第100話 ノルデアへ【アリソン視点】
時間は
『もうすぐつくわよ』
グリフォンは言ったが、アリソンは吹き付ける風に顔をしかめ、
グリフォンはこんな風など何度も体験したとでも言うようにすいすいと羽ばたいて、ついに島の上、雲よりも高い場所にたどり着いた。途端、渦巻くような風はやみ、暖かな日差しが降り注いできた。アリソンは安心してほっと
「一時はどうなることかと思ったけど……。ここがノルデアなの、ビー?」
旅の途中でグリフォンの名前がビーだと聞いていた。
『そう。空に浮かぶ島』
ビーがくちばしで羽を整えている間、アリソンはあたりを見回していた。そこは港のような場所だった。島から桟橋のようなものが伸びていて、魔道具でできた船だろうか、人やものが数人乗れる乗り物が係留してある。と言って桟橋の向こうにあるのは海ではなく空と言うか雲海なのだけど。
ルフと呼ばれる巨大な鳥の魔物が餌をもらっていて、あれもノルデアに来る一つの方法なんだろうとアリソンは思った。と言うか多分そちらのほうが主流だ。グリフォンに乗って来る人間はそういないみたいで、荷物を運んでいた人々がアリソンたちのほうを見て驚いている。正確にはビーのほうを見て目を見開いている。
「なにをじろじろ見てるんだろうな」
いつの間にか、人型になったコルネリアが隣に立っていた。彼女もうんと背伸びをする。褐色の肌は健康的に見える。短い白髪が太陽の光に輝いている。ビーに乗っているときはずっと盾の姿だったので窮屈だったのだろう。彼女は人型で過ごす時間のほうが長かった。
それには、アリソンの魔力量が関係していた。
アリソンは生まれつき魔力量が少なかった。つまり魔法を使う機会が少なく、コルネリアが盾になるのは一日に数回、それも短時間だけだった。そもそも、アリソンは小さな魔法なら人型のコルネリアに触れるだけで発動できる。それがさらに盾にならずに過ごす要因になっていた。
アリソンがノルデアに来たのは、魔物をテイミングしてその魔力を使う術を手に入れるためだ。魔力を得れば魔法を使える。ニコラに依存せずとも、自分の力で魔法を。
ビーが羽の手入れを終えたあたりで、港の向こうから一人の男が走ってきた。中肉中背で酔っ払っているのではないかと思うくらいに赤ら顔。着ている服は
男はふうふうと息を切らしてアリソンたちの前にやってくると頭を下げた。
「いやいやビー様にまたお目にかかれるとは思ってもみませんでした。本日はドラゴンのあの方は一緒ではないのですね?」
『残念ながらね』
ビーはため息を吐くようにそう言った。
「いえいえ、残念ではありませんよ。ビー様も十分魔力の高いほうですから。城にご案内いたしましょう。王もお話したいでしょうから」
さあさあ、と彼は歩き始めた。アリソンは首をかしげた。
「王って……、ここは国なの?」
『昔の
ビーはアリソンに近づくと軽く
『嫌な
「どうして?」
『彼らは魔力至上主義者よ。魔力の強い者こそ優秀で弱い者は劣っていると考えてるの。ああ、本当に会いたくなかったわ』
「つまり、ここでは私は劣った者としてみられるわけね」
ニコラに出会う前の状況と同じわけだ。ジェイソンや父親とも似ている。魔力が少なく何もできないとはなから思われるんだろう。
「ま、でも昔とは違うだろ」
コルネリアは言ってにっと笑った。アリソンは胸の
「ええ、昔とは違う。テイミングを身につけて、ここでもそれを証明する」
「おお、その意気だ」
コルネリアは快活に笑った。
港のような島の端から歩いて進むと、この空に浮かぶ島がどれだけ大きいのかよくわかる。広さだけではなく高さもある。おそらく、元々山だったのを何層にも重なる建物で覆ったのだろう。島全体が一つの
人口はどのくらいなのだろう、と思いながらアリソンは歩く。塔に向かうということは上り坂を延々と登ると言うことだ。なかなかに辛い。前を進む男は《身体強化》でも使っているのだろう、すいすいと疲れた様子もなく進むが、アリソンはまだ歩き始めて少ししか
いや、疲れだけじゃない。足下がおぼつかない。目の前がぐるぐる回っている。そこでビーがぎょっとした。
『あ! ごめんなさい! 高山病対策を忘れてた!!』
アリソンはふらついてぐったりとビーに体を預けた。
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次回は土曜日更新です。
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