2 シャロくん日本に降り立つ

 ユリカゴに降り立てたならまずは一安心だ。あとは上手く活動すれば原住民から信仰心が得られるわけで、我々神族はそいつを神力としてチャージすることが出来るからな。


 信仰心――感謝の気持、畏れや崇拝等、知的生命体が持つ様々な感情エネルギーは管理神が色々やらかすために必要不可欠なリソースになるんだ。


 地球って言う場所は妙な文化が多数生まれるユニークなユリカゴだ。中でも強烈だと言われている日本での活動許可が降りたわけだよ? 八百万の神々とか言って、いろんな神を別け隔てなくその場のノリで信仰しちゃうような凄まじいエリアなんだぜ? そんな場所ならさ、ちーっと頑張れば1200年と言わず、1年位でマイユリカゴに帰れるだけのリソースが貯まりそうじゃんな。


 アマテラさんと話がついた時にゃあ『ヒャッハー! 新鮮な信仰心だぜえ!』って興奮したのを覚えているよ。


 けどな、この哀れな猫畜生を待っていたのは非常な現実だったんだよ。


 クソ上司のせいで本来の姿をとれない畜生はどこからどう見てもただの猫。多数のユリカゴを騒がせた銀河美管理神も今やただのモフモフだ。んなもん信仰する者は居ない……とは言い切れないが、多くはないだろ?


 布教のためにあちこち回ってみたんだけどさあ、無視をされるのはまあいい方でな。ただそこにいただけなのに水をかけられたりさ、酷いときなんか、エアガンでハチの巣にされた事だってあったよ。

 

 あまりにも扱いがひでーからさ、一度『何しやがる、我神ぞ?』なんて言って、ふんぞり返ってみたんだよな。喋ってみせたら畏れて敬ってくれるかなーって思ったんだけど、大失敗だよ。驚いた顔をしやがったから(おっ、いけるか?)って思ったら掴みかかってきたのよ。マジかって動揺しているうちにあっさり捕まっちまってな。3日ばかり監禁先の倉庫で過ごす羽目になったわけ。


 そう、監禁は3日で済んだんだ。だって逃げたもん。やべー話しやがってるからさ、貴重なリソースを使って収納ケースぶっ壊して逃げたんだよ!


 実験動物にされかけたのかって? いいや違う。


『あれ、これって高額転売されてる人気のおもちゃじゃね?』


 なんて、間抜けが言い出してな、間抜けの仲間も『そういやそんなのあったな! おしゃべりキャッツのミューちゃんじゃん! シロだし10万は堅いぞ!』なんて乗りに乗ってさ。フリマアプリに商品登録されちまったのよ。誰がミューちゃんじゃい! 俺はシャロくんだっつーの!


 流石に知らねえ誰かの所に出荷されんのは嫌だからな! あばよって逃げ出したってわけ。


 逃げた後は信仰心を得るためにあっちへこっちへと旅の再開だ。


 流浪の旅は悪いこともあったが良いこともあった。この体もさ、悪いことばかりじゃなくって、それはそれでオネーチャンたちからちやほやされたりさ、猫好きの人らに良くしてもらったりもしたんだ。ほんの僅かではあるけれど、それでもリソースが稼げるから悪い生活じゃあなかったよ。


 それに……なにより、俺の運命を変える素晴らしい閃きと出会いがあったからな。


 あっちのおうち、こっちのおうち、って渡り歩きながら旅を続けている内、覗き見したテレビやたらスマホやらなんやらから得られた日本の知識が溜まってくわけよ。技術的な事は勿論、ゲームやらアニメやらの知識もたーっぷり蓄えられちまった。


 まあ、そのオタ知識がけっこう馬鹿に出来なくてな? ある朝、俺は天啓を得たんだ。神だけど、天からビビビっと来たんだからしょうがねえじゃん?


『魔法少女! そういうものもあるのか!』


 思わず心の中で歓喜の声を上げちゃったね。オタネさんの家の軒先で。


 オタネさんからちゅるちゅるなる甘露を貰いながらも俺の目はテレビに釘付けだった。


 テレビに映っていたのは魔法少女物のアニメだ。精霊神が眷属の神獣に命じてうら若い美少女に声をかけさせてよ、うまいこと誑かしてペリチュアなる超常の力を持つ使徒にする契約を結ばせるんだ。


 ぺリチュアが討伐した魔物からはリソースが得られ、それは神獣を通じて神界へと至る。そのリソースをもって消耗した神界の修復を進め、来るべき邪神との決戦に備える、そんな感じの説明がされててなあ。


(これだよ、これ! 美少女にご奉仕されてリソースを得る! 俺が求めてたのはこういう事だよ! なんて素晴らしいシステムを考え付くんだよ、地球のヒューマンはよお)


 ビビビッと来た俺はリソースの残量を計算し、計画を練ったんだ。


(情けで残されてた神力とコツコツためたの合わせたGPは5000とちょっと。あっちに転移するには100万は必要で、現状稼げるのは良くて年に20くらいだろ? このペースだとどう考えても1200年どころじゃ済まねえわ)


 ――だったら、今の神力をベットして稼ぎのネタを得る賭けに出ようじゃないか。


 残存する神力のうち200GP程は俺という存在を維持するためにプールしておく必要があるが、残りの4800GPなら全部つっこんでも問題はねえ。それだけGPを使えりゃあ、ヒューマン一人くらいなら第2種使徒として認定出来るし、ちょっとした加護――異能の力を与えることだって出来ちまう。


 そう、魔法少女の一人や二人でっちあげることなんて容易い事ってわけ。


(ええとお、可愛くてえ、おしとやかでえ、優しくてえ、ちょっとエッチな衣装を着ててえ……んで、邪を祓ったり良いことをすると何故かリソースを得られるような謎仕様でえ……)


 『ぼくのかんがえたさいつよの魔法少女』について練りに練り上げたさ、オタネさんの膝の上でな。今のリソースで作れる魔法少女は一人だけ。流石の俺も今回ばかりは慎重にならざる得ねえ。


 んで、ある程度計画がまとまったんで、美少女探し……もとい、適格者を探す旅に出たんだが……そこで出会ったのが今俺の隣でブツクサ言ってる女の子なんだよなあ。

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