第79話
早朝から昨晩作った耐性アイテムを検品する。問題がない物を種類別に箱に入れて、宿の一階にある食堂に朝食を食べに行く。
食べ終わった頃に素材が届いた。これは前金の一部が物納で届いた物だだから、確認がいる。確認作業をする間に、納品分の検品をしてもらい、クリフに立ち会ってもらった。
帰りに道でもザルバーツは立ち寄る予定があるので、納品書にサインをもらいお金は帰りに受け取ることにする。
立ち寄る予定がない時は商業ギルドを使うといいらしい。ただ、高額入金だといきなり税金を取られることもあるそうだ。
領主関係からの入金で脱税しようもないが、この街でエイコは店をもっているわけでなないので、税金はラダバナて払えばいい。なのに、この地で商業ギルドに入金時に税をとられ、さらにラダバナで払うなんてことも発生する。
その場合、短期間臨時店舗がザルバーツにあった扱いで課税されるそうだ。
帰りに現金受け取りと決め、立ち去る。
移動ばかりの四日間を終え、昼過ぎに国境の町に到着した。
ガイダルと呼ばれる町は獣車が多く、荷車が行き交っている。個人向けの店より、卸問屋のような店が並んでいた。
「個別取引をしている所もあるが、やっていない所の方が多い」
大口取引限定で紹介者がいなければ門前払いという店も少なくないそうだ。リクシンの商会は支店があるので、困った時に頼れるようにクリフは紹介状をもらってきている。何もなければ使わないまま持ち帰られる予定だ。
国境には騎士団が常駐しているそうで、クリフは少し仕事をしてくる必要があるらしい。屯所近くのカフェに案内され、待っていてと置いていかれた。
軽食と思われる物と飲み物を頼み、のんびり待つことにする。
暇つぶしのお供は錬金術のレシピ本。娯楽用の本が欲しいと思いつつ、まだ入手できていなかった。
本を読みならが、錬金術とはなんなのだろうと思ってしまう。哲学的な意味を知りたいのではなく、好奇心が刺激される。
料理レシピや糸紡ぎレシピ、穴の空いた鍋やフライパンの修復レシピなんていうのも記載されていた。
家事か日曜大工のお助けスキルなのだろうか。棚や机や椅子も作れるし、作ったこともある。
「お待たせ」
ちびちび飲み食いしていたせいで、まだ半分も食べていないうちにクリフが戻って来た。
何かの果物のフレイバーティー、何かの花が花の蜜ごと入ったパウンドケーキ。飲み物の方はいいが、パウンドケーキがどうにも食べにくくて、早く食べるのには向いていない。
「ゆっくりでいいから、食べ終わったら少し仕事に付き合ってほしい」
「同伴者のいる仕事?」
「そうじゃなくて、エイコがどう見るか知りたい」
何か変わった魔導具でも有るのだろかと、エイコはお茶だけ飲んで席を立つことにした。
国境にある門や壁は大きく分厚い。壁の中に複数の部屋があり、出入国を管理している広場には多くの荷車が並んでいる。
そんな場所を通り抜け、壁と一体化している部屋の一つに案内された。天蓋付きの寝台より狭い部屋で、隣の部屋を除き見ることができる。
なんか見たことのある顔だ。制服以外の姿は初めて見たが、元クラスメートで間違いない。
鑑定したら、職業が勇者になっている。
「話せる?」
「話したいのなら」
クリフ以外にもこの部屋には騎士ぽい人と兵らしき人がいる。隣の部屋まで案内してくれた人は兵ぽい人で、やりとりは全部見られてしまう。
案内された部屋から見ると、特にここから見られているという感じはない。原理はわからないが、壁がマジックミラーの様になっているのだろう。
「サイキくん、久しぶり。去年、同じクラスだったけど、誰かわかる?」
「えっ、あー、なんか見たことのある気はするけど、その髪の毛どうしたの?」
「召喚されたのは多分同じころなんだけど、この世界に到着する過程が違う結果だと思う」
「過程って、いきなり光に包まれて目をつぶり、次に目を開けた時はこの世界だってぞ」
