第11話突然の別れは必然

 孝文の言葉を聞いても私はいたって冷静だった。遅かれ早かれそうなるだろうと思っていたからだ。


「そう……わかったわ」

 さすがに気のきいた言葉は言えなかった。


 その後も夫はポツリポツリと話を続けた。

 どうやらというかやはりというか彼も外に女性がいたようだ。

 驚いたのはその女性は二十代後半でしかも妊娠してしまっているということだった。

 なんなんだろう、この人は。

 百歩譲って浮気はいいだろう、それはお互い様だから。

 彼をすでに夫としてみていなかったが家族だとは思っていた。

 しかし、今、家族であることも崩れようとしている。

 ああ、この人はまた避妊しなかったのね。

 十何年ぶりに同じことを繰り返している。

 仕方のない人ね。


「それ食べてしまってよね。せっかく作ったんだから」

 私は言い、キッチンを後にした。


 ボストンバックに着替えやメイク道具をつめながら、私は黒崎さんにLINEを送る。


 友希子

「今から会えますか?」


 すぐに既読がつく。


 黒崎豊一

「いいですよ」


 私たちは夜中まで開いているファミレスで待ち合わせた。

 私はそこにタクシーで向かう。

 すでにファミレスには黒崎さんがいた。その横には玉子かけごはんさんこと珠美さんが座っていた。


「やあ、こんばんは、雪さん」

 と言った。


 今晩の彼女はノーメイクで眠たそうな顔をしていた。

 どうやれ仕事終わりだとのことだ。彼女の職業は看護師であった。

 ちなみに黒崎さんは病院の清掃の仕事をしている。


「晩御飯まだなんで何か食べていい」

 と珠美さんはきく。


「ええ、私も実はまだなんですよ」

 と答えた。


 私は和風パスタを珠美さんは目玉焼きハンバーグ定食、黒崎さんはすでに食べてきたということでコーヒーを頼んだ。


 料理はすぐに運ばれてきた。

 さすが全国チェーンのファミレス。

 仕事がはやいわね。


「それでどうしたのさ?」

 と珠美さんはきく。


 ハンバーグを口にいれ、やっぱりハンバーグは最強だわと一人ごと。

 私はお冷やを一口飲み、夫から別れを告げられたことを言った。それに伴い、私が結婚していて高校生になる娘もいることをうちあけた。


 黒崎さんは私の言葉をじっと聞きながら、時々コーヒーをすする。

 私もお腹が空いていたので話をしながらパスタを食べた。

 ダメね、あんまり味がしないわ。


「そうですか、それは大変でしたね」

 と黒崎さんは言う。


「なにお兄ちゃん落ち着いているのよ。この人、嘘ついてたのよ。やっぱり私の言った通りじゃない」

 珠美さんはそう言い、いきおいよくライスをかきこむ。やっぱり、彼女にはばれていたか。


「嘘をついていてごめんなさい」

 私は正直に彼に謝った。

 もう彼に嘘をつくのはやめよう。


「謝られてもねえ」

 珠美さんは言う。


「それでお兄ちゃん友希子さんとどうするのさ」

 と付け加える。


 黒崎さんは顎をなで、考える。

「よかったら家に来ませんか」

 と言った。


「ああーやっぱりね。お兄ちゃん友希子さんにぞっこんだからね。ずっとのろけ話聞かされていたみになってよ。まあいいわ、家は古いけどひろいからあんた一人ぐらいきても大丈夫だから」

 珠美さんはそう言い、ハンバーグを平らげる。

 最後に残ったライスに目玉焼きを乗せ、食べきってしまった。


「まあ、ある意味よかったじゃない。非モテのオタクのお兄ちゃんがこんな美人とくっつけるのならね、こういうのもアリだわ」

 コーラを追加注文して、珠美さんは言った。

 実の兄に対してなかなか辛辣な妹だったがその口調はどこか思いやりがあった。


 どうやら私はこの兄妹に認められたようだ。


 私は珠美さんの運転する軽自動車で彼らの住む家に向かった。

 その家は築四十年で確かに古いけどよく手入れされていた。

 あら、私と同い年じゃない。

 

 私は転がりこむようにこの二人の家にやっかいになることになった。

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