隣の席の四月一日くんはどうやら異世界で勇者パーティーにいたらしい

@watari_kano

4月7日(木)10:00

 高校の始業式。クラス替えで仲の良い友達と見事に離ればなれになった私は、一人寂しく3年5組の教室へと向かっていた。やっとクラスに馴染んだと思ったら、また新しく人間関係を築かなければならないとか。はあ。すごく憂鬱だ。


 教室に着いてみると、名字のあいうえお順に席は定められている。私の席は一番後ろ、廊下側から二列目。なかなか良い場所だ。左側の席にはすでに、可愛らしい女の子が座っている。やった。同性なら話しやすそう。でもいきなり話しかける勇気はない。くっ……コミュ障が憎い……。


 そんなことを考えていると、やがて反対側の席にも誰かが着席した。こっちは男子だ。見た感じかなりがたいがよく、服の上からでもしっかり鍛えられた体であることがよくわかる。屈強そうな男だ。背筋を伸ばし、キリッとした表情で正面を見つめている。どこを見ているんだ。真面目な人なのか、それとももしかして怖い人だろうか。


 いや、見た目で判断してはいけないよね。話したこともない相手なのに勝手に決めつけるとか、よくない。うん。でも、後ろの扉から入ってくる生徒たちも、心なしか彼のことは避けて歩いているように見える。やっぱり皆、このただならぬ雰囲気は感じているのか。本当になんなんだこの人。




 チャイムと同時に新しい担任の先生がやってきて、ざわざわしていた教室が静まりかえる。そして、先生の軽い挨拶のあと、新年度恒例の自己紹介タイムとなった。正直、この自己紹介によって覚えられる名前はほとんどない。だって、一気にクラスメイト全員の名前を言われたって、ねえ。面白いことを言う人なら印象に残らなくもないけれど、そんな人は稀である。私も自分の名前と部活、趣味だけ述べて終わりという、なんの面白みもないテンプレ自己紹介で終わった。


 さて、いよいよ最後は隣の席の彼か。一体どんなことを言うんだろう。まあ、普通に無難な自己紹介か……ん? なんだか教室の空気が変わった? 全員が彼から目線を逸らしつつも、意識だけはしっかりそちらに傾けているような。なに。どういう心情なの。普通なら皆飽きて注意力散漫になっている頃だろうに、なんでそんな集中してるの。というか、皆この人のこと知ってる感じ? え、まさか、知らないの私だけ?




「出席番号36番。四月一日です。所属は家庭部。趣味は筋トレ。前にいた世界では、魔王討伐のために勇者たちと旅をしていました。できればこちらの世界でも悪を滅ぼしたいと思っています。よろしくお願いします」






 ………隣の席の四月一日くんはどうやら異世界で勇者パーティーにいたらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る