加藤 佳一の格闘技講座

 Side 加藤 佳一


 昨日は試合の疲れもあってパーティーに上手く混ざれなかった。


 だがウルフェンとの約束――戦い方を教えてくれ――と言われたが、上手く出来るかどうか不安だった。


 特訓場所はウルフェンの住居であると同時に専用のガレージ。


 複数のパワーローダーやリング、トレーニング器具、スポーツ雑誌などが置かれている。


 朝飯はこの世界基準で美味しいサンドイッチをナナやマヤにも奢って貰う形で食べた。


 マヤは戦車の整備は買い出しにいき、ナナを残して俺とウルフェンはお互い動きやすい格好で一先ずトレーニング器具が立ち並ぶ場所で対峙した。


「つっても俺、格闘技は素人だぞ?」


「知ってる戦い方を出来うる限り教えて欲しい。あの投げ飛ばした技とかだ」


「ああ、ジャイアントスイングか」


「ジャイアントスイング?」


 この世界は文明が崩壊している。


 ウルフェンの反応は自然だ。


 有名なプロレス技でさえも知っている人間などどれぐらいいるのだろうかと言う話だ。


 そもそもウルフェンがボクシングを身につけていたりしている時点でもかなりおかしいな話なのだが。


 てかこの世界で生活する上で格闘技に修練を費やすなどと言う贅沢な時間を確保すら難しいだろうに。


「プロレス技と言うのは――まあ、説明が難しいが観客を楽しませるために重点を置いたスポーツ格闘技だ」


「観客を楽しませるとかスポーツ格闘技とかがよく分からないんだが」


「ああ、そこからか――基本、スポーツ格闘技と言うのは人を殺すのは御法度な物だ。ボクシングとかも元々はそう言うスポーツ格闘技の一つだ」


「そう言えばマスターがそんな事を言ってたな」


「マスター?」


「俺にボクシングを教えてくれた人だ――それでプロレス技ってのは?」


「説明が難しいが、プロレス技は戦って観客を楽しませることに重点を置いた格闘技だ。地味な技もあるが、派手な技が多い。ジャイアントスイングもその一つだ」


「他にもどんな技があるんだ?」


「プロレス技は沢山ある。例えば――」


 そう言って両足を揃えて体を横向きにし、ぶら下げてあったサンドバックにドロップキックをかます。


「こう言うドロップキックみたいな打撃技もあるし――」


 そしてラリアット、チョークスリーパー、他にも人体を摸した使い古されたサンドバッグなどでパワーボムやパイルドライバー、キャメルクラッチ、タワー○リッジなどを披露する。


「色々と知ってるんだな」


「ケイイチは物知りだからね」


 ウルフェンは何故だか感心している様子でナナは自慢気にそう言う。

 俺はキ○肉マンなどで知ったオタ知識がこんな形で役に立つとは思いもよらなかった。


「あと有名なのはパロスペシャルとか合体技のクロスボンバーとかだな」


「合体技?」


「プロレスってのは二対二のタッグ戦とかもあるんだ。プロレス技はそれ専用の技もあって、クロスボンバーは素人でも簡単に真似ができる技で危険なんだ。パロスペシャルとかも再現しやすいけどプロレス技だから本気でやると腕が折れる」


