140文字の青い鳥は囁く

白鷺雨月

第1話アカウントを作ってみた

 娘の智花にお弁当を持たせて見送った後、私はつかの間の休暇がとれる。

インスタントコーヒーをいれて、テレビの情報番組を垂れ流す。

 テレビの中の人は自分にまったく関係もなく、専門家でもないのに神妙な顔つきでなにかしゃべっていた。

 夫婦共に芸能人の旦那の方が二十歳も年下の女優と不倫し、たくさん出ていたCMのすべてを下ろされたらしい。

 テレビの中の人はそろいもそろって旦那の方を非難している。

 これが一般人だと話題にもならないのだろうなと私は思った。

 だとしたら有名人も大変だなと思う。

 私はただの主婦でよかったわ。


 ぬるくなったコーヒーをすすりながら、トーストをかじる。ダイエットかなにか知らないけど、智花は朝ごはんのほとんどを残している。

 今日もヨーグルトだけたべて高校に行った。私の朝ごはんはいつも彼女の残り物。

 だってもったいないじゃない。


 私はもそもそと朝ごはんを食べながらスマートフォンをいじる。

 前のがバッテリーのもちが悪くなったので買い替えたの。


 スマートフォンには初期設定のアプリがいろいろ入っている。

 そのうちの一つ、青地に白い鳥のアプリが目に入る。

 あっ、たしかTwitterだっけ。

 そう言えばやったことないな。

 短い文章を書き込めるサービズだったかな。


 私は暇つぶしの気分でアカウントを登録した。

 私の本名は仲野友希子。

 友希子からゆきをとり、それを別の漢字に変換して雪という名前にした。

趣味は料理と散歩。

 四十代独身の読書と映画が好きとプロフィールに書いた。

 独身の部分は嘘。

 何でこんな嘘を書いたんだろう。

 本当は夫も娘もいるのに。

 きっと違う自分になりたかったのかもしれない。


 アカウントをつくり、適当に好きな俳優やお笑い芸人、モデルさんなんかをフォローした。

 そうするとタイムラインにいろんな人の呟きで埋め尽くされる。

 みんないろんなことを考えてるんだな。

 ざっと見ているだけでもけっこう楽しい。


 ためしに私もなにか書いてみよう。


 雪です。

Twitter始めてみました。バニラ風味のインスタントコーヒーは砂糖いれずに飲めるのでおすすめです。


 マグカップに入れたコーヒーの写真と一緒にアップしてみた。

 反応なんて期待してないけど、アップするだけでもけっこう楽しい。

 これはいい暇つぶしを見つけたかもね。

 しかも無料なのがいいわ。


 その後、洗濯と掃除をすませた私は買い物をしに自転車に乗り、スーパーにでかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る