成功するとそういう感じだったのか。ということは、音声ガイダンスは聞いてないな。
「ちなみに、元の世界で光に包まれたのどこ?」
「学校近くの駅だよ」
学校の先生でもない社会人のトミオたちが巻き込まれているから、召喚された場所は学校ではないとは思っていた。駅なら、どんな立場の人がいてもおかしくない。
「こっちの世界で誰か知り合いに会った?」
「カナデの彼氏? お友だちなのかなんなのかわからないが、そいつらも一緒に召喚されてたぞ」
あれの取り巻き、そっちにいたのか。
「何人?」
「四人。オレ入れて五人で召喚されて、みんな職業勇者。なんかオレだけ戦闘職専用ダンジョンはいれないし、元々オレだけお友だちでもないから居心地わるくてさ」
「へー、で、元クラスメートの名前。思い出してくれた?」
「もちろんですよ、オトナシさん。性格は全然大人しくないオトナシさんって、言われ」
にっこり笑うエイコを見て、不自然に言葉を途切れらせる。
「黙って言いたい放題言わせてた子、みんな不登校になっているのよ。わたし、学校に通うために頑張ったの」
毎日がんばれないから、ときどきサボりはした。あの女は人目にがある時は取り巻きを使う。なんかズレた正義感で、マナミが困っているとか、可哀想でしょという話に持ってこられるのだ。
「あの女、こっちの世界にいるから。洗脳スキル持ちで」
「うわっ、やべー。あいつらしばらくカナデを探していて、最近になってやっと、この世界にはいないってあきらめたとこだぞ。オレがいるせいでマナミがいないってからんでくるしさ」
「くれぐれも、わたしがこの世界にいること言わないでね」
「待って、オレ、あっち戻りたくない」
ぶんぶんと顔を横にふる。
「勇者、カンバレ。勇者らしく勇者の暴走止めよう。遠くから応援だけはしてあげるから」
「ムリ!」
力いっぱい言い切りやがった。
「カナデはオレはタイプじゃない。カナデの取り巻きとは仲良くやれねぇ」
「大丈夫よ。あいつ魅了スキルもあるから、魅了されて洗脳してもらえば、いい夢見られるよ」
「それ、目覚めた時には破滅するだろっ」
「胡蝶の夢よ」
「はっ?」
それぽい言葉で誤魔化そうとしたが、失敗した。ならばどう伝えるべきか、少しばかり考える。
「浦島太郎って、悪くない人生はだと思わない?」
「玉手箱あけてやらかすのに?」
「竜宮城で一生分の享楽に溺れて、幸せなうちにポックリいけるのよ」
「えっ、アレ、そんな話だった?」
「労働することなく、美女に接待されて、その間に知人縁者全員亡くなっているのよ。愛別離苦の悲しみを理解しないまま玉手箱でやらかすんだから、人生の苦難から縁遠い生涯だわ」
「そ、そうか?」
「夢の中に生きることは幸せなことよ」
目覚めさえしなければ問題ない。エイコはマナミを信奉する夢なんてみたくないが、自らの平穏のために生贄を出すことは厭わない。
「お前がオレに面倒事を押し付けたいのはわかった。たが、断る。あの顔に一目惚れできなかった時点でムリなんだよ」
「スキルに美貌もあったから、顔に補正もかかっているから、いけるかもしれないわ」
「洗脳、魅了、美貌ってスキルおかしいだろ」
思えば、取り巻きの管理は元は世界でも洗脳ぽい。顔でつった男は魅了と美貌に引っかかったようなものだ。
そのスキルを得るだけの下地はあったと、思わされてしまう。
「ヤツは誘惑スキルも持っているよ。ちなみに職業は歌手で、歌唱スキルもあった。コンサートを行うと、観客が信者化します」
そういえば、あの女はカラオケも好きだったはず。メイは一緒によく言っていた。エイコは誘われないし、行きたくもないから歌のレベルは知らない。
「えっ、ラスボス?」
勇者四人が取り巻きの魔王。そんなRPGはクリアできない。手を打つなら、魔王が勇者を手に入れる前だろう。
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