女神さまの慈悲により、異世界で受肉しました。

葉舟

冒険者ギルドに登録します

第1話

 暗闇の中で声を聞いた。


「この度は巻き込まれ異世界転移に失敗したこと、誠にお悔やみ申し上げあげます」


「皆様の魂は現在、世界の狭間から神々の領域へと移され、保護されております」


「神々の慈悲により、此度は異世界にで受肉できること、誠にお慶び申し上げます」


「皆様が受肉される場所は、ダンジョン都市として有名なラダバナです。冒険者ギルドに登録いたしますと、身分証明に使えますので、まずはダンジョンにて冒険者登録費用を稼がれる事をお勧めいたします」




 暗闇にどのくらいいたのかはわからない。だだ、その間延々と声が聞こえており、異世界の説明をしていた。


 話が長くて眠い。肉体がなくても寝られるのかと思いつつ、大事な事らしいので一生懸命聞く努力はした。

 ほぼ右から左に流してしまったが、覚えていることもある。


 神々から与えられるのは肉体とスキルと冒険者的な初期装備。お金は人が作る物だから神々からは与えられないそうで、代わりにダンジョンメダルをくれるそうだ。

 もらえるダンジョンメダルは一律、金メダル一枚、銀メダル三枚、銅メダル一〇枚となっている。


 受肉場所は全員ダンジョンの中となっており、受肉した場所のダンジョンで所持しているダンジョンメダルは使えるそうだ。

 ダンジョンメダルで高価買取してくれる物が出ればそのまま冒険者ギルドへ向かえばいいが、売れそうな物がない場合はダンジョン探索へ向かわないといけない。


 お金がないと冒険者登録できないだけではなく、その日のご飯も得られなければ、泊まるところもないそうだ。

 運が悪いと生きるだけでも大変そうと思い、異世界転移失敗で一度死んでいるなら運は良くないと絶望する。


 もしかして、これ受肉しないまま死なせてもらった方がよかったのでは、と思ったところで光を感じた。




 肉体の重さと、身体から得る強烈な感覚にうずくまる。数回呼吸をすると、落ち着き、違和感なく立ち上がる事ができた。

 あたりを見渡せば洞窟のようで、ドーム状に広くなった場所にいる。太陽は見えないが、洞窟の全体が発光しており、視界に不自由はしなかった。


 そして、長方体の物体を見つける。自動販売機みたいな取り出し口とスロットマシーンみたいなレバーのついたガチャボックス。

 腰のポーチからメダルを取り出し、一枚投入する。それから、レバーを下方に下げると、ガチャと音がして何か出てきた。


 圧力鍋ぽい。


 次から次にメダルを入れて、出てきた物を鑑定しながら背中の鞄に詰め込んだ。


 最初に使った銀メダル三枚で出てきたのが錬金鍋と錬金盤と調合盤。たぶんこれ、売ったらダメなヤツだ。


 最後にしようかと迷い、次に金メダルを入れる。なんか巻物が出てきた。

 魔力を流すと魔術が覚えられるらしい。魔力ってどう流すのかと悩んでたら、なんか手から出て巻物が消えると水魔術を覚えた。


 うっかり使ってしまったが、これ、売れたのではないだろうか。後悔したところでどうしようもない。飲み水に困らなくなったと思うことにする。


 銅メダルを一〇枚使った結果、ポーションレシピ、マナポーションレシピ、毒消し薬レシピ、傷薬(軟膏)レシピ、封入瓶レシピ、薬草の束、薬草の束、瓶素材セット、木の杖、ナイフだった。

 これはもう、レシピ覚えて作って売るしかないだろう。ちょうど開け場所だ、魔術と同じようにレシピを覚えてまずは錬金盤で瓶を作る。


 錬金盤に素材を乗せて魔力を流す。失敗することなく蓋付きの瓶が六本、あっさりとできた。

 薬草の束はどちらもポーション用で、まず一束錬金鍋に入れ、水魔術で水を注ぎ、フタをする。そして、錬金鍋に魔力を流せば完成。


 瓶素材セットで作れた瓶は六本なのに、ポーションはその倍くらいある。とりあえず、六本分は瓶に入れて残りは鍋に残したままにした。

 きっちりと蓋が閉まるので、漏れ出てくる心配はたぶんない。ポーションが冒険者ギルドで買い取ってもらえるか調べに行こうと思うが、出口がどちらかわからなかった。


 ドーム状の場所から道は二ヶ所に向かって伸びている。さて、どちらに向かえばいいのか悩み、木の杖をその場で立てて倒してみた。

 杖が倒れた方へ向かう事にする。




 数回の分岐路を適当に進んだら、罠に引っかかった。転移魔法陣でどこかに飛ばされ、迷子になる。

 女の子としては地図は読める方だし、道を覚えるのも得意な方なのに、転移魔法陣はダメだ。元いた場所とつながってないから、戻りようがない。


 モンスターが強くなくて、怖さもないのがせめてもの救いだろう。

 ここのダンジョンで出るモンスターはバレーボールくらいの大きさのトマトかナスみたいなのが飛び跳ねながらやってきて咬もうとする。なかなかファンシーで、野球のバットのように杖をスイングしたら倒せていた。

