第8話
気持ちの問題だろうか?
この前ほど苦労することもなく山を登る事ができた僕は難なくあの廃校前に立っていた。
あの時は妙な威圧感のあった校舎だけど、今は枯れ木のように脆い儚さを感じる建物にしか感じられない。
今回は以前帰る時に使った階段で登ったので苦労なく例の部屋に辿り着く事ができた。
学校が終わるとすぐにこちらに向かったのでまだ栗見さんはたどりついてないかとも思ったが、部屋の扉を開けるとソファーに寝っ転がる彼女の姿が見えた。
僕の存在に気づき栗見さんは「んー」と背伸びをしながら起き上がる。
「おや、早かったね」
「栗見さんこそ。僕、学校が終わってすぐ来たのに」
「ああ、私は君と別れた後そのままここに来たから」
少し眠っていたのだろうか?
彼女は軽く欠伸をしてみせた。
こんなところで無防備じゃないだろうか?
そんな心配をしてしまう。
「そんなところに立ってないでこっちに来て座ったら?今日は中々衝撃的な事があって疲れたんじゃない?」
まるで他人事のような物言い。
それに怒りを感じながら僕は栗見さんの前に腰を下ろした。
「その言い方気に入らないです。亡くなったのあなたの友達じゃないですか!」
つい声を荒げてしまった僕に栗見さんは少しだけ目を見張ったように見えた。
「へぇ~意外。君もそんなふうに感情を荒げるんだ。そんなに桐子の事気に入ってた?それとも何か別の理由でもあるのかな?」
心の内を覗こうとするように僕を覗き込む栗見さんの視線に背けてしまう。
そんな僕を見て栗見さんは笑う。
「君は意外とすぐ態度に出るな。まぁいいやですところで君はどう思う今日の事件」
「どうって、何がですか?」
「何か感じることはなかった?」
変な質問だった。
何かとはなんだろうか?
栗見さんは一体何が言いたい?
あの事件に何か疑問があるのだろうか?
「何かって、ただあまりにも唐突でわからないですよ」
この質問も含めて。
そう言おうかとも思ったけどそこはあえて黙ることにした。
別に質問の意図を考えて出した答えじゃなくて、只今の感想を述べただけだったのだけど、栗見さんは何故か満足そうに笑う。
「そう、余りにも唐突なんだよね。今回の件は。ちなみ桐子が飛び降りた屋上は鍵が開けられてたらしい」
確かあそこは生徒が出ないようにと常に施錠されてたはず。
「誰かが開けたってこと?」
「勝手には開かないでしょ。屋上は安全対策のためにフェンスが設置されてた。1メートルくらいの高さだったかな?意図的に上らない限り落ちることはない。つまり事故はありえない」
僕に言い聞かせるように説明をしてくれる栗見さんはやけに饒舌に見える。
でも事故じゃないとすると。
「自殺だったってことですか?」
僕のその言葉に栗見さんはニヤリと笑ってみせる。
「他殺って可能性もあるよね」
栗見さんが指摘したそれは確かに可能性としてはあるけれどできれば考えたくはない可能性だった。
「ちなみに私は自殺の可能性はほとんど考えていないよ」
そう言う栗見さんは妙に自信ありげだ。
「それは何故?」
「まぁいくつか思い当たる節があってね」
何か含みのある言い方だが、それはどのような意味でなんだろうか?
自殺なんてするはずがないという意味だろうか?
だとしたらそんなの分かったもんじゃない。
急に命を絶つ人だって世の中にはいる。
衝動的によく聞く言葉だ。
「桐子は殺されたんだと私は思ってるんだ」
「本当に?」
人の死を見た事はこれまでも何度もあった。
だけど殺人事件なんてものは初めてで動揺が隠せない。
「まぁ、私が思ってるだけだけど。とりあえずは調べてみようと思うんだ。それで、君はどうする?」
「どうするって、何が?」
「一緒に調べてみない?」
今から遊ばないかと言うような気軽さ。
その顔は本当に今からカフェに行くかのように晴れやかだ。
「そんなの警察に任せたらいいじゃないですか」
「まぁ、そうなんだけどね。気になることは自分で調べたいでしょう」
友達の死なら尚更か。
そこには納得できる。
だけど何故だろう?
何故栗見さんはこんなにも楽しそうに見えるのだろうか?
「失礼だけども僕には栗見さんが悲しんでいるようには見えない。友達が死んだのに、むしろ楽しげに見える。なんでですか?」
自分でもとんでもなく、ひどいことを言っているその自覚はある。
でも、栗見さんならそんなこと気にしないそんな気がした。
「あーやっぱり変に見える。こんな時悲しむ演技ができればいいんだけどそんなに器用じゃなくてさ」
僕の質問に答える栗見さんは少し恥ずかしげなそぶりを見せる。
うまく演技ができない自分に対して。
「君が感じたように確かに悲しみはないよ。驚きはしたけど、人が死ぬなんて当たり前でしょ。それに楽しんでもいるかな。謎解き面白いじゃん。君はそう思わない?」
「自分に関係ない事だったら少しはそう思えたかもしれないですね」
「ふぅん」
僕の答えをどう捉えたのか栗見さんは少しの沈黙の後、また意地悪く笑う。
「なら、楽しめない千草くんは調査には不参加かな?」
なんだか試されているかのような言い方だ。
「一つ聞いていいですか?」
「なに?」
「どうして僕を誘うんですか?」
その問いに栗見さんは吹き出して笑う。
「だって君、桐子の死に興味抱いてるから。じゃなきゃこんなとこにわざわざ私に会いに来ないでしょ」
何を今更、まるでそう言いたげだった。
そしてそれは図星でもある。
ならもう素直になってもいいだろう。
「わかりました手伝いますよ」
僕の承諾に栗見さんは邪悪に嗤った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます