3 俺と契約して魔法少女にならねえか?
彼女の名前は
俺がアカリと出会ったのは冷てえ冬の風が吹き荒ぶ砂浜だった。浜焼けしてるのか、妙に赤い髪の毛が西日に照らされきらきらと煌いててよ。白く透き通るような肌は耳が痛むほどの北風に吹かれているせいかバラ色に染まっててな……。
まさかユリカゴでこんな上玉と出会うなんて思わなかったよ。思わずプロポーズしかけちまったもんね。
……まあ、したところで猫の身体じゃなんも出来ねえからな……なんとか思いとどまったんだけどよ。
ぺリチュアってヤツは14歳前後の少女を主人公として描かれたアニメ作品だろ?
当然、世の中の女子中学生たちもペリチュアに憧れ、君もペリチュアにしてやろうと一声かければホイホイと乗ってくるはず。俺はそう考えて浜辺で黄昏れるアカリに声をかけたのよ。
……もっとも、声をかける前にこっそりと使徒契約を一方的に結んでいたんだけどな。だって他に見ないほどの上玉だぞ? 体が勝手に契約しちまってもおかしくねえだろうが。
(事後承諾になるがまあいいだろ。ペリチュアのお誘いを断る奴なんていねーだろうし)
そうやって自分を正当化した俺はよ、ふわりと。なんともそれらしく朱莉の前に降り立ってやった。するとどうだ、向こうから話しかけてくるじゃねえか。
「おっ、猫さんじゃないか。どうしたんだ? おなかがすいたのかー?」
(美少女という生き物は声まで可愛らしいのだな)
感動したね。幼さを残した可愛らしい声で優しくそんな事を言うんだぞ? 感動しすぎて思わず膝に乗りかけちまったよ。まあ、すぐに我に返って勧誘したがね。
「お嬢さん。俺と共に人生を……じゃなかった、俺と契約して魔法少女にならねえか?」
少し間違えたが決まった。俺は手ごたえを感じた。真摯なまなざしでじっと相手を見つめて少し真面目にイケボで囁いてやりゃあ女子はコロリと落ちる。まして、女子中学生達の憧れの魔法少女にしてやるってんだ。これは勝ち確だね、と。
俺は勝利を疑ってはいなかった。けどよ、返ってきたのは予想とは違う言葉だったんだ。
「は? なに猫さん喋れんのかよお前。すげえな! つーかなんだよ、そのどこぞの淫獣みてえなセリフ! 魔法少女? はー、マジで淫獣がスカウトにくんのなー……アニメみてえ! クソうける!」
驚愕したね。事もあろうに美少女の口から『淫獣』等という恐ろしい単語が飛び出してきやがるんだもん、猫さんびっくりしちゃったよ。
「お、女の子が淫獣とかいっちゃいけません!」
「ん? 違ったっけ? ちい兄がケミカルナノカのイタチ見ながらそんな事いってたんだけどなあ……」
どうやら言葉の意味を知らずに使ってしまっているらしいんだな。だもんでよ、その意味を詳しく手取り足取り実践を交えて丁寧に説明してやろうと思ったんだが……辛うじて思いとどまった。
(あぶねーあぶねー。無知ックス、いいですよねーってなっちまった。非常に惜しいが、今優先すべきは勧誘だよな!)
必死に自分を抑えてよ、こほんと咳払いを1つ放って何もなかったかのように改めて勧誘をしたのさ。けど、アカリのやつ、頑なにウンといいやがらねえ。そればかりか現実ってもんを俺に叩きつけてきやがったのよ。
「だからならねーっつってんだろ? 何を勘違いしてんのか知らねえけど、ペリチュアに憧れるのは幼女なの! いいとこ小1くらいまでじゃねえの?」
「えっ……まじで?」
「マジだよ、マジマジ。まあ、ペリチュアがほんとにいるってのには驚いたけど……サンタさんや妖怪が居るくらいなんだ、そういうこともあるんだろうな。でもね、あたしにペリチュアは無理だから。わりいけど、他の子のとこにでも行ってくれや」
(あっ、この子サンタさんまだ信じてるんだ、かわい)
なんてほっこりしちゃったがね、なるほどそうか、そうまでしてなりたくねーかと。確かに世の中のリサーチをしっかり出来てなかった俺が悪い。けれど、こっちにも事情があるってわけでよ、こちらからもしっかり現実ってやつを叩きつけてやったのよ。
「まあ、なんつーかその、実はな? もうお前は俺と契約済みなんだよなあ……まさか断られるとは思わなかったからさあ、効率を考えて先に契約してから声かけたっつーの? てわけで、わりーな、お前はもう既に俺の使徒。魔法少女になっちまってんだわー。なんつーか、今後ともよろしくな?」
「はあ? な、ななな、なにしてくれてんじゃああああああああ! こんにゃろおおおお!」
と、真実を明かされたアカリは一瞬でブチ切れた。俺が反応できない速度で背中をムンズと掴んでそのまま冬の海に投げ捨てようとしやがった。
そのときだ。
一人と一匹の足元にまばゆく輝く魔法陣が現れたんだ。
「おいくそ! なんだこれ! あ、てめえ、さては早速エッチな変身バンク決めさせようとしてんだな! おいコラ止めろ! 本気で沖までぶん投げっぞ!?」
「だからその言い方やめろって! つーか、まてよちげーよ俺じゃねえ! なんだこれ、なんだこれ! なあにいこれえぇぇぇ…………」
そして一人と一匹は強烈な光の柱に飲み込まれ。もはや目も開けられぬほどの光量にギュッと目をつぶって、ただひたすらに現象が終りを迎えるのを待ち続けた。
それは数秒のような、数分のような……まあ、とにかく光が収った事を悟った俺たちはゆっくりとまぶたを開けたんだ。
俺たちの目に映ったものは冬の浜辺なんてものではなく……柔らかな春の風が頬をくすぐる見知らぬ草原だったのである……ってな感じでよお、冒頭に繋がるわけなんだが。
さて、いったいどうしてこうなってしまったのだろうねえ……。
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