第35話 また来ます
夢心地の俺はテリーと共に王城に来ていた。
昨日宣言された爵位授与式を行い、クラウとエリーゼ王女を婚約者として正式に発表。
晴れて子爵となったジャンダーク家は王家との繋がりを勝ち取り、更には神の使徒と言われるクラウの存在を知らしめる事となった。
それは気軽には手を出せない様になると共に新たな敵を生み出す事となるのだが、これからクラウがやりたい事を思う存分行うためには最良の結果となっただろう。
何よりこの世界で初めて見たエルフの少女、父親は王の為ハーフエルフなのだがエルフの血を濃く受け継いだエリーゼ王女に一目惚れをしてしまったクラウは、この世界に来て良かったと改めて思っていた。
「お前も男なのだな」
エリーゼを前にした5歳児であるクラウの様子がおかしい事、相当な価値のある幸運のブローチを貰った事を聞いていたスレイヴ王は面白いとばかりにからかってくる。
「これだけお綺麗ですから」
少し照れ臭そうに答えるクラウとそれを聞き頬を染めるエリーゼ。
「互いに好感を持つ関係ならわしも満足だ。我が娘が幸せならこの話を持ち出して正解だったな」
ガハハと笑うスレイヴ王は、父親の顔になっていた。
「次に会う時を楽しみにしていますわ」
エリーゼは気丈に応えるが、少し寂しそうだ。
俺もこの両想いながら恋人とはまた違う関係性に少し慣れず、心が落ち着かない。
「しっかり誇れる人間になっておきます」
だから忘れないでくれ、そんな気持ちを抱きながら答えるしかなかった。
意外と俺は執着するタイプだったのかもしれない。
5歳と7歳。
この世界だから成立する会話を、先輩である大人二人は満足そうに見つめていた。
騒々しく過ぎて行った日々も終わりを迎え、俺達は領地に帰る。
そういえば王都の見学も出来ていなかったなと思ったが、テリーとしては爵位が上がったため少しでも早く戻って仕事をしたいようだった。
いつでも帰ってこれる、時間は沢山あるから大丈夫と伝え、翌日に出発する事にした。
「お世話になりました」
翌日の朝、見送りに来てくれていたジュドーとメイド達に声を掛ける。
「テリエーヌ子爵にはなるべく早く面会に行くと伝えておいてくれ」
テリーもこれから忙しくなるだろうが、自分の身内の挨拶は早めにしておきたいのだろう。
ジュドーに伝言を頼んでいた。
「畏まりました、帰路お気をつけて」
ジュドーは最後までしっかりとした執事として送り出してくれた。
しっかりと訓練された姿はいつ見ても飽きない。
リック、ボブ、マークの護衛と共に王都を後にする。
馬車の風景は、心の余裕が出来たためか少し違って見えた。
数日経ってイシェ村に着いたのだが、前とは違う賑わいを見せていたのには驚いた。
「悩みの種であった疫病が再発することなく、生きる事さえ諦めていた皆が救われました! それどころかいつもの何倍も生育が良く、豊作になってしまいました!」
村長とイオが出迎えてくれたのだが、村の雰囲気が違う事を聞いてみると満面の笑みで答えてくれた。
元々疫病対策としてポーションを使用していたが、生育に抜群に効くのも知っていた。
驚かなかったが、人々の面構えを見て本当に良かったと安堵する。
「クラウ様、私も家族と共に後に向かいます。村の、家族の救世主であるクラウ様に使えられる事に感謝致します!」
イオは丁寧な言葉で話してはいるが、気持ちが高ぶっているのが分かるぐらいに張り切っている。
「力になれてよかったよ、これからジャンダーク領の為によろしくね」
俺はイオに声を掛け、その後畑や村の人々に挨拶して回った。
皆一様に感謝の気持ちを伝えてくれているが、豊作になった分領も潤う。
しっかり指示を聞いて守ってくれたことに礼を言うと、村人の好感度が振り切った。
その日の夜は宴会になり、潤った村の全力を味わったのだ。
食べても食べても無くならない食事、代わる代わる訪れる人。
貴族に対する態度としては可笑しいのかもしれないが、俺はこの関係性が好きだ。
でももう少しゆっくり食べさせて欲しい。
翌日も泊まっていけと村人達からせがまれるが、イオがしっかりと説得してくれて事なきを得た。
既にリーダーシップを発揮してくれる姿に将来が楽しみになる。
俺達が出発した後にイオ達も遅れてついてくる手はずになっている。
先に家に手紙を出したためイオの家族が住む家は用意されているので滞りなく移住は出来るだろう。
今後の領の発展の為に俺も頑張らないといけないな。
俺自身も成長しなければ。
そう思いながら家までの残りの道を進んでいった。
「帰ってきたぞー!」
俺達がジャンダーク領の街へ着いた時、歓声が起こった。
何事かと思えば領民達が出迎えてくれていたのだ。
日頃から民想いのテリーは、ここまで好かれているのだなと嬉しくなった。
手を振り答えるテリーに喜ぶ領民達を眺めながら家に着くと、人影が。
家族が出迎えてくれたのだろう。
「ただいま!」
俺がそう答えると、腕を組んだミラが仁王立ちしていた。
「……どうしたの?」
「いつかは見つけてくると思ったわ、だからってもう見つけてこなくてもいいじゃない!」
「まってミラ姉ちゃん! 何があったの?」
「ははは、クラウはエリーゼ王女に見惚れていたぞ、可愛いものだ」
テリーが横やりを入れた事でミラが何に怒っているのか気が付いた俺は、好きな人が出来たと家族にバレた恥ずかしさと恐ろしさでせめぎ合う。
「まあまあ、ミラ。妬いちゃって」
母のマリアがミラにそういうと、こちらに進んできてポカポカと叩いてくる。
「初めてエリーゼ王女を見た時のクラウはそれはそれは照れていてな、上手く喋れないと思ったらいきなり口説き始めたり、帰った後はぼーっとしたり」
「父さん!」
火に油を注ぐテリーは明らかに楽しんでる。
「……母様。父上が美しい女性と婚約出来て羨ましいと散々嘆いておりましたよ」
「おい、なにいって」
テリーがそう反論しきる前に固まった。
場の空気が凍っている。
「へえ。そうだったのね?」
笑顔のマリアがテリーを見つめるが、微動だに出来ないテリー。
そのまま家に入ったのだが、次の日まで二人が姿を現す事は無かった。
その日俺とミラは、マリアを怒らせてはいけない事を学んだ。
第一章 完
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