九鬼龍作の冒険 平泉寺・国の名勝に指定された「庭」を盗む

青 劉一郎 (あい ころいちろう)

第1話

          〇


 えちぜん鉄道、勝山永平寺線は、福井県福井市の福井駅から福井気勝山市の勝山駅まで、総距離二十七・八キロメートルあり、駅数は二十三である。途中、松岡、永平寺口、越前竹原を通る。勝山から、コミュニティーバスで平泉寺白山神社までの経路となる。または、歩いては二三十分かかると見ていい。平泉寺白山神社は苔寺でも有名である。その手前に、神秘的な菩提林に遭遇することになる。

 午後十二時五十四分発の列車は定刻通り発車した。乗客は少ない。七八名で、服装からして地元の人らしかった。その中に、ちょうど真ん中辺りに女が一人乗っていた。女・・・というより、老女であった。そして、車両の後部には茶色の帽子をかぶった七十を超えたくらいの男が肩をすくめて座っていた。

 老女の名は、笠原めい。歳は、八十二歳である。座席に座っているから、はっきりとした体格は分からないが、それ程大きくない。顔の皺は深い。彼女の眼が悲しげであるのが気になる。何よりも気になるのが、受ける印象がかなりの苦労を背負い込んでいる雰囲気があることだ。

 その老女の前の席には、十歳くらいの女の子がいて、じっと老女を見ている。時々老女と少女の眼が合うのか、どちらからともなく笑みを浮かべているのが分かる。

 (知り合いなのかな・・・)

 というより、老女の孫かも・・・と思ってしまう。それ程和やかな雰囲気がある。だが、二人は話している気配は全くない。

 老女、笠原めいは何気なく・・・ふっと眼を窓の外にやった。

 すると、六月の陽射しに、老女は眼を細めた。余程快いのか、気持ちよさそうな笑みを浮かべている。

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