三題噺保管室
井口創丁
「砂」「告白」「見えない可能性」
僕の視界から白が消えていく。
目が見えなくなるのではなく、視界に入る白い色をした物がどんどん別の色にさし変わっていくのだ。
大根は黄色だし、米は紫、カルピスは真っ赤に染まって見える。
この現象が起き始めてもう1年ほど経とうとしている。ここまでくると、目に映る物が元からこの色をしていたのか、変色してこの色彩に変化したのかさえもあやふやになってきてしまった。
こんなことになる前に、病院に行けと言うのはあまりにも正論だし、僕もそれを否定できない。
しかし、そうしなかったのには理由が2つある。
1つ目は、僕が引きこもりだからだ。
中学二年生のころから始まって、今年でもう10年くらいになるだろうか。
2つ目は、色覚に異常が見られるのは現実世界の物だけだからだ。
僕がおはようからおやすみまで、どっぷりのネットの世界では特に異常は感じられないのだ。
そうなると、僕が異常を見るのは食事のときのみといっても過言ではない。
最初は、両親が嫌がらせで腐ったものを出しているのかとも疑ったが、1週間ほどずっと変色した料理が運ばれてきているのを見て、おかしいのは僕の方なのだと知ることが出来た。
症状は日に日に悪化していき、それと同時に食欲もうせていった。
もう今週は、水とカレーのルーしか口に入れた記憶がない。このままでは餓死してしまう。
意思を固め、俺は数年ぶりに重い部屋のドアを開けた。
もとは白かった壁紙が7色にテカテカと輝いて視界に入る。
天井には水色の電球が吊り下げられており、そこから青い光が僕に刺さる。
階段を降りリビングに向かうと、そこには、深緑のソファーにマゼンタのクッションが置かれており、その前にはターコイズブルーの机に真っ黒なコップがあった。
このうちのどれが正しい色で、どれが間違った色なのだろうか。
目の前に映る極彩色の嵐に気が触れそうになった時、奥から赤茶けた色をした人型のナニカが話しかけながら近づいてきた。
そのナニカの発する声は今朝まで部屋に食事を届けてくれていた母親の声と一致したが、僕の脳は理解の限界を超えへ、今降りてきた階段の方へと体の向きを変えた。
しかし、その視線の先、階段の上には黒と赤のマーブル模様に着色された人らしきものが立っていた。その輪郭から察するにきっと父親なのだろうが、僕はそうだとしても逃げ出したくてたまらなくなってしまった。
体を反転させ、玄関へと向かう。
長らく体を動かしていなかった代償で、足や腰の筋肉が張り詰めて鈍い痛みを伝えるが、そんなことなど気にしてはいられなかった。
僕は不自然に体を動かしながら、背後から聞こえる両親の叫び声を無視し、玄関の扉を開けた。
不意に目に強い痛みが走る。数秒してそれが太陽から降り注ぐ光であることに気が付いた。
空を見上げると真っ白い雲がそこには優雅に漂っていた。
それを見て僕は病気は思い違いだったのかとホッ胸をなでおろし、そして、すぐに背後に迫るカラフルな人型のことを思い出しバッと勢いよく振り返る。
そこには、何の変哲もない普通の色をした人間の姿があった。
両親は僕が外に出たことに感動してか、涙を流して僕の方へと歩み寄ってくる。
この一年にわたる色覚以上はいったい何だったのだろうか?
もしかしたら、神様が僕を外に連れ出すために仕掛けた罠だったのかもしれないな。
そう思いながら僕は両親の熱い抱擁を感じていた。
「はっくしゅん!」
急に鼻がムズムズしてきて、僕はくしゃみをしてしまった。
そういえば、なんだか細かな砂のようなものが舞っている気がする。
いや、元々外なんてものはこういうものだったのかもしれない。
暗室でジメジメと過ごしてきた自分がどこか恥ずかしくなり、僕は一層両親に強く抱き着いた。
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『親が俺を殺そうとしてくる件』
1. 1年ぐらい前から親が変な色の料理ばっか作ってくるんだけど、
これはNEETの俺を56そうとしてくるってことでFA?
2. 漏れも昨日までそうだったけど、2年ぶりに外出て深呼吸したら治ったずw
てか外界、息苦しすぎww細かな砂みたいなのがずっと飛んでてワロタww
もう、10年は引きこもるわwww
3. 似たようなスレ前にも見たぞ。パクリ乙
…
…
52. 1だけど、ちょっと窓開けて換気したらなんか治ったわ
世界のバグかなにかか?
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