王都 メルゼルス

第119話

 監視できないダンジョンはダメだと、家も買ったので、城下町に連れて来られた。

 メルゼルスは王都周辺の直轄地の指す地域名であり、城下町を指す町名でもある。

 そして、王城のある町なだけあって、雪がちらつくような日でも街に入る為の門には列ができていた。


 アルベルトは貴族用の短い列でさえ、順番を飛ばして入町許可をとる。ほぼ審査ナシで、獣車を降りる必要もギルドカードを見せる必要もなかった。

 おかげで寒い思いはしなくて済んだが、これが権力者かとエイコは知る。

 そうして連れて来られた家は大きかった。


 見せてもらった物件的に、五億エル越えのものは避けてくれたようだが、二億か三億超えたくらいの家だと予想をつける。

 内装は掃除しただけらしく、ちょっと値切ってくれて三億弱らしい。

 ダンジョンでやらかすより、家の内装で遊んでいろとパトスに言われてしまった。


「一階は呼ぶかどうかはともかく、来客がある前提で内装を決めるように」


 二階に宿泊できる客間もあった方がいいそうだ。

 実際に使うかどうかではなく、必要になった時に困らないように準備しておいてほしいと願われる。


 四階および屋根裏部屋が屋敷を管理する従業員たちの部屋になるそうで、屋敷の主人家族が二階、三階に住むそうだ。

 二階を執務室を含む仕事用にして、三階に住む人もいれば、執務室に近い方がいいと二階に住むは人もいる。


「屋根裏部屋が楽しそうで住みたいんだけど?」

「趣味部屋にするくらいならいいが、寝室は真っ当な場所に用意しろ」


 グチグチと常識についてパトスがうるさいので、屋根裏を趣味部屋にできるならもういい。常識的な部屋割りをパトスにやってもらう。

 どうやら二階にエイコの仕事部屋と寝室と、三階にメイの私室と作業部屋が確定。


 とりあえず執事とメイド長をできる人をアルベルトの実家から紹介してくれるそうで、従業員関係はそっちに丸投げ。

 当面料理はクリフがしてくれるが、クリフとは別に料理長がいた方がいいそうだ。


「人増やすより自動人形使いたい」


 人件費がいらないし、精神的にもラク。


「貴族対応する人間は絶対に必要です。何をするにも貴族は作法があるが、雇わないなら自分て覚えなくてはいけなくなるぞ」


 爵位やら派閥、役職に領地。貴族を相手にするとき、覚えなくてはならないことは膨大だと執事の必要性を説かれる。執事がいれば家の中の取りまとめもしてくれるそうだ。

 メイド長は立ち振る舞いの先生も兼ねてくれるそうで、貴族的な衣装の相談にも応じられる人らしい。


 アルベルトの実家で働いていた人たちで、大貴族の使用人頭をするには高齢で体力的に支障をきす前に引退予定だったそうだ。

 領地があるわけでもない新米男爵家くらいなら、まだまだやれるそうで引き受けてくれたらしい。


「またお酒作ればいいの? それともポーション系?」

「午後に来るそうだから、来たらそっちに相談してくれ」


 もっとも好きにやってくれていいと言われた寝室を、まず手掛けることする。

 寝台は作れるからいいとして、寝室の土足をどうにかしたい。


 部屋のドアを玄関に見立てて準備してみよう。

 清潔の魔術使って、絨毯敷いて靴を脱いだだけで気持ち的にだいぶ違った。メイに作ってもらった布スリッパを出して、まず寝台をどこに設置するか考える。


 基本的に、寝室には誰も入って来てほしくない。貴族の面倒をみる職業の人たちがいるとしても、嫌なものはイヤ。

 寝室くらいどこまでもだらけきりたい。


 部屋をわけるか。壁に擬態する食器棚。あれ、魔導具改造スキルで、本棚とか靴棚とか、棚系の物なら簡単に変更できそう。

 棚を上手く組み合わせたら隠し部屋くらいできるだろう。なにしろ、一部屋がデカい。

 上の階の方が一部屋狭く数が多くなるらしいが、エイコは二階の部屋の中でも広い部屋を割り当てられている。広すぎても落ち着かないし、隠し部屋を作って、ちょっと狭めた方が落ち着きそう。


 どうするか具体的に決まらないうちに、昼食だと呼びに来られた。




 昼食が食べ終わったくらいに、執事とメイド長をしてくれる予定の人がやってくる。それぞれ人を連れて来ており、執事のモルグが連れて来たのは庭師と庭師見習い。メイド長のナモアが連れて来たのはメイドとメイド見習い。

 早速庭を見に行くという庭師たちをエイコは止める。


「庭の確認は寝る所確保してからにして」


 どうせ放置されていた庭だ。今日からでも明日からでもたいした差じゃない。けれど、夜になる前に寝る場所確保してもらわないと今晩から困る。


「メイドさんたちも、先に寝る場所ね」


 自分たちのことより庭やら屋敷の状態を確認するのが先だと難色を示されたが、野営でも不満はない人だとアルベルトが説得してくれた。

 不満がないんじゃなくて、不満が出ないように準備しただけ。生粋のお貴族さまとは違うのはわかっているが、変わり者扱いは好ましくない。


「モルグ、ナモア。もっとも大事な仕事は一般常識を教えることだ」


 真剣にアルベルトが語れば語るだけ、エイコは拗ねたくなる。


「会話の成立しない赤子か、聞き分けのない幼児でも相手にするつもりで対応してくれ」

「陞爵するような才人ですから、常人とは異なることはままあるでしょう」


 モルグの言葉を、エイコはたぶん褒められていないと判断した。


「常人では成人したばかりで陞爵なとできません。そのような方の理解者になれるとまては申せませんが、相互理解の架け橋となれるように努力したいと存じます」


 職業が特殊なだけで、変人扱いされている。有用なスキルがあるのと人格は別物なのに、ヒドイ。

 異世界人だから、この世界では〇歳児。一般常識を教えてもらわなくてはならないのは認めるが、アルベルトの発言は優しくない。


「これで少しはまともになればいいが」


 玄関ホールで、必要ではあるが強制的に用意された人員に引き合わされ、いなくなると思ったアルベルトが居座る。


「帰らないんですか?」


 別邸か本邸かはわからないが、実家があるのに出て行く様子を見せない。


「客間の準備なんてすぐできませんよ?」


 野営道具を持っているから、何もない部屋でも大丈夫らしいけど、それが貴族にというか、客人に対する扱いではないことくらいエイコでもわかる。なにより、家主の負担にならないように帰ってほしい。


「爵位持ちの詐欺師たかり屋がきたら、まだ陞爵していない君では対応できないぞ」


 また知らない謎な存在が出てきた。


 陞爵はとってもお金がかかるらしい。一番お金がかかるのが事前根回しで、次が陞爵後のお披露目だそうだ。


「お披露目?」


 そんな話、聞いてない。


「後ろ盾になっている貴族が主催する」

「あー、パーティーはやってくれるから、その分のお礼がいるんだ?」


 肯定もされないが否定もされなかったので、陞爵前後でお金がいるのは後ろ盾に対してだと理解する。

 ガチャでだした魔導具でもいいみたいだが、次に入手できるかどうかわからない物より、自作できる物で済ませたい。金策もしなくてはいけないし、難しいだろうか。


 借金するよりは魔導具を渡してしまった方がよさそうだが、職人の質違いで被っている魔導具だけですませたい。

 しばらくお金のことばかり考えていなくてはいけない現実に、エイコは疲労感を覚えた。

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