第170話
だらだらと今後の事を話し合い、翌日隣国に向けて移動となった。
元々いつ奴隷から解放されるかはわかっていたので、マナミ以外の元娼婦たちも移動準備はしていた。
リュベルには余裕を見て十日後に到着予定だと勇者たちには手紙を出している。マナミを受け取りに来てくれなければ、勇者のいるところまで押し付けに行く。ただ、戦場にいたら戦が終わるまでは仕方がないので待つつもりだ。
獣車三台に護衛の冒険者が二パーティ。獣車は一台をマナミが使い、マナミ以外の元娼婦四人が一台を使い、もう一台をエイコが使う。最初エイコは乗っていることにして、さっさと上空に逃げるつもりだった。けれど、娼婦以外の仕事は初めてだという四人に仕事内容の説明をねだられて逃げられなくなっている。
リュベルの街がどんなところかも気になっているようで、移動の休憩中に話をねだられた。
仕方なく浮く絨毯を獣車の中に敷いて移動による振動を無くす。振動さえなければ移動中を作業時間に使える。
移動中も元娼婦たちはおしゃべりしたいそうだが、エイコの対人能力はそこまで高くない。丸一日おしゃべりするなんて苦痛に思えてならなかった。
日に何度か確認作業が必要になるが、一日中忙しい仕事ではない。四人で上手く仕事を回せば休暇も取れる。
空き時間で商売してもいいと許可を出せば、今まで出番のなかったスキルを使ってみようかとウキウキしていた。
「従業員割引で出店場所も貸しますよ」
町の近くにダンジョンもあるし、やる気があるならスキルも育てることができるだろう。
たぶん、仕事内容的には二人いれば十分なので、雇われ仕事をしつつ未来を夢見ればいい。ただ転職する時は早めに教えて欲しいと願う。
交代要員の希望を出せばリシャールが誰がしら紹介してくれるはず。
四人ともが仲良しという関係ではないが、二人づつに分けると仲のいいコンビになる組み合わせもある。
仲良すぎると悪い意味でなあなあになって道を踏み外すこともあるので、結託しきれない程度に不仲な人を混ぜ込んだのがリシャールの采配だ。
健康な身体で娼館を離れられる彼女らが、再び奴隷落ちしないことをリシャールは願っている。
若いうちに奴隷落ちした売れっ子娼婦は家族に売られて奴隷になった子も多く、帰る家がない。娼館主になったリシャールのような人は十年に一人いるかどうかの幸運な人だ。
娼館主が代替わりを望んでいなければどれほど才があってもなれるものでもない。
自らを買い戻した先に、娼館以外の場所に居場所があればいいとリシャールも願ったことがあるらしく、彼女らの未来に期待もしているようだった。
守るものがなければ、リシャールも来てくれたかもしれない。おそらくリシャールは他に居場所があったらなら、娼館を離れたかったのだろう。
それも男に囲われるのではなく、自立していたかった人。男は客。男に頼るしかなくなれば頼るだろうけど、そんな状況に追い込まれたなら娼館主はやめそうだ。
そして、リシャールはかなりエイコに甘い対応をしている。お金があるだけではどうにもならなかった薬類が手に入るようになったからだと微笑まれたが、他にも何かありそうだった。
教えてくれそうにないので、良い関係が続けられるならまあいいかと放置している。
ただ最近マナミも似たような視線でエイコの事を見てくることがあり、どうにも居心地が悪い。なんかこう、一人だけ子ども扱いされているというか、あなたはわからなくていいと思われているぽい。
幼児を見ている中学生というか、なんかもやもやする。元娼婦四人もたまにそういう視線になっているので、男性経験を問われている視線なのだろうかと悩む。
どうしよう。クリフでも押し倒せばいいのだろうか。
隣国入りして、首都から勇者たちが動きだしたと知る。ちゃんとマナミを迎えに来てくれるようだ。
女につけた自動人形からの知らせで、彼女らも移動していると知る。おそらく勇者と一緒に行動していた。
女の迎えに女同伴。さすが勇者と言うべきかもしれない。
獣車の旅は八日で無事リュベルに着いた。その間に二度魔物に襲われ、盗賊に一度襲われている。どちらもゴーレムと自動人形で制圧したら冒険者に拗ねられた。
「我々の存在意義は?」
「抑止力。女だけの移動ならもっと盗賊に襲われていたよね?」
「それはそうだが」
「金で買える安全は買う主義なので、冒険者の必要性は認めている」
きっちり仕事をしてくれたので、過不足なく依頼終了のサインをする。
元娼婦たちはクリフに引き渡し、住む場所の案内をしてもらう。エイコはマナミとすでに到着している勇者の滞在先へ向かった。
大通に店を構えた宿で勇者に会いたいと伝えたが、合わせてくれない。貴族であることを証明すれば、伝言くらいは頼めるはず。
伝言を頼んだ後、ロビーで待つしかないかと思っていれば都合よく勇者が出てきた。
元クラスメートではあったが、エイコは短気なところがあるこの男が苦手だった。好意的に見る人なら熱血や素直だと受け止められるらしい。
そしてマナミにとっては扱いやすい男だ。
二人はまるで惹かれ合うように見つめ合い、マナミは涙ぐんで両手を口に当てた。
「たい、よう、なの」
感極まったようにマナミがつぶやけば、太陽が笑みを浮かべる。
「ああ、マナミ。久しぶり」
二人はお互い惹かれ合うように歩みを進め、抱き合う。ドラマのワンシーンみたいだと、エイコは冷めた視線を送る。タイヨウはともかく、マナミは絶対演技だ。
タイヨウの取り巻きだった女が三人おり、三人ともが抱き合う二人に鋭い目を向けていた。
タイヨウの鑑定結果が三児のパパ。オレ、イケメン。
元の世界から兆候はあったが、ハーレムを作ったことでナルシスとして完全覚醒している。
そして、異世界で苦労した女を守る勇者のオレって役に酔っていそう。
「知り合いなのは証明できましたかねぇ?」
あっち二人に関わりたくなくて、対応してくれていた宿の受付の人に声をかける。
「えぇ、次からはそのように対応させていただきます」
貴族を名乗る必要はなくなったので、商業ギルドのカードで提示して伝言を頼む。
「二人の邪魔したくないので帰ります。お幸せに」
マナミの押し付けに成功に小さくガッツポーズを決めて、エイコは宿を後にした。
リュベルにある家に向かい、今日はゆっくりしていようと思ったらアルベルトに報告を要求される。
いろいろお世話にはなっているが、報告が義務の部下ではない。今日は疲れたから明日にして欲しいと主張したが、認めてはくれなかった。
「マナミは光剣の勇者に会えたから、そのまま置いてきたわ」
「それだけか?」
「ん? 他に何かあるの?」
「直感スキルが話を聞き出すべきだと反応している」
「へー、なんだろう?」
今隠し事は転移魔法陣のレシピが完成して、すでに作成が終わっていることくらいだ。でも、それはマナミを迎えに行く前のことで、その頃には問い詰められるような事はなかったから、別なことのはず。
「あっ、ちょっと悩んでいることあった」
「なんだ?」
「場所移動してもらっていい?」
リビングのテーブルてお話しをしていたが、応接に移動してもらう。それから二人掛けのソファに座ってもらい、押し倒してみる。抵抗はされなかった。
呆れていても綺麗な顔をした男をエイコは見下ろす。社交界に出た時の取り繕った顔なら、よくできた石像みたいだったのに今は感情が表に出ていた。
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