屋兼食事処だ。

結構な大きさのある建物で、この建物はマリリンと僕とでの夫婦名義で運営していく事になっている。

とは言っても、宿屋と食事処に提供する物がある程度で、売り上げはどうなるのかはまだ未知数だ。

この食事処には、女性でも男性でも料理人を募集するし、給仕は男性女性問わず。

ベッドメイキングや掃除洗濯等は、働きたい子育て世代であっても人数に余裕を持って雇う事にしている。

室内に置くベッド類は僕の住んでいる世界からマットレスやら諸々込みで運び入れる予定だ。きっと高値でも泊まりたい客は増えるだろうし、食事処では異世界の香辛料を使う許可を出している為、人気は確実に出るはずだ。


更に言えば、小さな託児所も用意する予定だ。

そちらに関しては、先ほどのムギーラ王国へとやってきた冒険者の家族に手伝ってもらおうと思っているし、現在近くの建物を購入中である。そこが託児所になるだろう。

老いてはいても活動的に動ける老人を多めに雇い、その方々にも託児所で子育ての知恵を出してもらいながら子供たちの世話をして貰う。

――ここまでは、幼い子供へ対する託児所での活動だ。



問題は、冒険者になりたい及び、冒険者でなくとも働く予定の子供達へ対する文字の読み書きや計算を教えると言う場所が必要になってくる。

マリリンのように公爵家で一定の教育を受けているならまだしも、そうでない場合の問題は山積みだ。

昔で言う寺子屋のような文字の読み書きと計算を覚える場所を作れれば、それもまた「レディー・マッスル」の戦力増加にも期待が出来る。



マイケルさんが言うには、レディー・マッスル程の有名なギルドになれば、ある程度のやっかみやらは跳ねのける事は出来るらしい。

だが、幾ら此方が手を伸ばすことができようとも、国が動いて本来やらねばならないところまでやると、今度は国から不況を買い、居場所を追われるのだと注意された。

故に――。

行き場のない老いた老人達への終の棲家までは手を回すことは出来なかった。

僕のできる範囲は、あくまで「レディー・マッスル」に関わる範囲だ。

だからこそ、このギルドで冒険者を引退すると言う方々には、退職金及び、その後の生活へのある程度の保証をとマリリン達と話し合っている所だ。


それが最初のモデルケースになればいい。

国なんか関係なく、ギルド内の事なら、とやかく言われる必要もない。

幸いにして、未だギルド内から引退する人はいないけれど、先々を考えれば必要な事だ。

それに、女性冒険者の妊娠や出産と言うのもある。

此方も大幅な改革が必要で、僕も色々と母とも相談しながらやっていこうと思っている。

学生生活の傍ら、そう言う問題にも取り組んでいかねばならないのは大変だけど、己が大変な時はそちらを優先しろと言われている為、無理はしていない。


寧ろ、遣り甲斐だらけで楽しくて仕方ない。

そう思っているうちに――半年が経過していた。



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