 三体から五体倒すと銅メダルを落とすので、それらを拾いながらうろうろしているが、見覚えのある道にはたどり着けない。

 洞窟の道幅はほぼ一定で、ときどき広場のように広くなっている所がある。そんな似たような場所ばかりだから、元の場所だと気づいてない可能性もなくはない。


 どのくらいうろうろしているか、時間を知るための物がないからわからないが、喉が渇いた。液体としてすぐに思いつくのがポーションしかなかったので、飲んでみたらスポーツドリンクみたいな味がする。

 人間、水さえ有れば結構生きられるらしいが、出口にたどり着ける気がしない。異世界転移した早々にダンジョンで遭難死なんて嫌なんだけど、どうしよう。


 餓死とモンスターに食われるのどっちが楽な死なのか検討していると、壁の一部が装飾されている両開きの扉があった。


 出口。と、願いながら扉の片方を開けると、バランスボールくらいのカボチャみたいなモンスターがいた。

 ボールのように飛び跳ねながらやってくるので近寄る度に杖でフルスイングする。五回ほど繰り返すと討伐できた様で、金メダルを一枚残して消えた。


 金メダルを拾っていると、床に魔法陣が現れた。何だろうと思って見ていれば、鑑定スキルが反応し、小さい画面が出てきて、転移魔法陣と表示される。魔法陣の上に乗ると光に包また。

 要は、罠だった転移魔法陣と同じ。光がおさまると別の場所にいた。


 どうやら、最初にいたガチャボックスのある場所に戻ってこれたらしい。さっそくメダルをガチャボックスに入れる。

 金メダルからまわすとシンプルな腕環が出た。

 鑑定スキル、あると思えばすぐに使えるみたいで、なんか文字が出てくる。




収納の腕輪 容量約一〇〇〇㎥

※単位は対応する言語がないため、元の世界準拠。

※より詳しい説明が必要な方は鑑定スキルのレベルを上げてください。




 親切なのか不親切なのか、悩む。

 どうやら腕輪の魔法陣に魔力を流すと出し入れできる様だ。銅メダルは大量に手に入れたから、背中の鞄には入り切らないと思っていたのでちょうどいい。ガチャで手に入れた物をどんどん入れる事にした。


 腰のポーチはダンジョンメダル限定でいくらでも入る。その代わり、他のものはまったく入らない仕様となっていた。

 なので、現在銅メダルが何枚あるのか知らない。数えながら拾っていなかったし、片手で鷲掴みしてもあまるくらいはある。


 暗闇の中で聞いた声、冒険者登録以外も何かやれと言っていたが、何だっただろうか。一方的に聞かされる面白くもない全校集会の校長先生の話みたいな物で、なんかいい事言っていたかもしれないが、話が長くて覚えられていないことが多い。

 ちょっと意識が飛んでいた時もあるので、たぶん寝たせいで抜けている部分もある。


 何だっかと思いつつガチャを続けた。


「あっ」


 思い出した。スキルと持ち物を確認しろって言っていた気がする。ガチャる手を止め、確認した。


 腰にあるポーチは三つ。腰の左側に二つと右側に一つ。左の二つあるうちの一つがメダルを入れるポーチだ。

 それから左右な太腿に巻き付けているポーチが一つづつある。


 なぜかメダルだけはどこにあるかわかったから、他は確認していなかった。腰の右側のポーチはポーションとマナポーションと毒消し薬が入っている。

 仕切りがあってきれいに並んでおり、背負い鞄に作ったポーションを適当に突っ込んだのは良くなかったのかもしれない。


 左側のポーチ、メダル入れじゃない方は食べ物と水筒が出てきた。水筒に気づいていれば、ポーションを飲むなんてしなかったのだが、飲んじゃったものは仕方がない。

 空になった瓶はもう水魔術で洗って、ポーションを詰め直している。


 太腿のポーチは、右側からは剣とマントと腕につける小さい盾が出てきて、左側から着替えの服が出てきた。


 剣と盾、あったのか。木の杖でがんばったのに、ひどい。


 話はちゃんと聞いておかなくてはいけなかったと後悔はしたが、後悔なんて物はどうにもできなくなってからするもの。

 くよくよしても仕方ないと流した。

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