第127話 城に入る計画

 俺はジェナに体を隠すように言ったが、すでに遅い、というか、オオカミたちがこれだけ群がっている以上意味はない。

 

 男は俺たちのそばまで来ると、くわのような物を向けた。彼の後ろには別の魔物がいる。でかいクマの魔物だった。俺がアリソンと出会ったときに倒したレッドグリズリーと同じくらい大きい。


 男は俺をにらんだ。


「お前はどうしてここにいる!? アリソンに何をした!」


 答えを間違えればすぐにでも襲ってきそうだった。目は血走り、くわを握りしめる手は力を入れすぎて真っ白になっている。俺は唾を飲み込んで、なんとか口を開いた。


「別に何もしていない。俺はアリソンの知り合いなんだ」

「じゃあどうしてむしり取った髪の毛なんか持ってる! 人質にするつもりだろう! ほしいのは金か!?」

「むしりとってねえ!」


 俺は布を開いて髪をみせた。切り取った髪だがそれでも男は表情を変えなかった。


「切ったことに変わりはない! アリソンを返すんだ! 居場所を吐け!!」


 ……なんだかおかしな状況になっている。


「アリソンは……ここにいるんじゃないのか?」

「何をいまさら! お前が拘束したんだろう!」


 俺はけんしわを寄せ、考え込んだ。男は俺の反応が予想外だったのか、少しだけくわを下げる。彼の後ろにいた魔物は相変わらず俺をじっと見ていたが。男は俺に尋ねた。


「お前、本当にアリソンを連れて行った訳じゃないのか?」

「俺はさっきここについたばかりだ。アリソンとは島の外……というより下でパーティを組んでいた。髪は別れる時に交換したんだよ。もう一度パーティを組めるようにって」


 俺のよろいの下でジェナがため息をつくのが聞こえる。なんだ。

 男は俺をじっと見て、口元のマスクをみた。


「だからそれをつけてるのか。顔を隠すためだとばかり」


 俺は呼吸用のマスクに触れた。まあ、たしかにこれで顔の半分は隠れてしまっているからな。それに俺たちは不法侵入している。警戒されても仕方はない。


「俺はアリソンに会いに来たんだ。……アリソンが拘束されたっていうのは?」


 男は俺をじっと見ると話してもいいだろうと判断したのか口を開いた。


「二日前、アリソンは城に向かったんだ。城の地下で何かが起きていると考えたんだろう。島が崩れている原因だとアリソンは考えているみたいだった。城にむかって、少し調べるといっていたが、それから戻ってこない。だから捕まったんだと思っている……。ちょうどいま城にむかう準備をしていたんだ」


 アリソンも島が崩れる原因に行き着いたんだ。それが『箱』なんていう物だとは知らないだろうけれど。


「俺たちも城に向かう。その地下にある物について、詳しく知りたいんだけど」

「それはケイトの方がよく知っている。……その前に、お前名前は?」


 俺が名乗ると男はテディだと自己紹介した。その瞬間、トモアキがいきなり姿を現してテディはぎょっとした。トモアキも名を名乗ると、テディは固まったままうなずいた。




 ケイトと呼ばれる女性は城にほど近い場所に住む女性で六十から七十歳くらいだろうとおもった。彼女は俺を見て、それからテディに何があったのかを尋ねた。俺がアリソンの髪を持っていたこと、元パーティであることを彼が話すと、ケイトはちょっと申し訳なさそうなというより、慰めるような顔をしてテディの肩に触れた。そこにどういう意味があるのか俺はわからず首をかしげる。


「いらっしゃい、ニコラ。それから、トモアキ。私たちもアリソンが心配で準備をしていたところなの。でもまずはこれが何なのか教えてくれるかしら? 知っているのなら、だけど」


 すぐに地下に案内され、俺はそれを目撃した。地下室にあいた大きな穴そこから黒い根のような物が飛び出している。


〝『箱』が確実にあるな〟


 トモアキが俺にだけつぶやいた。ケイトは当然気づくことなく、俺に言った。


「アリソンが城にいってからまたこれが動いたのよ。はじめは穴の奥にこれがあったのに今は地下室にまで侵入してきちゃって……」


 アリソンが『箱』に関わったのではないかという可能性がますます濃厚になってきた。


 トモアキは口を開かないので、代わりに俺が二人にこの黒い物体、『箱』について説明する。テディはけんしわを寄せた。


「じゃあ、この根の源にホムンクルスを作り出す『箱』があるってことか。それが城の地下にあって、アリソンは関わってしまった……」


 俺がうなずくとケイトがかなり慌てた。


「早くアリソンを助けに行かないと。思っていたより深刻だわ……」

「問題はどうやって中に入るかだな」テディが俺たちを見て続けた、「二人は城の関係者じゃないだろう? どうやって入るつもりだったんだ?」


 俺はトモアキと顔を見合わせて、それからジェナに頼んで姿を消した。ケイトとテディの驚く顔が見える。姿を現すとテディは大きくうなずいた。


「だからさっき突然現れたんだな。そういうことか。壁は乗り越えたみたいだが、俺たちがいればその必要はない。さっきよりスムーズに入れるはずだ」


 それから、ケイトとテディが元々計画していたアリソン救出について聞くことになった。テディはオオカミの魔物をつれてアリソンの匂いをたどり、彼女の居場所を探るつもりだったらしい。それに身を守るためにいくつかの魔物を用意していた。彼の肩には、目が大きく、猫のようにとがった耳を持つ魔物が乗っている。両手がかぎ爪のようになっていて、しっかりと肩に捕まっている。


「こいつはかなり危険な魔物なんだ。基本臆病で逃げることが多いんだが、いざ攻撃するとかなりの魔法を使ってくれる」


 テディはそう説明した。彼は他にも何匹か魔物を連れていくようだった。門番に気づかれないよう土の中や、空から城に入るらしい。


 対してケイトは王に直接話をしに行くと言っていた。


「私は話すことしかできないからね。島の根幹にかかわることなら王が知っているはずよ。話してみるわ」


 そんなに簡単に王と話すことが出来るなんて何者だとおもったが、すぐに行動が開始されてしまって尋ねることが出来なかった。


 テディは連れてきた魔物に頭の中で指示を出しているのか、口も開かず一体ずつ目を合わせている。視線をらすとすぐにその魔物は家から離れて城の方へと向かっていく。最後に残ったのは一匹のオオカミの魔物と先ほどからずっと肩に乗っている小さな魔物だけになった。


 指示を終えたテディは俺とトモアキの方をみた。


「よし。二人は身を隠してついてきてくれ。俺とケイトが門を開ける」


 こうして俺たちはついに城の中へと足を踏み入れた。


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次回更新は土曜です。

6月23日(金)に2巻発売しました。よろしくお願いします。

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