あ、その人は私ですが。
海里
第1話 プロローグ はじまり。
ピーチチチチチ...
どこからか鳥の鳴き声が聞こえる。
目を覚ますとそこには無数の本が散らばっていた。
そうか...
私、いつの間にか寝ちゃったんだ...。
むくりと起き上がり窓から空を見上げる。
あぁ、こんなにも輝いているのに。
ズキッと痛む左手。
それは昨日のことが嘘ではない、と私に知らせる。
外に出る。
そよそよと気持ちいい風が吹く。
私の家はリアフォレストと呼ばれる森の中心にある。
大きく聳え立つ巨木の中に建てられているのだ。
私以外にこの森に住む人間はいない。
否、住める人間がいないのだ。
カロロロロ
後ろから鳴き声がする。
ホースペラと呼ばれる魔獣だ。
体が大ぶりで、たてがみのある長い首をもち、
四足歩行の速く走ることができる動物。
体長は4mほどであろうか。
自分の頭を私の頬にこすり、悲しそうな目でこちらを見る。
「ごめんね、心配かけて」
優しく撫でると満足したようにそこに座り込む。
はぁ...
まさか、あんなことになるなんて。
昨日のことだ。
暇をしていた私が未来を予知していると、そこに驚くべき事実が見えたのだ。
時は1000年後。
L級魔獣 グラル によって
世界は
と。
つまり、私が死んだ後、
この森もこの子達もみんな、死んでしまうということだ。
それも、魔獣の手によって。
L級の魔獣といえば、
魔獣の中でもトップランクであり、
世界にはたった7種しか存在しない。
その中でも貪欲で傲慢だと言われているのがグラル。
実は私、グラルを生で見たことがない。
なぜ、世界が終焉を迎えるまでに怒りを覚えたのか。
それはまだわからない。
そもそもホースペラやグラルを筆頭に魔獣と呼ばれる生き物はとてつもなく寿命が長い。
私のような人間の寿命はたかがしれているが
魔獣は違う。
1000年先でも、1万年先でも余裕で生きていけるだろう。
それなのに...
私の可愛い仲間たちを見殺しになんてできない。
私はまた家に戻り資料を探す。
どこかに、どこかに記してあったの!
あの、禁断の書に!!
あった......
これだ。
禁書 20034672 "ゼロス"
よりによって、ゼロスか...。
実は禁書ごとにタイトルが記されている。
その中でもゼロスと呼ばれるものは
膨大な魔力を要するものがほとんどだ。
つまり、未来渡航に成功しても
未来についた時点で魔力が空になっている可能性が高い。
でも幸いなことに、私は人より少し魔力が多い。
......待って。もしかしてあれが使えるんじゃ?
引き出しをガッと開ける。
どこだ、どこだ??!
あれがあれば、もしかしたら...!
あった!
それはネックレス型の魔力保存器具。
私が14歳の頃、魔力が体内に溜まりすぎて暴走しかけた時に一時的に私の魔力を保存したものだ。
結局保存したまま使うことがなかったため放置していた。
これで未来渡航したあとでも魔力は戻る...!
そうと決まれば早速始める。
待っててね、
私が必ず助けるからね。
みんな、また1000年後に。
呼吸を整え、発動する。
「
その日、
この世から一人の女性が消えた。
それは世界を震撼させる出来事だったことに
本人はまだ、気付いていなかった。
あ、その人は私ですが。 海里 @ichi-nosese
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