スクランブル・ルーモア

エリー.ファー

スクランブル・ルーモア

 死体から生まれる物語には蠅がたからない。

 凍えてから消えていくくらいの心持が一番良いとされている宗教。

 灰になっていく猫を眺めていたい。

 会わせてくれ。

 どうにかしてくれ。

 私の心の声ではない。

 あなたたちの声ではないか。


 本当から始まる物語などはない。

 すべて、病原菌のようなものだ。

 感染していては、真実にたどり着ける日は来ない。

 処理をしてくれ。できるだけ、早く。

 燃え尽きてくれ。

 事実からほど遠くなる子どもたちよ。


 黄色く塗っておくれ。

 星のように。風のように。短い嘘のように。

 くぐもった声を聴かせておくれ。

 混然一体となった文化そのもののように。

 サックスを見せてくれ。丁寧に手入れをするべきだ。買ってもらったのならなおのこと。

 妹がいない。

 姉は最初からいなかった。


 死神よ。死神よ。

 どこへ行くというのだ。

 私はここにいる。

 未来の首を取りに行くというのか。

 天使よ。天使よ。

 死神と何が違うのだ。

 何を変えてくれるのだ。

 同性愛とはなんだ。

 異性愛とはなんだ。

 女性の権利を守らなければならない。

 自分らしく生きていく。

 それがモットーか。

 神よ。

 自分らしく生きていく。それは女性のモットーではない。あなたのモットーだ。

 自分らしく生きていく。それは私のモットーではない。誰かのモットーではない。あなたのモットーだ。

 自分らしく生きられることは幸せだ。

 それは宗教だ。

 神はいない。

 戒律もいらない。

 経典など知らない。

 自分らしさを持っていない者たちは不幸になるしかない。

 自分らしさを探す。世界で一番不毛な旅。

 個性を探す。


「悟るしかないんだ」

「自分を知るしかないのだ」

「ここには神がいる」

「嘘ではない」

「悟りたい」

「悟らせてくれ」

「この箱から出たいのだ。テディベアを抱きしめながら、物作りをしたいのだ」

「大丈夫になりたい」

「悟れば大丈夫になれますか」

「楽しくて嬉しい」

「聞かせて欲しいんだ」

「誰の話を聞きたいのかな」

「僕の話」

「もちろんさ」


 君は孤独だった。

 多くの人と違う性格で、違う個性で、違う趣味嗜好をしていた。

 王道を歩いていたとは言い難い。

 君だって気が付いていたはずだ。

 何度も王道を目指したはずだ。

 どこかで諦めたはずだ。

 そこからだろう。

 君の人生が始まったのはね。

 君は、自分のことを大事にするのが下手だったね。

 難なく歩けたのに、まっすぐに歩くことは下手だった。

 寄り道ばかりだったね。

 でも、君にとってはすべて大事で。

 そして。

 君にとっての王道だったんだね。

 最短の道を通ると、多くを学べないと言うけど、あれは嘘だね。

 君は特にそうだけど。

 人間という生き物は最短の道しか通れない。

 必要なものしか学べない。

 運命でも、宿命でも、予定でもない。

 そういうもの。

 ありふれた。

 強固で。

 確かな。

 何か。

 それらは君の敵ではない。

 君がどう付き合うか。

 それがすべてさ。

 質問はあるかい。

 うん、あったとしても。そう、その通り。

 その問題は君だけのもので、君以外のものではない。

 問題と回答は君のものだ。でも、それだけじゃない。

 問題だと認識した思考、回答を導き出すまでの過程、そして、自分の回答をだれだけ信じられるか。

 すべてだよ。

 君がこれから生きていっても、死んだとしても。

 誰も君を否定しないし、攻めたりしない。

 でも、またここに物語は生まれる。

 君にはその物語から何かを得る権利がある。

 指示ではない。

 命令ではない。

 義務ではない。

 

 命は大切だが、君が大切な存在である一番の理由は命が宿っているからではない。


「あとは、分かるね?」

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