ガネーシャ

インド神話に出てくる神は、基本的に人型であるが、中には動物神というジャンル? が存在する。と言っても有名なのは2柱。一柱は「猿面の神」であるハヌマーン。もう一柱が今回の主役であるガネーシャである。

象の頭をもつこの神様は見た目のパンチが非常に強く、印象深い。象頭の神というのもインドらしいというか、筆者は他に知らない。頭は間違いなくインド象のはず。アフリカ象だったらそれはそれでビックリなのだが……。


ガネーシャは「夢をかなえるゾウ」という小説の主人公……主人公? まぁ、そのまま「ガネーシャ」という神様として登場したので、これで知っている人も多いだろう。

インドでは現世利益をもたらす神とされ、富の神、商売の神、学問の神として非常に人気があるという。


とにかく見た目のインパクトが凄い。象の頭に人間の身体。象には牙が生えているが、片方が折れている。身体はメタボ体系でふっくら。で、腕が四本ある。

インド神話の神々は、ビジュアルの描写が曖昧な事が多く、宗派によっても年代によっても表現が微妙に異なる事が多い。その中でもガネーシャは見た目の描写が細かく、比較的安定していると言える。「牙が片方折れている」とか、指定が細かい。「左右どちらの」という指定がないあたり、インドっぽいと思う。

(確認した限りでは9割右が折れているようだ。なお、みんな大好き「女神転生」シリーズでも基本右折れだが、中には「両方ある」タイプのビジュアルも存在した)


片方の牙が折れている理由には複数の神話があるが、その中でも有名なのは以下の通り。

・ガネーシャ自ら右の牙を折り、牙を筆(ペン?)がわりにした。

・ヴィシュヌの化身に攻撃され(なんで?)それを回避しては不敬であたるので(なんで?)、敢えて一本の牙で受け止めたために折れた。

・籠で運ばれているときに振り落とされて頭から落ちて折れてしまった。

・夜道で転倒した際にお腹の中の菓子が飛び出て転げたのを月に嘲笑されたために、自らの牙を一本折ってそれを月に投げつけた。(全体的に?)

……この時代の神話というものは、多くは口伝であり(識字率は低く、筆記用具も少ない。下手をすると文字すらなかった時代)それが後世になって「文字」にされたのだろうし「何故ガネーシャの牙は片方折れているのか」と尋ねられた各地の偉い人が裏取りする暇がなかったので咄嗟に創作したのではなかろうか……と考えると微笑ましい。

4つ目のエピソードに至ってはしっちゃかめっちゃかであるのが、困った語り手が煙にまこうとしたのではないか……と言うのは、想像しすぎであろうか。

ちなみに2つ目の話。「ヴィシュヌの化身」とは「パラシュラーマ」という名前で、シヴァから与えられた斧で攻撃したそうな。設定細かい。後ツッコミどころ多い。


体型(太っている)の指定も(インド神話の中では)珍しい。今の所ガネーシャぐらいにしかないと思う。

なお、腕の数が多いのはインド神話では「あるある」である。むしろ4本は少ない方だろう。「腕多い方がつおい・えらい」的な厨二ムーヴを感じられるので、筆者は好きである。


最大のチャームポイントである「象の頭」を持つ理由には複数の神話があるが、もっとも有名なものは以下のものである。


パールヴァティーが身体を洗って、その身体の垢を集めて人形を作り命を吹き込んだ。これがガネーシャ。

パールヴァティーは風呂に入るので、見張りをするようにガネーシャに命じる。「ジャランダーラ」でも書いたが、どうもインドの神様というのは貞操観念が強いようだ。夫婦は二身一体みたいな関係にあり、嫁が汚されると夫は力が削がれるらしいので、見張りは重要なのだと思う。

なお「夫が汚されると嫁が弱くなる」的な描写はたぶん無い。典型的な男尊女卑である。まぁ、大概の神話は男性優位なので珍しくも何とも無いのだが、「嫁が汚されると〜」設定はインド神話で初めて目にした概念なので……これは「婚姻」という「契約」を重んじていたという事なのかもしれない。ちなみに、日本神話など「女神が主神」な神話は、実はまぁまぁある。なんとなく農耕民族系に多い気がする。


閑話休題。

で、ガネーシャが見張りしている所にシヴァ(パールヴァティーのダンナ)が帰ってくる。

入室を拒んだガネーシャにシヴァは激おこ、首を切り落として遠くへ投げ捨てる。

今度はそれを知ったパールヴァティーが激おこ。

さっきのやつは自分の子供だと知ったシヴァは、投げ捨てたガネーシャの頭を探しに西に向かって旅に出かけるが、見つけることができなかった。そこで旅の最初に出会った象の首を切り落として持ち帰り、ガネーシャの頭として取り付け復活させた、というオチだ。


この話はコミカルで実にアホらしい(褒め言葉)。ツッコミどころ満載である。

「垢」で人形を作って命を吹き込んだ、これはまぁ良い。神話あるあるとも言えよう。それを自分の子供としたのも、まぁ良い。が、それを「シヴァの子供」だってなるのは飛躍しているように思う。100歩譲って「養子」ではなかろうか。

「ジャランダーラ」の話の中から見るに、インドの神様には「養子」の概念がある。

ジャランダーラはシヴァの分身であり(シヴァの第三の目から生まれた)、子供であるように、分身のことを「子供」と表現するのもアリだろう。

けれど、ガネーシャはパールヴァティーの垢なんですぜ? 老廃物ですぜ?

ジャランダーラは「自らの一部」から「生まれた」存在で、

ガネーシャは「垢の塊」に「命を吹き込まれた」存在。

これを同列に扱うのって……どうなんでしょう?

シヴァとパールヴァティーはほぼ同一の存在と見做せば両者に差は無いが…せめて切った髪とかならまだしも……垢かぁ。

性行為の比喩表現かもしれませんが、それにしてはシヴァは身に覚えなさ過ぎる。

首切り落とすのもなんだし(インドの神々はみんな沸点低い)、象の頭をくっつけるのも、描写はないけどそれで納得したパールヴァティーも凄い。

ってか、垢を足せば良かったのではなかろうか……。


他の説では以下のものがある。

パールヴァティーとシヴァが夫婦でヴィシュヌに祈りを捧げてガネーシャを得た。

他の神々がそれを祝いに来たが、その内の一人・シャニは見た物を破壊する呪いをかけられていた為、常に下を向いて見ないようにしていた。

しかしパールヴァティーは彼に遠慮せずに息子を見るよう勧め、その結果ガネーシャの頭は破壊された。

ヴィシュヌは悲しむパールヴァティーの為に川で寝ている象を見つけてその首をガネーシャの頭として取り付けた。


……なんというか、先の話に増してツッコミどころが満載である。細かい事は省くので、各々でツッコんでいただきたい。


この2つの説からわかる事は「ガネーシャは元々は普通の頭(人間の頭)を持って」いて「象の頭は後づけ」であるという事だ。

なんというか、正直かなりアレな生い立ちで、捻くれてダークサイドに落ちてもおかしくないのに富の神、商売の神、学問の神とは……。

「不幸な生い立ちでも立派な人(神)」、だからガネーシャは人気があるのかもしれない。

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