第87話 セブンス【改稿済】
「ヒルデ、魔力を送るから俺ごと隠してくれ」
「わかったあ」
眠そうな声を出す彼女の手を握り魔力を送る。これで姿が隠れているのだろうか。《探知》を使うとわずかに俺のまわりに魔力の流れが見える。多分むこうからは見えないのだろう。
馬車から人が降りる音、ドアが開いて西日のオレンジが家の中に差し込んでくる。俺は息を殺して待っている。光を遮るように一人の女性が入ってきた。
シスターだ。
俺たちに気づいた様子はない。彼女の後ろからゴドフリーが両手をもみながら入ってくる。
「もうすぐ来ると思いますので」
「わかりました。あなたは外で待っていなさい」
シスターの言葉にゴドフリーは
今だ。
立ち上がるとヒルデと俺で別々に行動した。まずはヒルデがシスターの持つ本のサーバントを取り上げる。ぎょっとしたシスターの体を俺がロープで拘束し、その間にヒルデがサーバントにロープを巻き付け開かないようにする。このときばかりはヒルデもしっかりと仕事をしてくれた。サーバントを縛ったままシスターから離れた場所に置くと、「疲れた」といってぐだぐだしはじめたが。
シスターは体をぐいぐい動かしていたが、しばらくして抵抗をやめた。
「隠れていたんですね。おかしいと思ったんです。椅子には
「呪われたらたまったものじゃないからな」
俺はヒルデを背負ってシスターのそばまでやってくる。シスターは縛られているにも関わらずかなり冷静な様子で、その細い目で
「そんなすぐに呪いませんよ。あれはあれでかなり魔力を消費しますから。それに今日はお話をするということでしたよね。どうです、そこに座って話しませんか?」
「遠慮する」
俺はヒルデを背負い直す。このシスター、何を考えているのか表情からは全く読み取れない。サーバントの男も縛られた本の形のまま全く動かない。シスターは俺を見上げると言った。
「自己紹介がまだでしたね。といって名乗る名前もありません。ワタクシのことは、そう、『セブンス』とでも呼んでください。皆からそう呼ばれているので」
何が七番目なんだろう。そう思っていると、セブンスは尋ねた。
「あなたの名前は?」
「……ニコラだ」
「そう、ニコラ。よろしく。お話、というのはヒルデを返してくれるというものではないのでしょう? ワタクシにもそれくらいはわかります。こんな場を用意してワタクシを縛って、何が目的なんでしょう?」
俺はいきなり本題に入った。彼女と長話をするつもりはない。とっととここからでていきたい。
「ホムンクルスについて聞きたい」
「さて、何を?」
「教会がホムンクルスを作っているんだろ? ヒルデもお前が作り出したんだろう。100年も前に。昔から作っていたことはわかった。じゃあ、どうして今になって、ボルドリーやアルコラーダ周辺に放ったんだ?」
セブンスの目は細く、どこをみているのか分からない。
「さて何の話でしょう」
「とぼけるな」
「いえ、とぼけてなどいませんよ。ワタクシはいつだって本気です。ボルドリー? アルコラーダは聞いたことがありますが、そんな遠く離れた場所の話なんて知るはずがないでしょう?」
「俺が言ってるのは、教会が組織的にホムンクルスを作り出して街を襲ってるんじゃないかってことだ」
セブンスは首をかしげて、そのまま固まった。いつかと同じ格好だ。
「さあ、そんな計画は知りませんね。確かにホムンクルスを作る術を七賢人はもっていますが、それはそれぞれに与えられた力です。つまり七賢人の誰かが勝手にやった可能性はありますが組織的におこなった訳ではないのです。何か必要にせまられてやったのでしょう」
「……お前たちの目的はなんなんだ?」
セブンスは首をかしげたまま考え込むようにして言った。
「さて説明するのは難しいですね。救済、でしょうか? 是正でしょうか? 言葉ではすべてを伝えることはできません。きっとそこには私の主観と、そして、あなたの主観が入るでしょうから。体験をもって理解していただくしかありません」
ひどく回りくどく、本質的ではないことを言う。セブンスはロープの中で身じろいで座り直すと深くため息を吐いた。俺はもう一度言葉をかえて彼女に尋ねた。
「『箱』を守っているとゴドフリーは言った。それはこの街にあると。害があるなら破壊するつもりだ。……お前たちは一体何をしようとしている?」
「そこまで話したんですか」
セブンスは扉の方へと視線をむけた。外にある馬車の中にはゴドフリーが乗っている。
セブンスは俺の方へとその真っ黒な眼球を向けると、言った。
「『箱』を壊されるのは困りますね。それにヒルデも返してもらわなければ……ただ……」
ヒルデが俺の肩をギュッと
「一つ確認したいことがあります。ニコラ、あなたについてです」
俺は眉根を寄せた。何の関係がある?
「あなたはサーバントを持っていませんね? にもかかわらず、魔法を使っている」
セブンスはその真っ黒な目を開いた。体の中を見透かされているようなそんな寒気が背筋を走る。
「魔力が循環しているのが見えます。それも、血管の形に。体中を巡っている。どうしてでしょう?」
「それは今の話に重要なことなのか?」
「ええ、とても」
俺は
「アニミウムが血液にある。だから魔力が循環している」
「ああ、やはり。ワタクシの目に狂いはなかった」
セブンスはその真っ黒な目を開いたまま、口角をぐっとあげた。
ゾクリと寒気がした。
「ヒルデは渡しましょう。仕方がありません。その代わり、ニコラ、ワタクシたちの仲間になりませんか? あなたなら『ファースト』に……いえ、もっと先に行ける」
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