 ここでナナが驚いたように「そんな技あるの?」と質問したが、ウルフェンが「ちょっと再現してみてくれないか?」と頼まれた。



 サンドバッグと言うかマネキンにクロスボンバーを披露した。

 ウルフェン本人も驚いている様子だった。


「成る程、パワーローダーでやったら間違いなく相手は死ぬな。しかも簡単にできるときてる」


 とは本人の談。

 簡単に出来ることに驚愕しているのだろう。 

 キ●肉マンの必殺技は再現可能なのが多いので素行の悪い生徒が他の生徒を実験台にして試すのも納得と言う物だ。

 特にパロスペシャルなんかはその代表例だ。


「次はパロスペシャルだが――てかこのマネキン、フィギュアみたいに稼働するんだな――これをこうやってこうすれば――やり方さえ覚えれば誰でも出来る」


「そうか」


 パロスペシャル。

 脱出不可能と言われる技。

 キ●肉マンの人気超人ウォーズ●ンの必殺技と言えばこれ。


 相手の両腕を手首辺りから真下からテコの原理で真上に無理矢理折り込み、両足は相手の脇腹から入れ込み、太ももの内側から引っかけるように入れ込む。


 これが正式名称ウォーズ●ン式パロスペシャル。


 あまりにも簡単に再現できるので真似する人間や怪我人が続出したと思われる恐ろしい技である。


「決まれば殆ど脱出不可能だが、そこまで持って行くのが困難だな。それに俺達バトリングの選手は時として防衛に駆り出されるから投げ技か、打撃技が欲しいところだな」


「うーん。自分ボクシングにはあんまり詳しくないからな――他の格闘技もケ●イチとかで多少知っているぐらいだし」

 

「ケ●イチ?」


「そう言う物語があったんだよナナ」

 

 空手の山突きとか、ムエタイのカウ・ロイ、中国拳法の烏牛擺頭、柔道の朽木倒しなどの最強コンボとかも披露してこの機会に習得してみるかなどと思う。



 Side マヤ


「で? 朝からずっと一日中ずっと格闘技の特訓してたのか? まあ金出してくれるならありがたいんだけどよ」


「うん。ケイイチ色々知ってて楽しかったよ」

 

 ナナはなにやら見たこと無い腕の動きを見せていた。

 私も戦車の整備やら何やらで一日中空けてたし人の事は言えないが。


 大きなガレージの中ではサンドバックを叩く音などが聞こえる。

 そろそろ昼頃。

 少し様子を見に帰ってきたらこんな感じだった。

 

「ケイイチもウルフェンもなんだか楽しそう」


「まあ仕事でもあるし、遊んでいるワケじゃないから今はそっとしておくか」


 たまには男同士の方がいいと思うしな。

 ケイイチぐらいの年頃の男子は異性と言うのに敏感になると言うし。

 私はナナを連れて一緒に遊びに行こうかと思った。


『ここがウルフェンの家か。良い場所に住んでるじゃねーか』


 その時だった。

 ウルフェンの家に不審な影が複数近付いて来たのは。



 Side 加藤 佳一


 マヤとナナが急いでガレージに駆け込んできた。

 

「襲撃者だ!? なんでコロッセウムの内部でそんな事が起きるんだ!?」


 と、マヤが慌てた口調で語る。


「練習用だがパワーローダーで出るぞ。たぶんそいつら俺が目当てだ」


「どう言うことだ?」


 どうやらウルフェンは事情を知ってそうだった。


「バトリングで人気が出るとこうしてケンカ売ってくる連中がくるのさ。特に俺みたいな小僧が上位ランカーにいることが気にくわないんだとさ」


「グレイさんは?」


「バトリングの選手がそこらの素人に負けたり、逃げたりしたら色々と試合に響く。それを知ってて仕掛けてくんのさ、あいつらは」


「グレイさんも大変そうだな」


「のんびり会話している場合か!?」


 マヤの言う通りだな。


 そしてガレージの扉が強引に破壊された。

 俺も素早く手短なパワーローダーを装着する。

 トレーナーと呼ばれるコロッセウムが独自開発したらしいオレンジ色の練習用パワーローダーだそうだ。

 

 バイクのヘルメットに動きやすいようにパワーローダーのアーマーを工夫して配置。そして両手、両足にグローブやシューズのように緩衝材代わりの手甲、シューズが付けられている。

 首回りも工夫して配置されていた。


『気をつけろ。練習用だから機体出力は落とされている。叩きのめす事だけを考えろ』


『分かった』


 ウルフェンにそう言われて敵と対峙する。

 機体選択をミスったかと思いつつ様々な形状の十体近くのパワーローダーがガレージの中に上がり込んでいた。

 

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