第2話『トカゲ侍と陰陽師エルフ』その二

 はじめて食べた蜂蜜バター団子は美味かったが、少し腹に物を入れたおかげで余計に減ったようだ。リンタロウは飯屋を探すことにした。

 それに大きな飯屋ならば旅人も多く訪れるだろうから、求める情報が手に入るかもしれない。


 リンタロウの足が止まった。ちょうど飯屋を見つけたのだ。二階建ての大きな建物で、一階が食堂、二階が宿になっている、宿場町によくあるスタイルだ。

 飯屋の戸を開け、大きな体をかがめて中に入るリンタロウ。


「いらっしゃいま……」

 給仕の娘が、彼の巨体に言葉を失う。

 昼下がりとて客は少ないが、根が生えたように席に陣取って、昼間から酒を呑んでいる者たちが数人いた。その少ない客たちもリンタロウに驚いている。


 そんな中、彼は奥の席に座った。

「食事を、大盛りで頼む。それから、道中で食う握り飯のようなものを用意してくれないか」

「は、はい」

 娘は奥に引っ込んだ。


 リンタロウが笠を脱いだ。トカゲの頭部があらわになる。

 すると、他の客が彼の異形に目をむいた。こそこそ囁き交わしたかと思うと、そそくさと勘定を払って出ていった。まるで逃げるようだった。

 間もなく店内の客は一人きりになってしまった。


 やがて娘が飯を持ってきたが、明らかに怯えている。

「お、お待たせしました……」

「ありがとう」

 膳を卓上にそっと置いて、すぐ逃げ去った。

 さらに、入店しようと戸を開けた客が、中のリンタロウを見るやぎょっとしたように、そのまま戸を閉めていった。


 リンタロウは一連の反応に、特に何も言わなかった。トカゲの顔は表情を作らない。

 リンタロウの食事のペースは早い。雑穀の混ざった玄米が丼に山盛り。野菜のピクルス。山菜のスープ。芋の煮物。

 あまり噛まずに飲み込む。さほど時間をかけずに山盛りの食事を平らげた。


 待っていたかのように、竹皮で包まれた握り飯がテーブルの上に置かれた。

 視線を向けると、店の主人らしき男がテーブル脇に立っていた。

「旦那」

 緊張している。リンタロウには目を合わせないが、勇気を振り絞るように、

「すいませんが、食い終わったら早めに……こちらも、商売ですんで」

 出ていってほしいということだ。店員は怯えるし客は入ってこないから、ということであろう。給仕の娘は柱に隠れるように、遠巻きに様子をうかがっている。


「わかっている。すぐ出るよ」

 素直に受け入れられて、ほっとした様子の店主。

「すいませんね、どうも」

「この町はいい町だね。商売に気概が感じられる」

 さっきの団子屋もそうだったが、リンタロウのように体が大きく、なおかつ身分が上の者にも言うことは言う。

 リンタロウは純粋に褒めたつもりだが、店主は戸惑っている。礼を言うところなのかどうかまごついていた。


 リンタロウは席を立った。

「出る前に一つだけ、尋ねたいことがある。いいかな」

 食事よりもむしろこちらのほうが重要だ。ほっとしかけていた店主は、怯えたように声をひそめた。

「……何でしょうか」


「人を捜している。ベルナミの脱藩浪人だ。年は一九。娘たちに好かれるような優男だが、額に傷。名はコガ・ソウヤ」

「どんなご関係で?」

「友だ。剣の兄弟子でもある。それから……」

 リンタロウは手にした笠を深くかぶった。


「師の仇だ」

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