第128話 地下への扉は遠い
門をくぐり抜けるとすぐにケイトは彼女が連れ来たメイドとともに城の方へと歩いて行った。テディは別の場所から壁を乗り越えた魔物に指示をする。オオカミの魔物は鼻をクンクン言わせて地面の匂いを嗅いでいたが、まだここではわからないようだった。
遠くから見ていたものの城はやはり大きく俺はほとんど真上を見るような形で見上げる。このどこかにアリソンがいるのだろうけれど、こう大きくてはどうしようもないのではないか?
そう思っていると城の中から一人メイドが現れて走ってきた。どうやら門から入ってきたケイトたちをみてやってきたらしい。彼女はケイトの前で立ち止まると肩で息をして膝に手をついた。ケイトが首を傾げる。
「あら、あなたはペネロペの……」
「はい。専属メイドです。大変なことになりました、ケイト様。ペネロペ様はいま部屋から動けません。ウィルフリッド様に軟禁されているんです」
「やっぱりあいつだったのね。それで、アリソンは?」
ケイトが尋ねるとメイドは大きく深呼吸をして、
「アリソン様はともに地下に降りて……、ペネロペ様は部屋に戻されたのですが、アリソン様は行方知れずです。おそらくはウィルフリッド様に地下に閉じ込められているんじゃないかと」
「なんてこと……」
ケイトは少し考え込んでから眉間にシワを寄せて言った。
「……ロジャーは何をしてるの?」
「ええと、一応は動いてくれているみたいですが、ウィルフリッド様からは黙殺されているようです」
ケイトはため息を吐くと首を横に振った。
「いいわ。あなたにお願いがあるの。テディたちをその地下の入り口につれていってもらえる?」
「あそこはいまかなり厳重に警備されていますよ? なんでも重要なお客様がいらっしゃったからと言うことですが」
「大丈夫。場所だけわかればなんとかするから」
俺はそれをきいて無茶を言うなと思ったけれど、なんとかしないと先には進めないと思い直した。メイドは頷いて「わかりました」とつぶやいた。
「私は計画通り、王に話をしてくるわ。じゃあ後は頼んだわね」
ケイトはそういって自分のメイドを引き連れて城へと進んでいく。
残ったメイドはテディを連れて歩き始めたが、「テディたちって言ってた。一人なのに?」とかなんとかつぶやいていた。俺たちの姿は見えないからな。
城に入ってすぐは板張りの床だったけれど、メイドについて歩いて行くと石造りの床になって、壁も年期が入ったものに変わっていく。どうやら地下への扉に近づくにつれて人があまり使わない場所になっていくようで、砂埃なんかが目立ち始める。廊下を進んでいたペネロペ専属のメイドがピタッと足を止めた。
「ここから先は警備の騎士たちがいます。ウィルフリッド様が指揮している騎士です。あそこの曲がり角に一人立っているのが見えるでしょう?」
メイドはテディに向けて小声で話した。テディが視線を向けたのと同じように俺も向けるとたしかにそこには軽装ではあるものの、恰幅がよくそこらの成人男性くらいなら片手でひねり倒せてしまうような男が立っている。テディは俺たちの方を見て言った。
「どうする?」
「誰に話しているんです?」
メイドが怪訝な顔をしている。テディは一瞬どう話そうか悩んでいるみたいに考えていたが、結局、
「ここまで案内してくれてありがとう。後は俺たちでやるから」
とメイドに告げた。説明めんどくさがりやがったな。メイドはもちろんそれでは納得しない。
「俺たちって他に誰がいるんです?」
「俺とほらこいつらだよ。かわいらしいだろ」
メイドはさらに眉根を寄せたが、ため息をつくと、
「ここからは私ではどうすることも出来ません。あなたが……あなたたちが頼りです。ペネロペ様もアリソン様を案じています。どうかよろしくお願いいたします」
そう深々と頭を下げた。テディが「わかった」とつぶやくと、メイドは何度も振り返りながらその場を立ち去った。
「で、どうする」
改めてテディが俺たちに言う。トモアキがいつの間にか偵察に行っていたようで、俺の頭の中にささやいた。
〝曲がり角のも含めて、廊下に騎士は五人。地下に続くらしい扉の前に二人立っている〟
そのままテディに告げると彼はうなった。
「手持ちの魔物で三人なら眠らせられるが……。五人は無理だ」
「十分だ」
といつの間にか戻ってきていたトモアキが姿を現して言った。
「扉の前の二人だけ眠らせれば何とかなる」
「そこまではどうやって行くんです?」
俺もジェナにいって姿を現すと尋ねた。
「拙者がテディ殿も隠そう。長時間は無理だが、廊下を渡るくらいなら走れば可能だ。テディ殿は扉の前にいる二人を眠らせる準備をしていてほしい。ニコラ殿は《幻影》を作る準備を」
ぶっつけ本番かよ。俺は焦りながらも、海岸でトモアキに教わった方法を思い出していた……。
――――――――――――――――――――――――
次回更新は土曜です。
6月23日(金)に2巻発売しました。よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます