第154話 新しい冒険者ギルド

 馬車を降りて一目散にアルベドが向かったのは見知らぬ真新しい建物だった。

 いや、見知らぬ、ではないか。出入りしている人たちに見覚えがあるし、場所自体は変わっていない。



「これ、新しい冒険者ギルド?」

「そうみたい」



 俺が尋ねるとローザはそう答えた。


 かつてボルドリーがホムンクルスの襲撃に遭ったときに冒険者ギルドは崩壊し、一時は仮設の場所で運営していたけれど、そうか、そんなに時間が経ったか、としみじみしている場合ではない。


 俺たちが、と言うよりアルベド探知機が追っているのは『箱』だ。



「え? じゃあ冒険者ギルドの中に『箱』があるってことか? 建て直したのに?」

「……ハリーに話を聞かないとね」



 ローザはギルドマスターの名前を出した。

 あの人、ホムンクルスについて知らないとか言ってなかったっけ?


 アルベドはすでにずかずかと建物の中に入って受付を乗り越えようとしていて、冒険者たちに首根っこを捕まえて止められている。


 そこに俺たちが近づくと、冒険者の一部と、受付の男性が気がついたようなので事情を説明してアルベドを降ろしてもらい、ハリーを呼んでもらった。



「いやあ、お久しぶりっス。お変わりなくて安心したっスよ。いや変わってるのかもしれないっスけどよくわかんねえっス」



 と、ボルドリーのギルドマスターことハリーは適当なことを言って、俺を見てローザをみて、それから、俺が捕まえているアルベドをみてからぎょっとした。



「……アルベドっスか?」

「やあハッリー。お前こんなとこで働いてたのか。元気だった!?」



 知りあいかよ。

 しかも、また変なあだ名つけてるし。

 と言うことは。



「ホムンクルスについて知らないってのは嘘だったんですね」

「んー。まあ裏で話すっス。俺としてはニコラたちがコイツと一緒にいるって方が驚きっスけど、とは言え、例の件があったっスからね。ある意味必然なのかもしれないっス」



 ハリーは余裕そうだったし、まったく後ろめたい様子を感じられなかった。それが『七賢人』的な余裕なのか、それとも別に理由があるのかまったく掴めない。


 そもそもハリーは基本飄々としていて、もし『七賢人』のヤバい奴だったとしても「まずいっスねえ」くらいの反応しかしない気がする。


 とは言え、アルベドとは旧知の仲であるようだし、嫌いあっている訳でもなさそうだから『七賢人』側である可能性は薄れるだろう。


 そう思いながらハリーについていくと、案内されたのは、上の階にあるギルドマスターの部屋で、どうして俺はここ数日トップの部屋に縁があるのかと少し疑問だった。


 問題ばっかり起こしてるみたいじゃないか。


 ハリーは俺たちをソファに促して、向かいに座ると「ふう」と息を吐きだした後に、



「関係は順調っスか?」



 そう尋ねた。

 アルベドとの関係だろうか?

 どうしてそれを聞く?



「いや、関係と言われても……」

「んー? んー? ああ、そういうことっスか。いやあ、ローザ様も大変っスねえ。大変っスけど、こういうパターンの場合、コロッとポッと出の奴に奪われたりすることもあるっスよ。首輪つけといた方がいいんじゃないっスか」

「なんの話してるんです?」



 俺は首を傾げたが、ローザは思案顔をしているし、グレンはローザに「止めろ」という視線を送っていてその意味をわかっているらしい。


 俺がローザに「なんの話してるの?」と聞くと(ハリーは完全に呆れた顔をしていたが)彼女は、「首輪かあ」と呟いて、



「キカも言ってたからいい方法なのかもね」

「その名前、ものすごく嫌なんだけど……もしかして俺に首輪つけようとしてる?」

「鞭の使い方も習ったし」

「おい! キカに何を教わったんだ!? もう教えることはないってもしかしてそういうのも含むんじゃないだろうな!?」



 余計なことを教えやがって!

 

 いつかローザを生け贄に捧げるとかキカに言ってしまって俺は最悪だと思ったけど、どうもこの二人は良好な関係を築いていたらしいからただの杞憂だったな。

 

 良好といっていいのか解らないけど――もしかしたら周囲にとっては悪質な関係かもしれないけど。


 キカみたいなのが二人になるとか絶対嫌だ。

 あの女、顔見知りでもない奴にも突っかかっていじめて喜んでるから。


 早くあの街から出て行け。

 シニスターとデクスターだけをいじめてればいいんだよ――あいつら喜んでんだから。


 俺が苦い顔をしていると、同じような顔をしている奴がいた――ハリーだった。



「うえ、ローザ様、キカに教わったんっスか?」

「ええ。いろいろと。……知り合いなのね」

「まあ、そうっス。アイツ元気っスか。シニスターとデクスターも。……元気じゃなければいいのに」



 その苦笑はハリーにしては珍しい表情だったけれど、まあ、その反応を見る限りかの女の所業については知っているようだから、ますます『七賢人』側だという疑念が薄まっていく。


 薄まったからと言って、じゃあどうして知っているのかと言うのは未だ解らず、俺がチラリとアルベドを見ると(相変わらず彼女はソファに寝転がっている)ハリーは続けた。



「俺はキカと同じく『ルベドの子供たち』を補佐する仕事をしてたっス。と言うかまあ、今も細々とではあるっスがしてるっスけど。ああ……どこまで話すっスかねえ。ニコラたちはどこまで知ってるっスか? いやアルベド連れてる時点で相当ではあるっスけど」



 取りあえず俺は今まであったことをかいつまんでハリーに話した――『ルベドの子供たち』やらアルベドとの出会いやらについて。



「はあ、そういうことっスか。ずいぶん踏み込んだっスね」

「踏み込んだというか、足を奪われたというか。俺だって別に好きでこうしている訳じゃないんですけど、あれよあれよという間に自分の出生にまで関係していると知ってしまった感じです」

「不運っスね。そういう星の下に生まれてきたのかもしれないっスけど。そうっすかそれでこの辺りにやってきたんっスね。で、アルベドの『箱』を探知する力でギルドまでやってきたわけっスか」



『箱』について話題が進むとアルベドがばっと身体を起こして、



「そう! 『箱』はどこにあるの!? ルベドに相当近い『箱』だよね!?」

「それも含めてちゃんと話すっス。うーん。まあ気づいてるとは思うんスけどね」



 ハリーは言って、俺たちを見た。



「俺たちは元々大教会で働いていたんスよ」

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