第3話 電車と小鳥遊さん

コンビニを出て、楓と2人で駅へ向かう。

つぶちょこ早く食べたいなぁ。


「途中まで駅一緒だよね?一緒に帰ろ!」


えーっと。


「一緒、かなぁ?」


「あれ?北万駅で乗り換えるよね?」


そう、私の家は職場からなら北万駅で乗り換えるのが一番早い。

しかし、見つけてしまったのだ。時間はかかるが最も安く家まで帰るルートを。


「ごめん私、北万駅は通らなくて、このルートで帰るの。」


スマホでルートを検索した画面を楓に見せた。


「え、なにこれ遠すぎ!普通に帰るより40分くらいかかるじゃない。」


「そうなんだけど..」


確かに時間はかかる。かかるけど、安い。

なんと80円も安いのだ。40分で80円浮くなんて、乗らない手はない。


「は~あんたもよくやるわ。香奈はいい嫁になるよほんと。私ずっと満員電車は耐えきれないから先帰るわ。」


「ごめんね。お疲れ様。」


駅で楓とわかれ、ホームへ向かう。

さて、満員電車との戦いだ。


乗り換えは全部で3回。北万駅で乗り換えれば1回だけど。

いかに降りるとき扉側にいられるかがカギになる。


電車に乗ると、すぐに最近知ったアンケートアプリを起動した。

アンケートに答えるだけでポイントが貯まり、そのポイントでお買い物ができる。なんと画期的なアプリなのか。


今日はいつもに増して満員だ。コンビニで時間をつぶしたからなのかな。


ぎゅうぎゅうすぎて立っているのか浮いているのかわからない。身長が160センチもないから、サラリーマンに埋もれると視界が真っ暗だ。


真っ暗な視界で必死にアンケートに答え続ける。答えながら開く扉側へ移動する。

我ながらマルチタスクだなぁ。


ようやくアンケートに答え終わり、1円を稼いだ時だった。

電車が、止まった。


運転見合わせを知らせるアナウンス。電車を降りる乗客。どうやって帰ろうかしら。

幸い大きな駅で止まった。線を変えれば何とか帰れるだろう。


スマホの電源を入れ、帰るルートを再び探す。


北万駅で乗り換えるよりも80円高い!ってことは、安いルートで帰るより160円も高くなるってこと!?

..高!無しかな..


でも、タクシーは絶対使いたくないし。

バスは出てないよなぁ。大人しく高い電車で帰るしかないか。アンケートで1円稼いだけど、それでも159円の損。こんなことになるんだったら、楓と一緒に帰ればよかったな。


ふと目に入った、自宅まで徒歩1時間50分というスマホの文字。


..どうしよう。

明日も朝から仕事。159円のために2時間歩くのはさすがにバカかしら。もう疲れてお腹もペコペコだし。


熟考に熟考を重ねる。159円という文字が頭をグルグル回る。


「よし!」


バックからつぶちょこを取り出し、家に向け歩き始めた。

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